第38話

フレンジーセンティピードの赤霧を吸収した。


「っぐっ...そろそろだと思っていたよ...」


第二副作用の手足の震えが発症した。


「この間はこの段階を一気に駆け上がったから、感覚をよく覚えていないんだよな...」


手足が勝手に小刻みに震えたり、急に大きく動いたりする。手足と言っても文字通りの手足ではなく、腕と脚が含まれるため、厄介だ。


「いてっ...一時的な身体能力はさらに向上したはずだが、実感はないな。それより震えで力の加減と制御が格段に難しくなった」


四肢が震えていながらちゃんと戦えるのか、狙い通りに剣が振れるかやってみないとわからない。


四肢が震えているだけでも体力は消耗するはずだ。そのうち筋肉が持たなくなる。


「とりあえず2、3体魔物倒してやれるか試すか」


たまにふらつきはするが、思っていたほどの影響は無く、歩くことができる。

だが、四肢の筋肉がずっと痙攣しているため、全身に疲労感を感じてきた。





魔物を4体倒した。


「手元は狂いやすいし、姿勢も制御がし辛いが、凄まじいな...」


以前も倒したことのある魔物だけど、まるで温めたナイフでバターを切るかのように抵抗無く刃が通る。


この状態では小さな魔物は間違いなく苦手だが、大きな魔物であれば、多少狙いが狂っても問題ないな。


「とにかく、これ以上はやめておくか。身体がもたない」


四肢の筋肉に痛みを感じてきた。


「...危険だから一度リリス様に赤霧を捧げよう」


第二副作用発症状態で捧げるのは初めてだ。レベルが一気に上がるのかもしれない。


その場で跪き、両手を地面に付ける。


「リリスさまぁっ!!!聞こえますでしょうか!?どうか、美しいお声をお聞かせ願えませんか!?いつもリリス様ことばかり『なぁにぃ〜?どしたの?おっさ〜ん』っっ!!!!」


「ッリィ゛リィ゛ズゥ゛ザマァ゛ァ゛ァ゛!!!寂しかったでずぅ゛ぅ゛ぅ゛」


一ヶ月半ぶりにリリス様のお美しい声を聞けただけで生き返ります!!!

はぁぁぁあ〜!!なんて美しい声でしょう!!たまらん!!!


『うるさぁ〜...また集めてくれたぁん?もらうよぉ?』


「ッはい!!リリスさまぁぁ!!!!」


『ありがとぅね〜』


「とんでもないことでございます!!どうぞ!干からびるまで吸っていただきたい!!」


『きもぉい』


っはぁんッ!!

ところでリリス様!!赤霧をリリス様へ捧げる際に身体能力を強化させていただきましたが、リリス様はどの能力を重点的に成長させているのでしょうか!?今後の戦闘方針を検討するためにも、差し支えなければ教えていただきたい!


『んっん〜??知らんよぉ?わたしは肉弾戦が好きだからぁそっちじゃないかぁ?』


「に、にくだんせんっ!?」ハァハァ!!

大変失礼ながら、リリス様が仰るとなんだか色気がすごいですぅ!!!


『っんふふ。じゃあ、また溜まったら、よろしくなぁ』


ああ!!リリス様!お待ちいただきたい!!まだ聞きたいことがぁ!!リリス様ぁぁ!!


「リリスさまぁぁぁあ!!!!」

「グルルルッ、ガウッ!!ガァルル…」


背後を振り返るといつの間にか灰色の犬型の魔物、ボーンイーターがいた。


「うっるせぇぇんだよ!!!邪魔すんなぁぁっ!!」


リリス様ともっとお話ししたかったのにできなかった腹いせに、ボーンイーターに八つ当たりする。

一気に接近し、剣鉈を振り下ろす。


「ッギャアン!!......」


一撃で首を切り落とす。


「くそっ!くそがぁぁぁっ!!...?ん?かなり抵抗を感じたな...」


今の犬の首切り落とすのにだいぶ力を込めた。

副作用発症中は刃を押し込むような感覚は感じなかった。

ということはやはり副作用の一時強化はかなり強いことになる。


「あ、そういえば、震えも頭痛もなくなって楽になったな」


身体の調子を確かめていると、急に地面が揺れる。


「っなにぃ!?地震!?」


立っていられなくなり、尻もちを付くと地震が収まり、また立ち上がる。


「なっ...んだと...」


目の前には、ここに入る前に飛び込んだ、ドロドロの赤黒い液体に満たされた穴があった。


「え?帰らせてくれない感じ?え?ここ飛び込んだら間違いなく次のステージに進むよね!?えぇ?」


とりあえずしばらくここで待ってみる。

もしかしたら時間内に飛び込まないと自動的に帰還するシステムかもしれないし。






5分ほど経過したと思う。

なにも変化はない


「...行くしかないのね...」


「もうどぉぅにもなぁあれぇえ!」


飛込競技のように腕をピーンと伸ばし頭から飛び込んだ。







その後の同じようにステージを2回クリアした。


特にボスが現れるわけでも無く、これと言って変化はなかったが、3回目の飛び込み穴が現れた時、穴の隣にそれは現れた。


「うわぁぁ、きっもぉぉお...」


臓物を掻き集めて積み上げたかのような、ドロドロぶちゅぶちゅとした人の背丈より少し大きいほどの門が現れた。


「出口かボス部屋か...どっちなんだ!!こんな見た目じゃわかんねぇぇよ!!」


テンプレ辞書によるとだいたいボスというのは、きりのいい数字で出てくるもんだ。5とか10刻みとかね。


今は3だ。帰るにはちょうどいい数字だと思う。

断じてボスではない。

だぁって!3でボスいきなり現れたらおかしぃでしょう!?えっ!もうっ!?ってなっちゃうじゃん!!


「よぉし!悩んでいる暇は無い。これは出口だぁ!それいけ!やぶれかぶれだあぁぁあああぁぁぁあ〜!!…」


意を決し、恐怖心を誤魔化すためにも叫びながら門を走りながら潜る。





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