第36話
「気を遣わせてしまい、申し訳無いです…」
見張りのお言葉に甘え、公衆浴場を利用する。
入った途端に皆に変な目で見られ、身体を洗って流すときに距離を空けられ、湯に浸かるときに怪訝な顔をされたが、とくに嫌なことを言ってくる奴はいなかった。浸かっては上がって休憩してまた入ることを何回も繰り返すうちに特に注目されることも無くなった。
入ってからそろそろ3時間くらいは経っただろう。
今日は早朝から魔物を狩ったりして活動していたので、腹も減った。
公衆浴場を出て、商業ギルドに向かい、お金を受け取る。
「はい。2000アウルムです」
通貨の名前は変わらないのか。
硬貨を受け取る。
刻印されている紋様が違う。
「お姉さん、忙しいところ申し訳ない。隣国の通貨は買い取ってもらうことは可能ですか?」
「鍛冶職人が直接買い取ってます」
こんな忙しい時にそんなこと聞くなよと、冷たく鋭い視線を向けられる。
この辺りの魔物の相場とか聞きたいところだが、忙しそうにしているお姉さんに聞くのは気が引ける。
「ありがとうございました」
お金を握りしめ、服屋へ向かい、値札を見て一番安くて無難なやつを選び試着室で着替えた。
よし、これでなんとか街を恥ずかしがらずに歩ける。
「1800アウルムです。まいど」
「......はい」
服高い。残り200で飯食えるのか?
飯を食べるため、手頃なお店を探す。
都市がとんでもなく広いため、いくつもの広場が設けられている。
広場には屋台や普段の食料品などが出店しており、ちょっとした市場になっている。
活気がゲルンダルの比ではない。
流石深淵の赤霧が最後に来る場所なだけある。人口密度がすごい。
深淵の赤霧から逃れるため、人が自然とこの都市に集まるのだろう。
適当な屋台を見つけ注文して、屋台の目の前にある簡易的な食事スペースに腰掛けて食事を済ます。
よかった。
食事はゲルンダルと同じく、安いままだった。
食事が安い訳をなんとなく聞く。
屋台ご主人曰く、塔の中で無限に魔物が湧くから肉がバカみたいに安く、ほぼ無料で仕入れているそうだがらかなり安い値段でも儲けが出るそうだ。
「てな訳でおっさん、料理は腕次第だ。安くしてもうまくなかったら客は寄り付かねぇ、高くしてもよっぽどうまくなけりゃ、客は…」
まだ喋ってたのか、屋台のご主人。うるせぇ。
適当に話しを切り上げ広場のベンチで休憩がてらに今後の作戦を練る。
「ふむぅ...金だろうか」
やはり金か。
街の外の魔物は街道の近くに限ってだが、比較的弱い魔物ばかりだ。だからここまで生きてこれた。
塔の中は恐らく進めば進むほど魔物が強くなっていくだろう。
いつまでも生身で魔物と戦うわけにはいかない。
「う〜ん...強さだろうか」
お金稼ぎはほどほどにしてレベル上げを優先させるべきだろうか。
リリス様とお話がしたい。
リリス様と一度目のお話をして、あれから全く連絡先が取れていない。
理由はわからないが、何らかの要因があって繋がらないのかなんなのか...
「おやぁ?おなごでお悩みかねぇ?若いのぅ〜羨ましいのぅ〜わしも若かれし頃のように…」
なんか知らねぇじぃさんが勝手に入ってきた。うるせぇだまれ。
「いえ、そういうのじゃねぇです。失礼」
世の中のじぃさんは決まって回りくどくて話が長い。人のこと言えないけど。
とりあえず防具がない事には冒険が始まらないだろう。
そうだ!私はまだ冒険の舞台にすら立てていないなかったのだ!
ここまでほぼ森のサバイバル生活のクソッタレな異世界生活しかしてこなかった。
と言うわけで、人からまた道を聞いて鍛冶職通りの防具屋にやってきた。
目標にする金額を知るためだ。
様々な人が往来している。
身につけてる武具もまちまちだ。
塔を探索する人たちだろうか。
「いらっしゃい。サイズ調節も無料だから、気になったのあったら聞いてくれ。」
人間のおっさんが気さくに話し掛けてくる。
それっぽくご主人に目配せをする。
店内の防具を見渡す。
部位ごとに売られている。
ざっと見て、全身セットで買うとなると6万アウルム以上になる。
「ご主人。全身セット買い揃えると安いやつでいくら位ですか?」
「んん?そうだなぁ。柔軟性があってそれなりに斬撃に強いデスペラードリザードセットなら4万5000でいいぜ。初心者にはピッタリの防具だ」
ご主人が指すマネキンに目を向ける。
全体的にゴツゴツしていて、黒寄りな灰色のワニの様な皮をメインに使用されている。関節部分は恐らく腹の皮を使っているのだろう。曲げ伸ばしに支障がないように蛇腹みたく施されている。
「かっ、かっこいい〜!!」
「ハハッ。ありがとよ。同じ素材でも作り手によって防具の見た目はかなり違ってくる。俺の場合は攻撃が比較的当たりやすい箇所をゴツゴツした皮で強めに補強している。他店よりかっこよく仕上げたつもりだ。もちろん防御力も上だ」
同じく素材の防具でも見た目がかなり違うだとぉ!?
そんなのゲームではありえないっ!!
素晴らしい!!
「今から稼いできますので、失礼いたします!」
「なぁんだよ冷やかしかよ〜......まぁまた来い」
早速金策のため、塔の目の前まで来た!
終焉の塔は真っ黒な大きな石を積み上げ、造られたかのような質感をしている。
石の隙間から時折弱い赤い光を放っては消えるようなイルミネーション付きのこだわりようだ。
入口は、ポッカリとアーチ型に大きく穴が空いていて、トンネルになっているが、先は見えない。
そして、入り口に見張りがいる。
子供とか間違って入らないように見張っているのか?
沢山の人が一斉に入ったり、または大荷物を抱えて出てきたりしている。
入らないことにはお金が稼げないし強くなれない。さっさと行こう。
特に見張りに何かを提示しろとか言われるわけでもなく見向きもされず、すんなり入れた。
しばらくトンネルを進み、抜けると、別世界が広がっていた。
塔の中に入ったはずなのに、太陽があり、風を感じる。
広大な草原が広がっていて、遠くには遥か昔の遺跡とかだろうか?が見え、苔、
辺りには、草原に布を敷き、仲良くご飯を食べているグループや昼寝をして休んでいるグループがいる。
30人以上はいるであろう集団が、代表者らしき人物の話しを聞いている場面も見られる。
「あれ?魔物は?ダンジョンじゃないの?」
まだ1階部分は魔物が湧かないゾーンなのかもしれない。
「ん?なんだ?」
遠くの方に人だかりが出来ている箇所がある。なんだろう?
近づいてみると、そこには大きな穴があり、30mほど落ちたあたりに赤黒いドロドロの液体がポコポコとうごめいている。
リリス様に助けていただいた時に見た液体に似てるな。
「なんだこれ?あわぁぁ!」
5人の集団が手を繋ぎながらまたは、肩に触れながら飛び込んだ!なにやってるんだ!
そして、特に予想していた水面バシャーンとかが無く、赤黒いドロドロの液体の水面は一切波立たず、何事もなかったかのようにポコポコしている。
すり抜けたという感じだ。
皆の様子を見ると、当たり前かのような表情をしている。
その後も次々と人が飛び込み、消えていき、穴周辺には私一人となった。
「どっちなんだ。どこかこれを説明してくれる機関は無いのか?今から引き返して誰かにここの利用方法を聞くか?」
考えられる可能性は2つ。ここがダンジョンの入り口か、若しくはさっきまでの人たちが自殺者集団で、ここが奈落の穴か。
どっちなんだ。わからなくなってきた。
しばらくその場で考えていると、
「キャハハハ〜ッ本日2回目といきますよ〜っ!!」
「調子に乗らないように抑えてね」
「わぁ〜かってるよぉ〜。おねえちゃん〜」
なにやら聞き覚えのある声だなぁ...
2回目?ということはやはりダンジョンの入り口で間違いないね。
邪魔にならないように横に移動し、バレないように考えるフリをして目を瞑り、顔を伏せておく。
「おねぇちゃんいっくよぉ〜!それぇ〜!キャハハハ〜…」
彼女らも手を繋ぎながら飛び込んだ。
なら大丈夫だ。
意を決し、飛び込む
「ぬぉおおぉお゛お゛!!…」
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