アメリカにて
統一暦499年8月15日午後1時12分
日付変更線というのは時に面白い現象を起こす。
太平洋上を縦断するそれは、西から東へと横切ると、時間が戻る。
いや、実際に時間が巻き戻っているわけではない。戻っているように見えるのは、あくまでも人間が便宜的に設定した「時間」だけである。つまり、実際に経過した時間はどう足掻いても取り返せないわけで。
ガバッ、という音が聞こえそうなくらいの勢いで
周りを確認してみる。
煌びやかなデザインの照明は真昼だというのに輝いていた。――ここはエルネスタに案内された豪華なホテルだった。
大きな窓からはコンクリートのジャングルが顔を覗かせていた。――ノアから脱出した後、日本に帰らずやってきたここはニューヨークである。
すぐ横を見ると、同じベッドにはバスローブ姿の
そして、
「なんで裸なんだ?」
見下ろした自分の身体が全裸であることに気付いた。
思い出してみよう。ここに至るまでの経緯を。
統一暦499年8月15日午前5時38分
朝日に照らされた空港に一機の飛行機が降りた。
「ねむ……」
機内から出てきたのは、ぐっしょり濡れた股下を気にする紅音、エルネスタをおぶったジェシカ、大きな欠伸をする恵吏と、恵吏に手を引かれる灯の5人だった。
「ホテルが用意してあります。今日はそこで休みましょう。」
ジェシカの背中のエルネスタが言った。
統一暦499年8月15日午前5時45分
その部屋は隅から隅まできれいに掃除されていて、自分の存在が場違いなみたいだ、と恵吏は思った。
「部屋は1つしか取れませんでした。申し訳ありません。私とジェシカは灯さんを仮の保護施設に連れて行くので、あなたたちで一つの部屋を使ってください。」
そう言い残して、エルネスタは去ってしまった。
「先、シャワーいい?」
紅音が言った。
「いいけど……」
紅音がバスルームに消えた。
確かに、ずっと濡れたままは気持ち悪い。……そういえば、着替えって……
「えりりーん、シャワー終わったよー。」
そう、着替えは用意していなかった。従って、バスルームから出てきた紅音はバスローブ1枚だけであった。
「……あ、うん。」
恵吏はできるだけそれを直視しないようにバスルームに入った。
「まあ、着替えの服ないんだし、ああなるよね。」
バスルームも綺麗なものだった。紅音の使い方がいいのもあるんだろうが、バスタブは真っ白で光沢を放っていて、壁のタイルも綺麗にオレンジ色の照明を反射していた。
紅音の脱いだ服が洗面台に置かれていた。チラッと下着が見えた気がして、慌てて視線を逸らす。
頭からシャワーを浴びた。あの冷たい海水と違い、暖かかった。暖かくて、すごく眠くなった。
「あれ……?」
なんだかんだ言って、警察署から引き取ってもらってから一切休んでいないのだ。恵吏の肉体は平均的な女子高校生どころか、平均以下の体力しかない。精神力も、無理に無理を重ねてここまでやってきた。恵吏は疲れていたのだ。バスタブの中で、恵吏は倒れた。
統一暦499年8月15日午前5時52分
2つあるベッドの片方の上でゴロゴロ転がりながら恵吏を待っていた紅音は違和感に気付いた。
「シャワー長いな……」
紅音はバスルームの扉をノックしてみた。
「えーりりーん?」
返事がない。紅音は中に飛び込んだ。
そして、紅音はバスルームの中で倒れていた恵吏を見つけた。紅音は恵吏の身体に着いた水滴を拭き取り、そのままベッドの中に連れて行き、そこまでして疲れから寝てしまったのだった。
統一暦499年8月15日午後1時13分
恵吏は倒れたところから記憶がなかった。
一体ナニしたんだ私……!いくら我を忘れたって紅音にナニするとか……!
「……あれ?えりりん起きてたんだ。」
紅音が起きた。
恵吏は反射的に土下座した。
「ごめん紅音マジでなんも覚えてなくてごめん私何したのか全然覚えてないけどごめん謝るから許してッ!」
「……はい?」
そこで誰かが部屋に入ってきた。
「おはようございます……って言うほどの時間でもないですが、もう起きてますか?」
マスターキーを持ったエルネスタだった。
「……おやおや、真っ昼間からナニの謝罪ですか?」
誤解が解けたのは10分後だった。
統一暦499年8月15日午後1時34分
エルネスタに着替えをもらった恵吏と紅音はある場所に案内された。その場所とは、
「地球統括政府……」
そう、ニューヨークの街並みの真ん中に
恵吏たちは、そんな建物の最上階に居た。
「そんなに硬くならないで、楽にしてください。」
地球統括政府ビルの最上階にあるのは、統括政府大統領の執務室と寝室のみである。執務室に案内されるかと思った恵吏だったが、なぜかジェシカに案内されたのが生活臭の漂う寝室の方だったため、面喰らっているところだ。
エルネスタは大きくて高級そうなベッドの上で足をパタパタさせながら横になっている。
「お前は楽にしすぎなんじゃないのか……。」
恵吏が呟いたのを無視してエルネスタは言った。
「さあて、解説のコーナーです。あなたたちがどこまで知っているかは知りませんが、私が知っている限りのこの世界の秘密をお教えしましょう。」
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