統一暦499年9月15日午後5時40分

 恵吏えりは施設の中央にある大きな研究室に着いた。ドーム状の部屋の中央には何本ものケーブルが繋げられた機械が置かれている。これが神の器の試作というやつなのか?

 とりあえず端末を装置に接続してデータの抽出を始める。

「どうやって帰ろう……。」

 喫緊の課題が終わったことで急に現実的な問題が気になってきた。

 ちょうど全てのデータを取り込み終わったところで紅音あかね栖佳羅すからがやってきた。

「えりりん!大丈夫?!」

 紅音は恵吏を見るなり飛びついてきた。

「大丈夫。ていうかどうやってあの道通ったの?完全に閉じてたけど。」

 栖佳羅が答える。

「無理に変形させられたせいでかなり大きい亀裂ができていたのでそこから。作業は終わりましたか?なら、早くこれを処理して帰りましょう。」

 そう言って栖佳羅が取り出したのは小型の爆弾だった。

 作戦の最後、試作品の神の器を実験室のデータ端末ごと破壊する。これで人工天使計画に先を越されることはまずなくなるだろう。


統一暦499年9月15日午後5時50分

 爆弾の設置が完了し、なんとかして帰りのロケットに忍び込むために急ぐ。そろそろ貨物の置いてある区画に着く。そこから適当な貨物に忍び込んで運んでもらおうという算段だ。

「終わった?」

 そう言って3人の前に現れたのは琉吏るりだった。紅音と栖佳羅は思わず顔がこわばる。恵吏は言う。

「まだ何か用?」

「うん、一つだけ。お父さんの話なんだけど。……あの神の器がお父さん、て言っても信じてもらえないよね。」

 恵吏は心臓が止まるかと思った。こんな嘘をつく理由はない。理由もなくそんな馬鹿げた嘘をつくわけがない。これは真実である可能性が高いということだ。

「……そんなわけ……。」

「あいつは人じゃなくなった。死んだようなもの。だから、早くこの手で送ってあげたかった。……でも、私にはそんな覚悟できなかった。………だから、」

 爆弾は10分後に爆発するように設定していた。ちょうど10分経った頃だった。

 大きな爆発音が聞こえた。

「そ……んな…………。」

「私の代わりにあいつを逝かせてくれて、ありがとう。それだけ。」

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