第26話
さて、そろそろ大丈夫そうだ。
日はまだ十分に高い。
街道をしばらく歩き、剣鉈を鞘から抜き、森へ入る。
「腐っている系から肩慣らしだ」
北の森は適度に木を伐採して管理されているのか、木と木の間隔が空いており、太陽の光が良く入って、明るさは良好だ。
街道の方向を見失わないように注意しながら森を進み、その途中で見つけた腐っている系の魔物も5匹程狩り、木影に隠れ休憩していると、横から何かが接近している足音が聞こえた。
足音がする方へ視線を向けると、身体が即座に反応して、心拍数が上がり、緊張状態となった。
「パイクシープか...」
羊だが、額に槍のように尖った角を持ち、さらに両頬を守るように左右には下側にカーブした太い角を持つ魔物だ。
大きさは普通の羊より少し大きいくらいだ。
ひとまず突進されないように、木の幹を盾として使う。
機を見て、木の幹から離れ、パイクシープの突進を待つ。
「こっちだ!かかってこい!」
声を出し、挑発する。
パイクシープは鼻息を荒くし、突進する。
速い。
剣鉈を握り直し、パイクシープが当たる寸前のところで横へ回避するついでに、剣鉈を角の隙間に突き刺す。
「っいってっ!!」
尖った角は何とか回避できたが、パイクシープの体当たりを受け、横へ1mほど弾き飛ばされる。
即座に立ち上がり、距離を取るが、次の突進の準備をしている。片方の前足で地面を2回引っ掛け、角をこっちに向け、突進する。
よく見ると、角に傷が付いている。
「くそっ、角に遮られたか」
パイクシープは全速力で殺しに来ている。
私の回避技術がまだまだ未熟だ。
完全に避けてから狩ることをあきらめ、
剣鉈を突進してくるパイクシープの頭に向け、カウンター攻撃狙う。
なんとかギリギリ尖った角だけは自分の体に刺さらないように避け、剣鉈をパイクシープの目元に向けて力を入れて突き刺す。
パイクシープの慣性と合わさり、剣鉈は豆腐を刺すかのように抵抗もなく目元に刀身全て入り、血が吹き出す。
パイクシープは即座に脱力し、抱き止める形で討伐は成功した。
「はぁ〜〜なんとかなった...」
怪我もしなかったし、最初にしては上出来だ!
深淵の赤霧がパイクシープから噴き出し、身体にまとわりつき、吸収される。
「腐ってる系の魔物より蓄積が早いと聞いているが、よくわからないな?」
いや、そんなことよりコイツは貴重な資金源だ!!
袋とかもなにも持ってないから、単価が高い箇所だけ持って帰ることはできない。
血抜きしてまるごと持って帰ろう。
先に首の動脈がありそうな箇所をいくつか切り裂き、後ろ足を持って持ち上げ、木の幹に押し当てる。
紐で吊るしたいけど、無いからこうするしかないよな。
「あぁ重い。きつい...ん゛〜…」
血がドバドバからポタポタと
「急がないと」
魔物の血で特定の魔物がおびきだされてしまう。
おびきだされても、血溜まりで満足してくれればいいのだけど、ニオイを辿って追いかけてきた時は厄介だな。
「ギシャァァ!!!」
振り返ると遠くに魔物が一匹。
くそっ!もう追ってきたか!
キャリオンリザードだ。
体長1.5mほどある大きな黒いトカゲ型の魔物で、死体、腐肉を好んで食べる。
口には肉を噛み切るのに適したギザギザした歯が生えている。
口さえ気をつければ大した攻撃手段が無い。
「ちょうどいい。私の経験値になっていただこう」
担いたパイクシープを下ろし、剣鉈を構える。
「どうした!かかってこないのか?」
威勢がよかった割には、様子を見ることに徹しているようなので、こちらから攻めるか。
キャリオンリザードに近づくと、上半身を上げ、両手を広げて威嚇してくる。
「やかましいっ!!」
一気にキャリオンリザードに接近し、下顎に狙いを定め、剣鉈を思い切り突き上げる。
「あれ?そのまま刺さっちゃったよ...」
キャリオンリザードは特に抵抗する訳でもなく棒立ち状態ですんなり攻撃を受け入れ、頭蓋骨を剣鉈が貫通し、前のめりに倒れる。
「コイツは馬鹿なんだろうな」
倒れたところで、剣鉈を抜く。
血と深淵の赤霧が噴き出し、血溜まりが出来る。
「いい
どうしよう。
せっかく倒したのにもったいない。
持って帰れそうな部位を探り、
長い尻尾切り落とす。
「多少金になってくれるといいんだけど」
パイクシープを肩に担ぎ、その上に尻尾を乗せる。
その後は、特に魔物に遭遇する訳でも無く、追われることも無かったが、疲労で脚ガクガクで街に付いた。
「おう、魔物狩りか。ありがたいな」
門兵に話しかけられる。
もう疲れたから話しかけないでほしい。
今日の狩りはこれで引き上げよう。
「はい。お金がないもので」
通行証を見せながら、立ち止まらずに答える。
「森はどうだった?どこか魔物の密度濃い場所なかったか?」
密度?
「狩り初心者なもので、なんのことだかわかりません。では失礼します」
「そうか。分かった。ゆっくり休んでくれ」
門兵に一礼し、東通りの商業ギルドへ向かう。
「お疲れさん。キャリオンリザードの尻尾とパイクシープだな。森からこれ一人で担いでくるとはいい度胸してんなぁ、おっさん」
商業ギルド裏の魔物受付のおっさんに言われる。
「お金が一つたりとも持ち合わせていないので、できれば、今日中に換金できるように手配できますか?今日食べる飯の金も無くて...」
「お、おう。大変だな。できるかどうかわからないが、今暇だから早くやっとくよ」
「ありがとうございます。おじさんそういえば、どこか無料でくつろげる場所知らないですか?」
最終的に南城門外の道端でもいいんだけど...
「ん?公衆浴場があるだろ?というかおめぇもおじさんだろ」
公衆浴場もあるのか。
「...お金がかからないところは無いですか?」
「だから公衆浴場だろ」
なんだと!?いますぐいかねば!
「それってどこにありますか!?」
「西通りの終わりにあるよ。早くいけ。おっさん流石に臭い。なるべく早く換金できるように手続きしとくよ。何もなければ今日の夜には換金できるかもしれん」
「わかりました!その頃にまたきます」
「こっちじゃなくて、下な」
とにかく臭うおじさん臭を落としに公衆浴場へ向かう!!
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