第44話

塔の穴のまわりを私達が合流したグループが囲む。



「おじちゃん、知らんと思うから教えるけど、誰かと穴に飛び込むときはそいつの身体の一部に触れていれば、一緒の場所にいけるんだぜ!」



そう言いながら、ニコーレさんは私の肩に手を置き、穴を見据える。



「あ!ぅばぁ...ぅぁ...」



どどどうしよう!

私もこの流れでニコーレさんの肩に手を置けばいいのだろうか!?

いいのだろうか!?

いやまてぇ!

どっちかが触れていればいいはず。

つまり私が敢えてニコーレさんの肩に手を置く必要もないということだ。

だぁって既に置かれているんだからぁ!


危ない!セクハラで訴えられるところだった。試されているに違いない。間違いない。


後で帰ったらニコーレさんが触れた肩の部分ものすごいぺろぺろしちゃお。




「準備はいいな!!......では...くぞっ!!」


左腰に2本の剣を差している長身の貴族から号令がかかり、周囲の人達は隣同士で肩に手を置く。



「「「おぉぉおおお〜!!!」」」



穴に一斉に飛び込む。



「ぴゃぁ〜〜〜!!!」



ニコーレさんが変な叫び声をあげながら、落下していく。






水面を通過し、水平感覚を失い視界が赤黒くドロドロなり、それらを持ち直したところで、



「進行を開始する!雑魚は任せた!」



長身の貴族から号令が掛かり、貴族を全方向から囲むような陣形を作る。



「じゃあおじちゃん、まずは貴族を囲む陣形、進行方向に向かって一番後ろ側に行こうか」

「先頭に出て魔物を倒さなくていいんですか?」

「説明してからね」

「わかりました」



陣形の後ろ側に行く。

その間も集団は一定の速度で進む。



「よぅおっさん!くれぐれも死ぬなよ?俺たちの信用度が下がっちまうからなぁ!ハッ!」



うるせぇ!!余計なお世話だ。



「...ご忠告ありがとうございます」

「ふふっ、次は役割の説明ね」

「お願いいたします」

「円の中の人達を見てみてみろ」



ふむ。

長身の貴族を中心に、真っ黒のローブ集団がそれを囲み、さらにその外側にでかいかばんを背負った人達がそれを囲い、さらにその外側に大体おそろいの防具を身につけた人達が囲む。少し距離を空けて私達のいる円の外という陣形だな。

円と言ってもパーティーごとに集まって、それとなく囲んでいる感じだ。



「役割と配置が関係してるんですね?」

「うん、円の外側から私達だね〜、適当に歩いていれば、大体進行方向から魔物が出てくるから、優先的に外側の人達がどんどん倒していって、副作用が出て戦えなくなったら、円の後ろ側に回って帰れるまで待機ね」

「はい」

「絶対に内側の人達に手出しさせないようにするんだ。わかったぁ?」

「わかっ「それがぁここの礼儀ってぇもんだぁぉっさん覚えとけぇ」...」



うるせぇ!!私とニコーレさんの会話に割り込んでくるなっ!



「...わかりました」



序盤から貴族達に赤霧を蓄積させてはならないということね。



「次は円の内側の人達だけど、この人達は、一番外側にいる私達がいなくなってから初めて動くんだ。つまりそれなりに深くまで進んだ時だなー」

「なるほど...」

「でかいかばん背負った人たちいるだろ?あれが"ウォッチャー"さ。かばんも背負ってるし、緊急時以外は戦わないんだ」

「つまり、荷物持ちですね」

「途中まではそうだ。あのかばんの中には食料やら目的に応じた道具が入っている。あとは深層の素材やら資源やらお宝を詰め込むためにあれだけ大きくなっているんだぜ!」

「わかりました!」



荷物持ちは重要な役割ということだな。



「"ウォッチャー"の外側にいるのが"ガーディアン"だ。私達外側の人間たちがいなくなったら代わりに戦う。そして限界迎えた"ガーディアン"から地上に戻るんだけどその時"ウォッチャー"の荷物を背負い、地上に戻るのが習わしだな」



戦えなくなったやつ置いといても邪魔だし、ついでに荷物も持って帰れってことか。



「そうなのですか。手持ち無沙汰ぶさたになった"ウォッチャー"は何をするのですか?」

「緊急時以外は基本的には傍観?しているよ」

「え?なぜですか?」

「"ウォッチャー"が傍観している頃には、"ガーディアン"は赤霧蓄積されて地上に戻ってる状態だ。つまり"ウォッチャー"と真ん中にいる人たち、"ウォーカー"しかいないということだ!」



また新しいのが出てきたな。



「ニコーレさん、"ウォーカー"とはなんですか?」

「ぅう?あれ?説明まだしてなかったぜ!」

「はい」

「"ウォーカー"は深層の強力な魔物を殲滅しながらより深くまで潜ろうとしている、めーちゃめちゃ強い人たちのことだ!戦ってる姿は見たことないんだけどな!」



そうなのか。

俺たちはお前らとは違うという雰囲気を頑張って出してるみたいだが、強そうには見えないよな。



「たかだか10人程度でそんな強力な魔物達を倒しながら深くまでいけるのですか?ちょっとしたらすぐに副作用が発症して帰る羽目になりそうですが...」

「そう思うだろ?でも、彼らが信仰している名のある神は、ある一定のところまで赤霧を捧げると、深淵の赤霧を消費して使う特殊能力を授けてくれるみたいで、長時間戦えるようになるのさ」



特殊能力!?

どんな特殊能力使えるんだ?



「そこが私達、"ネイムレス"との違いさ。私達が赤霧を捧げている名も無い神は、いくら赤霧を捧げても能力は強くなるけど、特殊能力は授けてくれないんだ」



そこで格差が生まれるわけか。



「...それがなぜ"ウォッチャー"が傍観する理由になるのでしょうか?」

「深層では"ウォーカー"が主に戦うようになる、で、もし、特殊能力使っても魔物を倒せなくて"ウォーカー"が疲労困憊だった時どうする?」

「......"ウォッチャー"がその時に戦う?」

「勝算があるならそうするかも?"ウォーカー"総動員で勝てなかった、もう疲れすぎて動けない"ウォッチャー"勝てる見込みがない、どうすんの?」

「...う〜ん......」

「正解は"ウォッチャー"が"ウォーカー"を担いで帰りの門が現れるまでひたすら逃げる、が答えだ!"ウォッチャー"の役目は何らかの理由で戦えなくなった"ウォーカー"達を安全に地上に帰すこそだね」


「..ックッフフッ」


なにそれださい!だせぇ!!!

思わず笑ってしまった。


ウォーカーという名前が付いてるくらいなんだから最後まで歩き続けろ!

最後ウォークするのやめてるじゃないか!

あれだけドヤ顔でカッコつけながら歩いてる連中は最後は担がれて帰るのかよ!

ださー!


ん?というか、現れた魔物全て倒さないと門が出てこないんじゃないの?



「...ニコーレ先生、魔物倒さなくてもひたすら逃げていたら帰りの門が現れてくれるのですか?」

「ああーそうだよ、時間はまちまちだけど、深くなればなるほど現れるまで時間が掛かるみたいだけど。もちろん倒さないと次の穴は現れないけどね」



救済処置みたいなものだね。

それあるだけで生還率は上がるだろう。



「大体わかりました。ありがとうございます」

「そうか!他に気になることある?」

「...また思いついたら聞きます」

「そうか!じゃあ早速魔物が弱い内に倒すか!もちろん魔物は倒したことあるよね?」

「はい。外の森で生活していたので問題ないはずです」

「よぉし、退屈な説明は終わりだ!先頭に戻るぞ!」


ニコーレさんは先程の説明とは打って変わり、可愛らしくも美しい顔に笑みを浮かべながら話す。

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