第30話
ディケイドベアを倒した。
「うぉぉ〜〜〜!!!」
興奮して叫ばずにはいられなかった。
だが、喜びの感情も束の間。
ディケイドベアから今まで見たこともないような赤黒い霧が噴き出す。
「うぉお〜っ!............!!」
目の前の赤霧を見て、一瞬にして、喜びから絶望へと突き落とされる。
忘れていた。
赤霧を蓄積した魔物を狩れば、
その蓄積された赤霧がどこに向かうのか。
今まで赤霧を蓄積していない雑魚ばかり倒していたからすっかり忘れていた。
「くそっ!!!!なにやってたんだ!!」
私自身は冷静だと思っていた。
ちっとも冷静じゃなかった。
そんな後悔をしている最中でも、
深淵の赤霧は容赦なく体にまとわりつき、体内に入っていく。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!!!」
手足が勝手に震え、力が入れづらくなる。
「っぐぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
手足の感覚なくなったかのような、手足に麻酔を射たれたかのような感覚になる。
立っていられなくなり、仰向けに倒れた。
倒れた痛みは感じないが、頭に倒れた衝撃が伝わり、さらに気持ちが悪くなる。
手足が今、どこに、どんな方向に向いているのか目で見てみないとわからない位、感覚を失っている。
時折手足の感覚がうっすら戻り、動かせるタイミングがある。
「おい!大丈夫かっ!しっかりしろ!しっかりしろ!!おい!おおい!大丈夫か!」
ちょうどよかった!誰か助けに来てくれた!
「魔物を倒して副作用が!助けてください!!」
声がした方向に顔を向けながら答えるが、そこには誰もいない。
その間も相変わらず深淵の赤霧は体内に吸収され続ける。
「くそっ!!空耳か?幻聴か?...かなり...やばい...」
「お、おじさん。...大丈夫?...大丈夫?...大丈夫?...大丈夫?...大丈夫?お、お、お、お、だ、だ、大丈夫?...大丈夫?じ、じ、お、おじ、...大丈夫?…」
目の前からマヤさんの声が壊れた音声データみたいに聞こえる。姿は見えない。
「お、が、が、ががか、が、がが、おじ、じじじ…」
「だまれぇッ!!!」
「だ、だ、お、おじさ、お、じ、だ、だい、だいじょうぶ、だいじようぶ、う、だ…」
「うわぁぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!やめてくれぇぇえ゛え゛!!…」
四方八方から声が聞こえる。
想定していた状況以上の状況に
「調子に乗ったな。そのだらしない体で、魔物を一人でなんとかできると思ったの?バカが。そのまま死ね」
今度はエルフ先生が目の前に現れ、私を見下ろしながら語りかけてくる。
「うるさいぃぃ!!!」
幻覚だ。これは幻聴だ。惑わされるな。
「今までの人生で何も努力せず、何も考えず、虫ケラのようにただ毎日同じことを繰り返してきたお前が、急に何か出来ると思った?上手くやれると思った?世界が救えるとでも思った?お前ごときに?」
「うるさい!!」
「お前は何もできず、何も成し遂げられず、誰にも相手にされず、誰からも死んだこと知られないまま、無意味に死ね」
「やめろっ!!」
「思い上がりも大概にしろ。主人公になった気分はどうだった?無様だな?」
「そんな...つもりは...ないっ!!」
「おじさん...おじさん...おじさん...おじさん...お腹。刺しますね」
「うぅぅあああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
エルフと入れ替わりで現われたマヤさんに何度も何度も剣で腹を刺される。
「幻覚だぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!ゲンカクダァア゛ア゛ア゛ア゛ァァ!!あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁ!!」
横たわった状態で必死に叫び、幻覚幻聴に抗う。
「グルッ、ガゥッ!!」
こんな時に魔物か!!
幻覚なのか本物なのかわからない!!!
「クソッ、立て!!」
しびれた手足を何とか動かそうとするため、手足を見つめる。
「うごけ!!」
何とか膝立ちの状態になり、床に落ちていた剣鉈を痺れてほぼなんの感覚もない右手で掴む。
「ッガゥ!!」
結局何もすることができず、狼みたいな魔物に右前腕を噛み付かれ、噛みちぎられた。
右前腕から血が噴き出す。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!あぁああア゛ア゛ア゛ァ゛ァァ!!」
さっきまであるのかどうかすら怪しかった腕の痛覚が急に戻り、激痛で叫ぶ。
「グルルッ!ガァウ゛!!ガッ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!いてぇぇ゛ぇぇぇえ゛!!…」
左腕も魔物に噛みちぎられ、血が噴き出す。
痛い...苦しい。
「ッがッはっ!あ゛あ゛あ゛っ!!ア゛ア゛ア゛!!…」
抵抗しようにも、動かそうと思っても、残った腕はうまく動かせず、魔物に仰向けに倒される。
魔物にそのまま腹の皮膚を食い破り、腹わたを引きずり出されるが、内臓の感覚を残したまま食われる。
「うあ゛あ゛あ゛があ゛ががあ゛あ゛う゛ォ゛ぇ゛ぇ゛ぇっ!!!」
激痛、目眩、さらに内臓を食われる気持ち悪さで嘔吐する。
目の前で起こった事態が現実なのか、魔物が本物なのか幻覚なのか判別できない。
判別できる余裕がない。
このまま魔物に食われて死ぬなら、
早く終わらせてほしい。
この気持ち悪さから開放される。
「...は......や.........く...」
一向に魔物が襲ってくる気配が無い。
「そのまま楽して死ねると思ったか?」
「...クソ、がぁ!!黙れ!...ころ...せぇ!!!」
「おじ...さん?だ、だだだだだだだだだだ…」
「お前を決して、楽に死なせはしない」
「痛い?おじさん痛い?...ですか?...腕が痛い?う...で、で、うでが、で、でう、ああぁあぁああああ!!」
「あぁぁぁぁっ!!!!もう...いや...だ!!嘘だ...!!これ...は...ウソ...だ!!!あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!!」
「おじおじじじじじお、お、お、お、おじじじ...............おじさん。...ウソじゃない?.....です.......早く...殺して...ほしい?」
引きずり出され、魔物に内臓を喰われる。魔物が顎を動かすたび激痛で叫ぶ。
マヤさんに腹わたを引き出され、ちぎられ、全身に激痛が走り、叫ぶ。
引きちぎった後は腹にまた手を突っ込まれ、新たな内臓を取り出しては引きちぎれることを繰り返される。
「痛い...イタイ...イ...タイ...イタイ...イ...タ...イ...イ...タイヨ...あ゛ぁぁぁぁぁっ!!!」
誰か助けて。
誰か殺して。
苦しい。痛い。
早く終わらせて。
「助けを求めたって誰もお前を助けない」
エルフ先生はまた現れ、見下ろしたまま言う。
「もっと苦痛を与えます」
マヤさんは全身返り血で赤黒く染まり、私をジッと見つめながら言い、腹の中をかき回され、内臓を引きずりだされる。
「や......めろっ!!!!あ゛あ゛ア゛…」
狼みたいな魔物の数が増えている。
「ッガウッ!」「グゥ゛ゥ゛!」「ガァァ゛゛!」…
魔物が一斉に私の腹に頭を寄せ合い、内臓を喰らう。
両腕両足は動かせない。
抵抗もできない。
「ッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァ!!…」
激痛が全身に走り、意識が
このまま気を失いたい。失ってくれ!!
だが、意識が朦朧とし、視界が暗くなっていく度に、目の前が急に明るくなり、強制的に覚醒させられ、鈍くなった痛覚がまた蘇り、全身に激痛が走る。
「ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァっ!!…」
これだけ腹の中を食い尽くされているのになぜ死なないんだ!!!
はやく死んでくれぇぇぇ!!!
「グァァァァッ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛!!…」
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
ここまでされてまだ死なないんだ!!!
幻覚なんだっつってんだろぉ!!!
「あ゛ぁ゛ぁぁぁ!!…」
痛い痛い痛い…
これは幻覚だ。幻覚だ。
第6副作用幻覚だぁぁぁ!!!!
意識が朦朧とする。
「あ゛っ!!!あ゛あ゛あ゛!!!いでぇぇぇぇえ゛!!!…」
強制的に覚醒させられ、再び激痛が全身を襲う。
第5副作用粘膜系からの出血でこのままだと失血死するだろうが、時間がかかりすぎる。
痛い。アァァァァァ!!!
早く死んでくれぇぇ゛え゛!!!
「あ゛あ゛あ゛!!いてぇぇぇ!!…」
どうやって早く死ねる。
身体が思うように動かせない。
自害できない。
どうやったら早く開放される。
永遠とも思えるこの全身を喰われ続ける激痛からどうやって抜け出せる。
これに終わりはあるのだろうか。
激痛から意識が遠のく。
覚醒をひたすら繰り返す。
「あぁ...あ、あぁ。あぁ...あ...あ...あぁ...あ…」
叫ぶ気力も無くなって、ひたすら激痛に耐える。
もうやめて...
かみさまぁぁぁ!!助けてくれええ!!!
かみ?......さ...ま?
ふと、異世界来てからの出来事を激痛のなか、走馬灯かのように一瞬にして思い出し再生される。
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異世界2日目
「っはぁっ!!!異世界!さらに獣人まで存在している!これはもしや!
異世界3日目
「因みに、会話を試みようと思った先人たちはどういう運命になりましたでしょうか?」
「悪魔に殺されたのか、周りに殺されたのか知らないけど、死んだやつもいれば、理解できない言語で返されて、意思の疎通ができなくて目玉をくり抜かれたとも聞いている」
「因みになんですが、どうすれば他の悪魔に深淵の赤霧を捧げることができますか?」
「それは悪魔ごとに違うからわからない。ただ一つ言えることは、赤霧を蓄積をした状態じゃないとだめだということだ。後は悪魔の気まぐれ次第と運だね」
「なるほど。蓄積量をどんどん増やせば悪魔に繋がりやすいとか、感知されやすいとかはありますか?」
「それはわからないな。理屈でいえば増やせば気づかれやすいのだろうけど、それは私達がきっとそうなのだろうという勝手な思い込みであって、悪魔が私達と同じ思考とは限らないよね」
異世界5日目。本日
エルフのセ○クストゥ先生によると、固有の悪魔に深淵の赤霧を捧げるためには運次第で赤霧の溜め込み具合は関係ないと言っていたけど、きっと悪魔達は赤霧が好物なはずだ。
だから、たくさん深淵の赤霧を溜めた方がきっと悪魔と交信しやすくなるはずではないか?
────────────────────
悪魔だ!!
悪魔ならこの状況から開放してくれるかもしれない!
今の私の深淵の赤霧は濃密だ。
今、この状況なら応えてくれるかもしれない。
うまく行けば深淵の赤霧を捧げられるかもしれない。
目玉くり抜かれようが、殺されようが構わない。
どちらせよ、この生き地獄から開放してくれる唯一の方法だ。
一か八かやるしかない。
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読者の皆様
ここまで読んでいただき、感謝申し上げます。
最近フォロー数が増えており、楽しんで頂いている読者様がいるんだ!
と、おじさんは大変嬉しく存じます。
張り切って続きを書きたい気持ちでいっぱいではございますが、何分不慣れなところもあり、書くのに時間がかかり、そのうえ社会の奴隷でございまして、身体の疲労もあり、書く時間が失われつつある状況です。
毎日投稿を心掛けておりましたが、今後、
更新が無い日が続くこともあると存じます。
今までと同じように温かい目で、おっさん休んでいる暇なんかねぇよ!早く更新しろよ。おっさんがよぉ。っぺっ!と、気長に待って頂けると嬉しいです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
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