第46話
そんなニコーレちゃんは、全身を使ったしなやかでありながらも力強く、俊敏な動きで現れた魔物を瞬殺していく。
例え、遠くの方に魔物が居ようが瞬時に移動し、瞬殺しては元にいた場所に瞬時に戻る。
次元が違うことをまざまざと見せつけられる。
「ニコーレさん...すげぇ...」
ニコーレさんの表情を見ると、にへら顔で殺戮を楽しんでいる。
ニコーレさんもしかして、
やべぇヤツかなのか?
「ぉいおっさん。ッヒュックッ、ッ知らねぇだろうが、あの子が"ルリコンのロウキョウ"だ。どうだ!」
ワキに酒瓶を挟んだ、歯残り数本のジジイに絡まれる。
どうだと言われても、ロウキョウ?なんだそれ?
仕事中に酒飲んでていいのか?
「......ロリコンのロウキョウ」
「...フッキャッ...ルリコンだよ、ルリコン。よく知らねぇが、遥か昔の色のことを言ってるらしい。ロウキョウもよく知らねぇが、怒らしたらやべぇってことじゃねぇか?」
「......結局おっさんも全然何も知らないですよね...」
んだこいつ。
ニコーレさんならまだしも、頭が痛いときに野郎と話したくない。
「...ッフッキャッ、ッそうすぐ怒るなよ新入りぃ、クソジジイ...ハハッ、フッキャッ」
「...別に怒ってるわけじゃ...無い」
「..ジッ、フッキャッ、ッじゃあ知らねぇと思うが、ヘラデスで活躍してる実力者は皆、期待を込めて二つ名が付けられらんだ。ちょうどあの子のようににゃ...フッキャッ」
「二つ名が付いたからって何?興味無い。頭が痛いんだ、失せろおっさん」
しつこい、酒臭い、早く失せろ。
「フッキャッ、ッ付いたら、目立つぁ、話題になる、貴族の目に留まり易くなるぅ、引き抜かれて貴族の仲間入りの可能性もあるぞぉぉ?」
フッキャフッキャうるせぇなほんとに。
話しかける前にしゃっくりくらい直してからにしろよ!
頭痛いから話しかけるな!
無性にイライラする。
「あそう」
「...フッキャッ、ッ因みにぁ、ニコーレちゃんは"ガーディアン"候補者なんだぁ貴族に引く抜かれるのも時間の問題だと?今のうちに顔を売っとかなきゃッフッキャッ、ッな?」
候補者?
まぁそれは後で直接ニコーレさんに聞いてみよう。
「...興味無い」
「そう粋がるッフッキャッ、ッなおっさん。名もない神から名のある神に乗り換えたいだろぉ?貴族家に認められたら、切り替えてくれるそうだぁ。そうなッフッキャッ、ッたッ、ッフッキャッ、ッたら最強だぁ」
「...あぁ、そうだね。頭痛いし何言ってるのか全然理解できないから黙ってくれおっさん」
頭の痛みで思わず片手を頭に添える。
コイツ聞いてもいないことをペラペラと。
最強だぁで顔いちいち近づけんな!くっせぇ!!
「んだとぉぅ!?さっきから親切に教えッ!ッフッキャッ、ッてやってんのに、っんだぁ!?その態度ぅわぁぁ!!」
はぁあああ!?なんなんだこいつぁ!?!
酔っぱらいの絡みまじめんどくせぇ!!
「んだとぉぅ!?だとぉぅ!?聞いてもいないのに話しかけてきたのはそっちだろうがぁよ!!失せろっつってんの!!」
「んがぁらぁ!?ムッ!ッフッキャッ、ッカつく奴だなァォラァッ!!粋がってんじゃねぇぞ新入りジジィガァ!礼儀から教えてやらねぇといけねぇ見てぇだなぁっ!?あぁッフッキャッ!、ッあぁ!?!?」
うるせぇ。
ちょうどいい。頭痛い八つ当たりでコイツをボコってやろう。
「さっきから酒クセェんだよ!!クソジジイジョトダコラッ!!」
酔っぱらいジジイが剣を抜いて構えたので、私も同じように、剣を抜き、戦闘態勢を取る。
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「...あんだぁ?喧嘩かぁ?」
「こんなとこで喧嘩すんなよ。ッだりぃなぁ」
「あ、新入りのやつ、ニコーレちゃんに迷惑掛けた。まとめて消すか?」
「これだから酔っぱらいは...」
「お、おい、ジジイども、ニコーレちゃんに迷惑を掛けるなよ...」
「ニコーレちゃんがかわいそうだ!落ち着け!」
「ッチィッ、酔っぱらいの相手すんなよ、クソジジイがッ」
「まぁずぃっ!!!ニコーレちゃんから見えないように囲め!」
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周囲の人に余裕を持って囲まれ、ぶつくさ何か言われているみたいだが、よく聞こえん。
「二人とも、今すぐやめなさい!ニコーレちゃんが悲しむ!」
周囲の輪から、どこかのグループのリーダーらしき青年が出てきて、
何やってるんだ。
仕事中にこんなことで喧嘩して何になる?
副作用のせいか?つい頭に血が上りすぎた。
「ッ黙れぇッ!!コイツはオレをナッフッキャッ、ッメてやがる!教えてやんねぇとか気が済まねぇっ!!テメェのヒゲェェ!酒のツマミにシテヤルァァ!!!」
「.........はぁ...」
自分の行いに思わずため息が出る。
そうだった。ニコーレさんに皆に迷惑をかけるなって言われたばかりだった。
どうしたものか。
面倒ごとに自ら突っ込むとは情けない。
相手を見ると相当ご立腹だ。
周囲は囲んでいるだけで、止めてくれる気配は無い。
今更謝っても、余計怒り出しそうだ。
「......はぁ...」
とりあえず相手の出方を見るか。
めちゃくちゃ強い人だったらどうしよう。
「...ッ、っこねぇならこっッフッキャッ、ッちからイグォゾェェララッ!!」
酔っぱらいジジイが片足を地面を踏み込み、こちらに向かって突進しようとしたその時、
「ムスグォォ「ハグドゥッ」ォッッ」
何か強い衝撃背後から感じ、
酷いめまいを覚えたので目を思わず閉じた。
ふと、目を開けたら自分が地面にゲロ吐いた酔っぱらいジジイと顔を向かい合わせで地面を抱くように、うつ伏せで倒れている。
ん?どういうこと?きたねぇ!!!
「《ビフロン家》の皆様!!飛び入り参加を受け入れて頂いたのにも関わらす、ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません!!」
顔を上げると、ニコーレさんが、片膝を地面に付き、頭を下げて貴族に謝罪をしていた。
どういうことだ。
何があった。
確か、おっさんと口論になって喧嘩する手前だった。
......誰かに強制的に止められた?のは間違いないか。
「.........教育中だったな?」
フードを深々と被った貴族の男が言う。
「はい。この新参者が前方で魔物を倒し、副作用が発症したとの申告があったので、休憩するよう指示をし、代わりに私が魔物を処理しておりました。その後は、ご覧のとおりです」
「......この者の独断だと言いたい訳か」
「仰る通りです。事前に、貴族の皆様方にご迷惑をお掛けしないようにとも言い聞かせておりました」
「そうだそうだぁ!!このおっさんが勝手に喧嘩してた!ニコーレちゃんは悪くねぇ!」
「俺は聞いてたぞ!ニコーレちゃんがこのおっさんに問題起こすなよって注意してたんだ!」
「俺も聞いた!!」「「あぁ!そうだ!」」
嘘付け野郎共!!
ニコーレちゃんに気に入られたいだけだろ!
だが、自分が全面的に悪い。
この後はニコーレさんの足を引っ張らないようにせねばなるまい。
「だそうだが、異論はあるか?髭面のジジイよ」
「......ござい、ません」
「では、規律を乱した罰として、第3副作用発症まで魔物を排除せよ。以上!」
意外と思ったより貴族やさしいな?
てっきり死ぬまで戦えとか言われるのかと思った。
それくらいならお安い御用だ。
「それと......周囲の援護は禁止する」
いつも号令かけてた長身の貴族が言った。
フードで顔がよく見えないが、ジッと見られている気がする。
...なんだ?急に。
勘繰られている?
「...承知いたしました。...寝てる方は置いていく」
「以上。では征くぞ」
まぁでも、第3副作用で戦えとは言われていない。発症するまでだから、何とかなるかな。
第2副作用までは昨日、戦闘も経験済みだし、第3副作用は皮膚感覚の低下または、手足が麻痺するんだっけか。
ニコーレさんに迷惑を掛けた責任は取らないといけないが、どうやって責任って取ればいいのだろう...
いつの間にか副作用が治ってるし。地面に這いつくばってたから勝手にリリス様に捧げたことになったのか。
あ、まずいな。
この世界の常識としては、祭壇場に行かないと赤霧を捧げられないんだった。
副作用が治ってることがバレたら大騒ぎするに違いない。
頭痛い演技をしなにゃいけないな。
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