第24話

街道から離れた森の中まで来た。


「よし、今回は一人ひとりで魔物を狩ってもらう。腐ってる魔物中心で訓練するから安心していい。一緒に魔物を探して戦闘は一人。交代しながら戦ってもらう。最初はおっさんからだ。では、索敵開始だ」

「「はい!!」」


マヤさんと一定距離を保ちながら横に並んで森を進み、魔物を探す。


しばらく歩いていると、魔物を見つける。


「ベノムスネークだ」

「...はい」

「よく見つけた。動きは鈍いが、毒に気つけろ」


ベノムスネークは体長2.5mほどで成人女性の太もも位の太さの腐った蛇だ。基本的に腐っている系の魔物は動きが鈍いが、強力な毒を持っている。


「いきます」

「......」

「解毒剤は持ってきている。焦らずやれ」


初めての一人戦闘だ。

気持ちを落ち着かせる。

私は魔物狩りウィッ○ャーになるんだ!


ベノムスネークはこちらに気がついており、遅い動きで首をもたげる。


私は剣鉈を抜き、ゆっくりとすり足で距離を縮めながら、ベノムスネークの動きを注意深く観察する。


すると、射程圏内に入ったのか、もたげた首さらに引き、私の右足目掛けて伸びてきた。


昔映像で見ていた超高速な蛇の攻撃を予想していたが、その3分の2位の速度だったので、右足を左足側に引き寄せ、その勢いで右側に向き、剣鉈をベノムスネークの頭部目掛けて、叩き切った。


「素晴らしい。いい動きだ。蛇タイプの魔物は的が小さい上に動きが独特だから戦いづらい相手だ。あえて指摘するなら、狙われた右足を左足側に引き寄せた時点で武器を振りかぶっていれば、後、2秒ほど討伐が速かった」


兵士からお褒めのお言葉をいただきながら、

蛇の遺体からは、深淵の赤霧が噴出し、体にまとわりつき、吸収される。

雑魚モンスターだと30~40匹で第一副作用が発症すると言っていたな。もう少し蓄積させれば体感的に何かを感じるのかね?


「ありがとうございます。参考にさせていただきます」

「つぎぃ!」

「...はい!」

「...」


マヤさんの番。

頑張ってと全力で応援したいところだけど、嫌われているので、特になにも言わないようにしておく。


また森を散策する。


「...ぁ...」


マヤさんは何かを見つけたようだ。

彼女が向いている方向を見ると、

この間狩ったのと同じロッテンラットがいる。


「では...やります」

「動きは鈍いが、毒に気をつけろ。さっき教えた動きを意識して体を動かせ」

「はい!」


マヤさんがんばって!

応援だけはするよ。

襲われても助けないと思うから!

私あなたに嫌われているので!

どうせ襲われているところを助けても、

『なんでもっと早く助けないのよ!このクズ!どうせ襲われるの待ってから助けるって決めてたんでしょ?そんなことしたって絶対に無いから。おじさんとは絶対に無い。無い無い。おぇ〜〜〜』


「お嬢さん案外やるなぁ!」


あれ!?いつの間にかマヤさんねずみ倒してた!


「指摘するなら、剣を片手で刺すときに体から剣が外側に離れている事だ。脇を締めるように意識すればもっと腕に力が入るはずだ」


先生は見本を見せながら教えてくれる。

わかりやすい。


「はい!ありがとうございます」

「次っ!」

「っはい!」


同じような要領で魔物を見つけ、焦らず回避と防御に念頭を置いて、隙ができた時に攻撃することを感覚で覚えさせる。


「さっきの動きは、違う。緊張が緩んで攻撃に夢中になっている。足運びが前のめりになっていたな。おっさん。調子に乗ったヤツからフレッシュマンになる」


調子に乗った覚えは無いが、兵士がそういうのだから、そうなのだろう。

確かに腐った系は動きが鈍くていい練習になるし、早く攻撃しちゃおうと言う気持ちもあった。

こいつらを倒せるようになったからって、な魔物も同じように狩れるとは限らない。


「すみません!ご指摘ありがとうございます!言われてみると確かに早く攻撃しようと内心思っていました」

「素直でよろしい。つぅぎぃ!」


マヤさんも同じように魔物を見つけ、相手が気がつく前に討伐している。ヤツらが遅いからできることと思った方がいいなこれ。


「お嬢さんよぉ。さっきから言ってるように、脇を開くな。癖になってるぞ。脇は人間の弱点だ。無闇に敵に弱点を晒すな。そんなに俺に脇を嗅がれたいのか?違うよな?だったら閉じろ!何度も言わせるなぁ!」

「...っ......はい!」


コイツ.........女の子に向かって。最低だ。



俺が言いたかったことを先に言うなんて...

先に俺に嗅がせろぉっ!!!


「つぎぃ!!...おい!おっさん!聞いてんのか!」

「っは!はん!」


私とマヤさんは魔物を狩っては交代を繰り返す。


「前のめりになるな!つぎぃ!」


「ぅわぁぁきぃをとじろっつってんだろ!!次!」


「おっさん足開きすぎだ!それじゃあとっさに動けんぞ!次!」


「お嬢ちゃん、へっぴり腰になるな!訓練の足運びを思い出せぇ!次!」


「攻撃に焦るな!確実に殺れると思ったときに突刺せ!仕留めた後に武器を手首中心でぐるぐる振り回すな!遊んでるときに次の魔物が来たらどうするんだ!次!」


「クッソがぁ!次脇開いたら思い切り脇の近くで深呼吸してやる!次!」


残念ながら、お前より先に私が深呼吸する!


「おっさん動きは頭では良くわかっているようだが、身体が追いついていない。痩せろ!次!スゥゥッ...ハァァァァ...わかってるな?」


兵士がマヤさんに鋭い視線を向ける。


「...っひ......はいい!」


「よし、なんとか脇を閉じたようだな。さっきも言ったように脇を晒すということは、弱点を晒すということだ。俺に脇を嗅がれるかもしれないという意識を持ってやれば大丈夫だ。とにかく閉じろ」

「......はぃ...」


マヤさんは引き気味に返事をする。

くそぉぉ!!

そこは脇を開いといてよ!クンカクンカァ

したかった!




同じようなことを10セット位行った。


「今日はここまでだ!今から帰ればちょうど飯の時間くらいだ。二人を全体的に見て思ったことは、まずおっさんは全体的に要領が良い。ただ身体が追いついていない。もう少し鍛えればマシになるだろう。魔物の動きが良くわかっているが、その知識が仇となる日がやってこないように、コイツはこうであろう、という思い込みはやめろ。図書館の魔物図鑑を読み漁ったのかしらんが、魔物図鑑の情報が魔物の全てではない。知ったかぶりのせいで魔物を狩っている態度が傲慢ごうまんに感じた。このまま直さないでいると、いつか魔物によって殺されるぞ」


た、確かにおっしゃるとおりです。

魔物の動きの鈍さ、読み漁った知識からか、どこかゲーム感覚なところがあり、コイツはこういう動作しかしないと、勝手に思い込み決めつけていた。

この兵士は変態だが、出来るやつだ。

素直に考えを改めよう。

魔物図鑑の知識が全てではないのだ。


「今、言われてはっとしました。自分でも気がついていなかった事を的確にご指摘いただき、ありがとうございます」

「次はお嬢さんだが、お嬢さんも要領が良い。さっき教えた回避、防御の一連の動きもよく理解している。後、手先が器用だな。このまま訓練を続けていき、悪い癖を無くせば、生身の魔物とも戦えるようになるだろう。ただ、年齢のせいなのか、おっさん二人に見られていたせいなのか知らんが、遠慮気味に感じた。なぜ生死が関わっているのに、遠慮する必要がある?自分がなんのために戦っているのか、今一度よく考えてくるんだ。戦いの場に、遠慮も恥ずかしさもいらない。あるのは生と死だけだ」


確かにそのとおりだ。

やればできる子なんだ。

だが、マヤさんはどこか、兵士が言うとおり遠慮や、恥ずかしさが感じ取れた。

年齢的なところがあるからしょうがないっちゃしょうがないだろうけど。

遠慮してたら、恥ずかしくて、

死んじゃいました。じゃすまないからね。

脇が見られたからって何だというのだっ!!


「...はい。ご指摘ありがとうございます...今一度、考えます」

「よし、では、現地解散だ。思った以上に魔物と魔物の距離が近くなっていたから、俺はもう少しこの辺の雑魚をぶっ殺してくる。来た道はもちろん覚えてるよな?俺の後ろ側をまっすぐ進めば街道に出る。で右で街だ。じゃあな」


今度は森からマヤさんとまた二人っきりだとぅ!?

それは全力でお断りする!!


「こ!今後の勉強の為に、本物の兵士の戦いを見たいです!ついていってよろしいですか!?」

「鈍足のおっさんには千歩譲っても無理だ。追いつけない。迷子になったら困る。帰れ」

「は、はぃ...」

「二人とも気をつけて帰れよ。じゃあな」

「「ありがとうございました」...ました」ペコ


兵士は森の中を走り去っていった。

確かにあれは追いつけない。


や、やばい...ど、ど、どうこの子とこの場で別れようかな...


どうせマヤさんは私のことをかなり嫌っている。

この場で別れたほうがお互いのためだ。

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