第29話
さて、内臓を入れる鞄も手に入ったことだし、森へ行くか。
いまさらだが、防御力が紙同然なのが心配だけど、防具に手を出せるほど稼げていないので、防具は金がたまってからにしよう。
剣鉈を腰に装着し鞄を背負う。
時間はだいたい8時くらいだろう。
昨日のパイクシープとの実戦で羊より少し大きい程度のアレに力負けしていた。
単に普段の怠惰かもしれんが、悔しい。
そろそろ悪魔に赤霧を捧げて1レベルでも上げたいところだ。
「市販のやつじゃなくて、固有の悪魔を見つけるのが面白いだろうな」
確か、エルフのセ○クストゥ先生によると、固有の悪魔に深淵の赤霧を捧げるためには運次第で赤霧の溜め込み具合は関係ないと言っていたけど、きっと悪魔達は赤霧が好物なはずだ。
だから、たくさん深淵の赤霧を溜めた方がきっと悪魔と交信しやすくなるはずではないか?
さっさと赤霧を溜めて悪魔にレベルアップしてもらって、ここの生活の基盤を安定させようではないか。
と言う訳で北の森まで来ました。
「よし、やるぞ」
魔物を探して森へ入る。
早速腐ってる系を発見して、難なく討伐する。
「まずは一匹」
深淵の赤霧を
その後も兵士達がわざと取り残している腐ってる系の雑魚をひたすら刺しては殺すを繰り返す。
「なかなか生身の魔物に出逢わないな。この辺はハズレか?」
兵士達が巡回したばかりの位置かもしれないな。場所を変えようか。
森の中でさらに北上する。
街道の位置は把握している。
すると、腐っている系魔物の死体、生身の魔物の死体に囲まれながら、お食事中の魔物を見つけた。
自分で狩って一箇所に集めたのか、食事中にたかってきた奴を片っ端から殺したのかわからない。
「ディケイドベアか...チャンスかもしれない」
お尻をこっちに向けて短い尻尾をフリフリしているが、特徴からして間違いないだろう。
体長2.5m程度の大きな朽ちた熊で、本当に朽ちているわけではなく、脱皮する前の状態の熊を言う。
全身を灰色と茶色の毛皮は所々剥げていて、目が灰色に曇っている様子が朽ち果ててるように見えるため、ディケイドベアと名付けられている。
脱皮はセミのように背中が割れて一回り大きな、凶暴な魔物に豹変するため、脱皮させないように見つけたら即座に殺すのが推奨されており、尚かつ脱皮の段階に至るまで最低でも4年は掛かるとされているため、兵士に狩り尽くされている。
かなりのレアモンスターのはずだ。
脱皮間際の個体は、動きが鈍く視力が弱くなるため、討伐し易くまた、栄養を溜め込んでおり、大変美味で高く売れるそうだ。
ただ、鈍くなる動きを補うために、かなり毛皮が固く、体力、防御力が高いと言う。
「やれるか?......一攫千金」
動きが鈍いと言うなら攻撃を受ける確率が低いはずだ。
ちまちまプスプスやればいずれ倒せると思う。
食事に夢中な様で、こちらに気が付かないだろう。
最初の一撃で致命的な一撃を与えたいな。
意を決してディケイドベアの背後に近づく。
よく見ると、お尻の穴から血がたれている。
ふむ。手負いか。
こちらに運が回ってきたな。
静かに、だが、できる限り素早くディケイドベアのお尻に接近する。
剣鉈の間合い入ったのを見計らい、ディケイドベアのお尻の穴に剣鉈をまっすぐ突き刺す。
「グオ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォォ!!」
少し時間差がある事に違和感を覚えながらも
森にディケイドベアの重低音の雄叫びが響く。
刺したと同時にノコギリ見たく地面に向かい力を込め前後させ、傷口をできるだけ広げる。
「グァ゛ァァ!!」
後ろ足で蹴られそうになりながらも、なんとかギリギリで回避し、剣鉈の前後運動を止めないようにするが、毛皮が想像以上に固く、刃が下に進まない。
「グオオオオオォ!!」
「クソッ抜けたか!」
ディケイドベアは前に走り距離を取ってこっちに向き直す。
「なんだ?こいつ?様子がおかしい」
ディケイドベアは目鼻口から血が垂れており、おぞましい顔つきをしていた。
この状態どこかで聞いたことがあるような...
なんだっけ...?思い出せない...
なんだったっけ?
あっ!!
「......ま、まさか......第5副作用まで発症しているのか?」
つまりコイツは、こんなになるまで魔物を殺し続けたというのか?
「グァオッ!!ガァ゛ッ!!ガァ゛!!」
ディケイドベアは何もない所に急に噛み付いたり、前足を振りかぶって攻撃したりしている。
幸いなことに脱皮間際は視力まで落ちているそうだ。幻聴も聞こえてるか、難聴になっているはずだから、隙をみて攻撃できる。
「やれるっ!!」
混乱しているディケイドベアの腹に回り込み、柔らかそうな下腹に剣鉈を突き刺す
「っふん!」
「ガァア゛ア゛!!」
剣鉈が半分入ったところで止まる。
なんて硬さだ!
筋肉の緊張だけで剣止められた!!
クソッ!抜けない!!
「グォ゛ォ゛オオ゛!!!」
前足の攻撃を避けるため、剣鉈刺さったままにし、距離を取る。
腹の力が呼吸で緩んでいるタイミングを見計らって剣鉈を素早く抜き、また距離を取る。
「クソ、全然出血しない!」
尻も腹も筋肉の緊張だけで傷口を締め上げて止血しているみたいだ。厄介だな。
これじゃあ大したダメージは与えられない。
危険だがら避けてたが、やはり目に刺して脳みそかき回して討伐するしかないな。
「ガァァァア゛ア゛ア゛!!!」
背後に回り込み、死角から目元を狙うが、幻聴のせいか、左右上下不規則に何もないところに噛み付いているため、狙いが定まらない。
これ以上頭部に接近すると前足の攻撃を避けられないため、一旦距離取って仕切り直す。
「どうするよ...おっさん...落ち着け」
ディケイドベアとくにその場から動く気配は無いらしい。
確か、
第2副作用は皮膚感覚低下もしくは手足の痺れだったはずだ。
刺しても大して痛がっていない様子からして皮膚感覚の低下だろう。
だとすれば、刺しても気にしない程度ならば、上に乗ってバレないのではないか?そこからなら、噛み付いた直後に目元に刺してグリグリしてやれば、絶命させることができるかもしれない。
「よし!」
ディケイドベアのお尻の穴に再接近し、もう一回試しにお尻の穴に今度は水平方向に刃を向けて剣鉈を差し込み、前後運動させる。
「グォォォ゛アア゛!!」
よし。
刺してから反応があるまで時間差があった。
皮膚感覚低下で間違いないだろう。
すかさずディケイドベアにまたがる。
特に振払われる様子はない。
頭部の方に身体を動かし、チャンスを待つ。
「ガァッ!!グァ゛ッ!!ッガ「ウォラァッ!!」ァ゛ァ゛!!」
剣鉈は目元に深々と刺さり、すかさず剣鉈の柄を軸に自転車のペダルを手で回すように、グリグリとディケイドベアの脳みそをかき回すように力を込める。
剣鉈をこねくり回したと同時にディケイドベアの四足がまっすぐ伸び、痙攣をしながら横へ倒れた。
「やったぞっ!!!やってやった!!ハハッ!!!」
こいつを持ち帰れば当分の間、宿代と食事を心配しなくていい!!
やったぞぉぉ!!!
「うぉおおぉ〜〜〜〜!!!!」
この時のおじさんは忘れていた。
手応えがあった魔物を倒したことに酔いしれ、すっかり忘れていた。
深淵の赤霧を蓄積した状態の魔物を殺したらどうなるかを。
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