第31話

やると決めてからなかなか実行できずにいた。

激痛で思考がまたかき乱され、集中ができない。


「......ぁ......がぁぁ...ぅ...あ…」


────────────────────


絶えず身体を喰われる激痛に何度も何度も意識を失いかけながらも、なんとか耐えていきた。


深淵の赤霧に呑まれてから、一体どれだけの時が経ったのか、わからない。


頭が回るようになったのも、

強烈極まりなかった痛みが徐々に弱く感じてきているからだ。


力もあまり入らなくなってきて、少し寒気がする気がする。

声もあまり出せていない。と思う。

血を流しすぎたのだろう。

もう、長くは持たない。




「......ぁ......はぁ...ぅ...…」



────────────────────


痛みが激痛から鈍痛に変わりつつある。

痛みに邪魔されず考えられるようになってきた。


やっと永遠とも感じた地獄から開放される。

終わりは近い。


もうすぐ死ぬだろう。

今なら痛みにに邪魔されて思考がかき乱されること無く集中できると思う。


悪魔に呼びかけ、赤霧を捧げることを試そう。




身体の状況がどうなっているのかわからないが、気持だけでも両手両足地面につける。


お呼びするお方は転移前から既に決まっている。

身も心も貴方様だけに捧げてきた。

脳内でお呼びするお方を最大限にイメージして具現化し、呼びかける。




「...ぁ...ぅ.....っ…」


『愛しい人よ。

今のこの状況なら応えていただけますでしょうか』


「...ぁ.............は…」


『ここに来る前からいつも愛しいあなた様の事ばかり考えておりました。

どうかひと目だけでもお姿を拝見したい』


「...う......っ......…」


『ご降臨された暁には、不都合でなければ、深淵の赤霧をあなた様へ捧げたい。

それが叶わない願いなのであれば、どうか愛しいあなた様の手で殺していただきたい』


「.........ぁ.........ぅ......…」


『喜んで愛しいあなた様へ命を差し出す所存でございます』


「......ぅ.........ぁ…」


『私事ではございますが、今、身体が深淵の赤霧に呑まれ、後残り僅かの命です。

どうか。お声だけでも拝聴したい』


「.........っ......ぁ...…」



身体が冷たくなって来ている。

呼吸も鼓動もゆっくりになってきた。

もう残された時間は少ない。


愛しいお方からの応答は無い。

愛が、イメージが足りないのかもしれない。




「......っ.........はぁ...…」


私は今、地下深くの洞窟の中で喰い開かれた腹を地面に向け、地面を抱くように両手両足を広げている。

うつ伏せになっている場所は、おびただしい数の赤い蝋燭ろうそくが周囲に置かれており、洞窟内を照らしている。

私を囲むようにそれっぽい魔法陣が描かれている。

魔法陣の大きさは半径が私の身長くらいで、私はその中心にいる。

魔法陣は地面を彫って描かれているので、溝がある。

喰い開かれた腹から絶えず出続ける血液が地面に掘られた魔法陣の溝に溜まり、自身の血液で満たされた魔法陣が完成する。


これで悪魔召喚っぽいイメージはバッチリ。


愛しいお方を召喚だなんて一方的な手段でお呼びたてをするつもりは毛頭ないが、これ以外に愛しいお方と交信できそうなイメージが思い浮かばない。


イメージの中の作った空間で再び呼びかける。




『愛しいお方。どうかお許しください。

この期に及んで嘘をついてしまいました。

確かにご用命とあらば、残りごく僅かの命ではごさいますが、迷わず差し出すでしょう』


「.....はぁ......…」


『ですが、あわよくば深淵の赤霧をあなた様へ捧げ、少しだけでもお側で、お近くでお仕えできないか、などと恐れ多いことを脳裏にぎったことをどうかお許しください』


「.................はぁ......…」


『来る日も来る日も、あなた様の御姿をひと目だけでも拝見したく、思い続け、願い叶わずここまで歳を取りました。ですが、後悔はありません。』


「..............................はぁ.........…」


呼吸、鼓動がますます遅くなっていく。


『愛しいお方。この死にゆく愚生ぐせいにひと目だけでも。いいえ、ひと声だけでも。どうか。愚生の愛が足らず、あなた様へ届くに及ばなかったのでしたら、お許しください』


「...........................................はぁ......…」


『愛しいお方。お会いしとうございます』


「..............................はっ...…」


視界が徐々に暗くなっていく。

視野角もどんどん狭まる。

終わりは近い。


『最後に愛しいあなた様のお名前を口に出して愛しいあなた様への最大限の敬意と愛の表現として、また今生の別れの挨拶とさせていただきます』


呼吸する力もほぼ残っていないが、息を吸わないと声が出せない。

苦しいが、気分は気持ちはとても良い。


最後の力を振り絞り、息を吸って吐いて吸う。


「.........っっ!!」



『いざ!愛しいお方よ!地獄ですぐに会いにゆきますぞっ!!!フッハッハッハァ!!!』


「.....................っっっっっっサキュ!ッ『なぁんだかぶつくさ煩いのが遠くから聞こえたよぅだぁが?なぁに?ちょいと覗いて見たがぁ?きれいに繋がるの久々だのぉ?』......」

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