第28話

次の日


何者かに突かれて目を覚ます。


「メェェ゛ッェ゛ッェ゛ッェ゛ェェ」

「うわぁあ!!!」


なんだ。ただの羊か。

パイクシープかと思って本当にびびった。


また早い時間に起きてしまった。

武器店に行くのも早いし、とりあえず風呂入って時間潰すか。


「おはようございます」


城門潜ろうとしたら、重装兵から挨拶される?誰だ?


「おはようございます」


ここの兵士はろくなやついないので、立ち止まらずに素通りする。


「あの、少しお話しいいでしょうか?」


くぐもった声で呼び止められる。

んだと?めんどくさいな。

君たち兵士とは関わりたくない。


「...ごめんなさいね。私は記憶が無くて、左も右もわからない状態で、今日をどうやって生きようか考えるのに忙しいのでね。失礼するよ」

「あっ......ぁの...」


何か聞こえたが、気にしないで公衆浴場へ向かう。


公衆浴場に入り浸り、気持ちがスッキリしたところで、お腹が空いた。


「そうだ。朝ごはん食べよう」


お金も手に入ったことだし、朝食くらいなら食べれるはずだ。


と言うわけで、東通りの飲食店が建ち並ぶエリヤまで来た。

見た感じ、朝食からやっているお店は少数のようだ。


「まぁ適当に入るか」


「はいいらっしゃいませー」


おばちゃんの声が響き渡る。

店内はカウンターL字型で座席数はそんなに多くない。


「今は、朝食の肉定食のみです」

「いくらですか?」

「50アウルムですよ」


安いな!

魔物狩り結構高給取りなんじゃないの?


「じゃあそれお願いします」

「少々おまちください」


席に付きしばらく待つと、料理がおばちゃんによって運ばれる。

こってり茶色いソースが絡まった肉と白ご飯と透明なスープ。シンプルいい。美味そうだ。


「美味しいですね!」

「気に入ってもらえてよかったです」

「そういえば、なぜこんなに美味しいお肉とか安く提供できるのですか?」

「それは、領主様と貴族様の方々が、援助を出して下さっているお陰じゃないでしょうか?詳しくは知りませんが。後は、兵士達が狩った魔物を安く仕入れることができます。その分料理を安く提供できます。...ん?魔物の肉を安く仕入れるようにしてくれているのが領主様、貴族様の支援なのかな?よくわかりませんが、このお値段がこの街の一般的なお値段です」


なんで領主と貴族が飲食店に援助してるんだ?おばちゃんもよくわかっていないみたいだけど、当たり前な感じだから深く理由も知らないということか?

よくわからんけど、ただ飯同然の価格で提供してくれるなら、別に理由なんてどうでもいいか。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「はい。ありがとうございました」


代金を支払い、大満足で店を出る。

ちょうどいい時間だろう。

袋を依頼したドワーフの元へ向かう。



「おはよう。出来てるか?」


武器店の店に入り、ドワーフへ問いかけた。


「んあぁ?午前は午前でも早過ぎるだろう!?」

「出来ているのか聞いている」

「もちろん出来ているさぁ。少し待ってろっ!」


ドワーフは会計カウンターの下に短い手を伸ばす。


「完璧に仕上げた。水一滴たりとも漏らさんよ」


袋と注文していたので、てっきり紐で引っ張れば入り口がキュッと閉まるあの袋を想像していが、違った。


出来上がった物を手に取る。


見た目はツヤのある焦げ茶色の革で

両肩で荷重を分散させて背負えるように、リュックみたいに仕上がっている。

見た目以上に軽いうえに、心地良い柔らかさだ。そしておしゃれだ。


「入り口は横に垂れている紐を引っ張れば閉まる。逆さまにしても水はすぐには漏れない」


すごいな。

入り口はランドセルの蓋みたいなので上からカードされている。

これなら背負いながらでも中身をこぼさず戦えるか?


「水を注いでもいいか?」

「おうよ!水持ってくるから待っとけ」


ほんの少し待つとすぐに木の桶に水をなみなみ入れたドワーフがやってくる。


「はいよ。自分で入れてみてくれ」

「ありがとう」


鞄の入り口を広げて水を入れる。


「おぉっと〜。水を入れても倒れず入り口が必ず上を向くように出来てるから、手で支えなくてもいいんだぜぇ〜?おっさんよぉ」


なんだそれすごい高機能じゃぁないかぁ!


「やるなぁドワーフ!」

「任せとけよ!この技術料の高さ込で本当は1000なのだよっ!っぺぇ!」

「黙れ」


水を入れて、外に滲み出ないか観察する。

これで少しでも滲み出れば死活問題だ。

これを背負い、内臓を入れた状態で狩りをしていたら、魔物に延々と追われる気がする。


「......お、おぃ...おっさん。まだ見るのか?」


十分以上水を入れたまま放置したところで、ドワーフはしびれを切らす。


「当たり前だ。私はこの鞄を使い、魔物を狩り、内臓をこれ詰め、続けて狩りを行う。この鞄に血が滲み出したでもすれば、魔物の行列を引き連れて街に戻ることになるぞ。兵士なら追手も追撃する余裕はあるだろうが、私は一人だ」

「そういう用途ならはじめからそう言ってくれよ。おっさんよぉ。だが、俺が作ったものは長時間逆さまにしない限り、絶対に漏れでねぇよ。安心して使いな。万一漏れ出たら持って来い。無料で直してやる」


大した自信だ。


「そいつはありがたい。君、なかなかの腕前だな」

「ハッ。ったりめぇ。っぺぇ!」


一向ににじみ出る気配が無い。縫い目の糸も特に濡れている感じはしない。

かなり完成度が高いようだ。


「逆さまにしてまた見るが、いいよな?」

「めんどくせぇやつだな?勝手にしとけ。満足したら呼べ。仕事に戻る」


ドワーフは店の裏側の仕事場に戻った。


入り口を縛り、蓋をかぶせ逆さまに店内の吊せる場所に適当に吊るしておき、その間に店内の商品を見る。


「ほーう。おもしろいな。ハルバード、バトルアックス、ウォーハンマー、クレイモア、ツヴァイヘンダー、フランベルジェ。ゲーム好きにはたまらんな」


冒険者いないのに、こんなの誰が買ってるんだろう?街の重装兵は皆ゴツイ槍だったし、軽装の門兵はブロードソードだった。

まぁどうでもいいか。


店内を見て回り十分以上経過した頃、吊るしておいた鞄を見る。


「一滴も垂れていない。滲みもない...」


あのドワーフやべぇ!


「ドワーフの少年!!確認が終わった!来てくれるか!」

「はいよ待っとけ!今切りが悪いから終わったら行く!」



「それでおっさんよぉ満足したか?」

「あぁ素晴らしい技術だ。気に入った」

「ハハッ!そうだろうよ!俺が作ったんだからなぁ!っぺっ!」

「代金を渡しておくぞ」


銀貨1枚をカウンターに置く。


「おう。お釣りだ」

「そいつは、持っておけ。早く仕上げてもらった礼だ」

「ったりめぇよ!ありがとなおっさん。貰っとくよ」


今後ともお付き合いするだろうから、ご機嫌取っておく。


「会計も済んだところで、みてもらいたいものがあるのだが、時間はあるか?」

「大丈夫だ。なんだ?」


私は愛刀、狩猟用剣鉈を鞘ごと、カウンターに置く。


「これなんだが、手入れをお願いしたい」

「なんだそんなことか。刃物研ぎは得意だ。任しとけ」

「それはそこらに出回っている普通の剣ではない。実際に見てから本当に出来るかどうか判断してもらいたい」

「だからそういうのは先に言っとけよおっさんよぉ」


ドワーフは剣鉈を手に取り、鞘から抜き、色々な角度で見て、刃に爪を立てたり、頬の髭を剃ったりした。


勝手に人の剣で髭剃るな!!


「んだこれ?見たことねぇ造りだ。ちょっと見ていいか?」

「なんだ?格好つけて目でもつぶってたのか?目を開けていいぞ」

「ちげぇよっ!そうじゃねぇ!魔法かけて見ていいかっつってんの!」


魔法だと?


「どうぞ?」

「叡智の深淵よ...」


すると、ドワーフの茶色の瞳が碧く変化し、僅かに発光してすぐに元にもどる。


「砂鉄だと?砂鉄からこれが作れんのか!?」


おぉ、正解だ。

原材料がわかったようだ。

魔法すごい。


「作れとは言ってない。手入れでき「うぉぉぉ!!粘りがある!そのうえかなり硬い!どうやってんだぁっ!!」人の話を聞け!!」

「おっとすまん。で、なんだっけ」

「だから、作れとは言ってない。手入れをお願いしたいと言っている。出来ないか?」

「手入れはもちろん出来るに決まってる。ただ、今の段階では研ぐ必要もない。太ってるくせにかなり鋭いなこれぇ」


流石13万円だな。

本格的に使ったのは転移してからだが、切れ味は落ちていないようだな。


「そうか。刃物の事は詳しくない。魔物を切ったときの血は払うようにしているが、そのうち錆びそうだ。その辺はどうしたらいい?」

「それなら一回表面の錆止め油を落として、油塗り直しておくかぁ」

「よろしく頼む」

「すぐ終わる。少し待ってろ」


ドワーフは剣鉈を持ち、店の裏へ消える。


「よし、油塗り替えてやったぞ。見た目は変わらんからわからないけどな」

「ありがたい。いくらだ」

「いや、いいさ」

「そうか。ではまた何かあったら頼むな」


ドワーフに目配せをし、店を出る。


準備は整った。

本格的に魔物狩りとレベル上げを始めるとしよう。

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