第34話

早朝、まだ空が赤黒く染まっている頃に目覚める。


体調は快調だ。


「...大丈夫そうかな?」


一応来た方向を確認し、追っ手らしき者がいないか確認する。


一応木の周りを確認する。

よかった。

もこ猿は居ない。


私のテンプレ知識によると、偶然道端で出会い、なぜか心惹かれ、だか気になってだか何らかの理由で懐かれ、旅のお供になり、実は伝説のモンスターでした。幻獣でした。

最強だったので、ついでに自分までもが強化されちゃってるのが、発覚しましたので、最強に無双しちゃいます。

武勲を上げちゃって、叙勲して貴族になっちゃって、領土を貰っちゃって、ついでに現代知識を使っちゃって、物を発明しちゃって、お店まで開いちゃって、国まで作っちゃったりしてがお決まりだったはずだ。

ふふふふ。たまらん。

またそういうお話しが読める環境に戻りたい。


否ぁぁ!!

私はリリス様に出会えたのだ!!絶対に戻らないっ!!地球には戻らんぞ!!あんな訳のわからん灰色の建物ばかりの糞の掃溜めみたいな世界には戻らんぞっ!!


おっと、私としたことが。また思考が逸れてしまった。


確かに、かわいいから連れていきたい気持ちもあったが、正直魔物と戦いながらもこ猿をかばうほどの実力が私にはないため、お荷物にしかならない。




かばんを背負い、木を降りて、口に昨日採取して、もこ猿が食べていた果物を口の中に含めながら、水分補給と水浴びのために小川まで来た。


「っぺぇっ!」


噛んだりして、特に痺れとか痛みはなかったが、一応吐き出してもう少し様子を見よう。


「はぁ〜。水うまぁぁ」


身体に付着して乾いた血も落とし、また乾いた土を身体にまぶす。

臭い消しの効果があるのかわからないが、おじさんは臭いのでなんとなくやっておく。



川辺に座り、今後の方針を考える。


「第一目標は、生存。第二目標はこの街、この国を出ることだ」


もしかしたら一番近い隣国は、ここゲルンダルが属してる国と同盟関係で指名手配が隣国まで掛けられているかもしれないことも踏まえ、どこにも属していない終焉の塔がある独立都市、名前忘れたけど、そこにいくのが一番リスクが少ないかもしれない。


商業ギルドのおじさんによると馬車で2週間くらいと言っていた。

徒歩でなおかつサバイバルをしながら行くことになるので、3倍以上の期間を見といたほうがいい。


図書館立ち寄った際に魔物出没地域で地図もざっくり見といたから、大体の方角と街道のルートはなんとなくわかる。


「第三目標はレベルアップだな。道中の魔物でどこまで上げられるか未知数だな。あ、そうだ昨日魔物倒してるから多少なりとも蓄積されているはず!リリス様ぁ!!!」


その場で両膝を地面に付けて、両手を地面につける。


「リリス様!赤霧をお受け取りくださいませぇっ!!!」


.........


特に反応はない。

少しずつはだめよということでしょうか。


「第一副作用が発症した辺りでまた伺います!リリス様!」


よし、安全第一で逃亡しよう。









そうして、なんやかんやで可食性テストを駆使しながら、やばい魔物に出くわすことも無く、サバイバル旅が3週間経過した。


おじさんはひげがもじゃもじゃに生え、かろうじて股間を隠していた服もいつの間にか枝に引っ掛けて裂け、全裸になっていた。


ある程度街から離れ、1週間目あたりで、追っ手は無いだろうと見切りをつけ、昼間は焚火をして、魔物の肉も食べるようになった事もあり、森での生活が安定していた。



「もうこのまま、森の住人になってやろうかぁっ!!ぅぅんんっ??」



そして、精神はおかしくなっていた。



「遠くの方に塔が見えたのはよかったよ?安心したよ?方向に狂いはなかったと!だぁが歩いても歩いてもちっともつかねぇじゃねぇかぁ!!ぅぉおっらぁ!!」


近くの木の枝を怒りながら切る。


木々の切れ間から見える白いアレが終焉の塔で間違いないだろう。2週間目辺りから見えだした。見えてから1週間歩いても見た目はほぼ変わらない。




精神がおかしくなる原因がもう一つ。

こちらの方が影響が大きい。


あれから、第一副作用が発症するまで赤霧を蓄積させては、リリス様に捧げること数十回。


問題なく祭壇場じゃなくても、捧げられた。能力も上昇した。


慣れもあるだろうけど、森の移動が以前より楽になったので、物理的な能力が上昇していると思う。

魔物との戦いもある程度慣れて、ギリギリで狩っていたのが、少しだけ余裕を残して狩れるところまで成長した。


魔法に関しては使い方がわからないので、魔力が上昇したのかは不明。

その他についても同じだ。

具体的にリリス様がどの系統の能力を上げていただけるのか、はっきりとはわからない。


だが、そこはこの際どうでもよい。

問題はリリス様とお話しできていないのだ。


お忙しいのだろうか。

リリス様に何かあったのだろうか。

人間ごときが、リリス様の身を案じることがどれだけ恐れ多く、失礼極まりない行為だとわかっておきながら、心配せずにはいられない。


「リリスさまぁぁぁぁ!!!うぁぁーーーー!!!」




そうしてまた終焉の塔がある都市を目指し、街道に近づかないように迂回しながら、森の奥深くを進む。







塔が見えてから7週間くらいか?日数を数えるのも面倒になるくらい、森の中で生活しながら塔を目指して移動し、やっと終わりが見えた。



少し低い山の頂上に到達すると、目の前は盆地になっている。

巨大な都市が塔を取り囲むように形成されており、その巨大な都市を山が囲む構図だ。

一部を除き、都市全体が城壁で囲われているわけではない。


「すげぇぇでかぁぁい!!」


街に付きそうだけど、どうしよう。全裸。


ひげもジャ髪の毛ボーボーの全裸を受け入れてくれるだろうか。また捕まりそうだ。


魔物の皮でそれっぽく服を作ろうとしたけども、不器用なので裁縫とか編み物とかはできない。


ゲルンダルの貨幣がつかえるかもわからないが、これだけ巨大な都市だ。

商業ギルドはここにもあるのだろう。

魔物の皮と内臓でも詰めて売って、まずは服を入手しよう


街道に出て都市に向かって歩く。

特にすれ違う人や一緒に向かう人は見かけない。



でも流石に全裸おじさんはやばいので、売る予定の魔物の皮を腰に巻いて、バスタオルを止める見たいなあの方法でクイッとやり、歩みを進める。



上半身裸で魔物の皮の腰に巻いた汚らしい変態おじさんが都市に入った。


特に出入口に兵士が立っていて、検問されてから入る方式じゃなくてよかった。


「なにあの人...」

「なにかあったのかな?」

「くっせぇ...」

「キャッ!きもぉ!くっさぁ〜い」

「おかあさんあの人どうしたの?「見ちゃだめよっ!」」

「.........」


いろんな人と距離を空けられながらすれ違ったり、立ち止まる人も、いれば、顔をしかめる人、鋭い視線を向ける人など様々だ。


ふっ、久々の人間だな。

思い思いに歓迎してくれているようだな。


「ふぅ....とりあえず終わった...」


街に付いて安堵する。


「...なんかぶつぶつ言ってる...こわいわぁ」

「いまなんか臭わなかったか?」

「臭った。くせぇ...」


めんどくさくて、しばらく水浴びもしていないから、そりゃあ臭いなんてものじゃない。

土で落としてはいたが、魔物の返り血も浴びている。

息も相当臭い。

自分でもわぁかるぅっ!!!くさぁ!!!




一応巨大な塔が目印にはなるから迷子になることはないだろうが、広すぎて闇雲に歩いても目的地にたどり着かんだろう。


そういえば、設定を考えていなかったな。


いつからか、わからんが、山でずっと暮らしていた。

ここが目について気になったので降りてきた。みたいな、謎のおじさん登場。でいくか。


手頃な人間を見つけ、道を聞く。

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