第23話

次の日


昨日より早い時間に目覚める。

赤黒い空を寝転がったまま眺める。


「赤黒いのは無いわ。不気味すぎる。まるで地獄だ」


立ち上がり、辺りを見渡すと空が赤黒いせいで、周りの景色も赤黒く染まる。

放牧されている羊は白に近いベージュの色合いだが、今は全身血に染まっているかのように見え、怖い。


「もう目が覚めちゃったし、今日からが本格的な異世界の始まりだ。気合を入れていこう」


今日は、午前からの戦闘訓練に参加する。

まだ時間もあることだし、体をほぐして怪我するリスクを下げておこう。


ん?そういえば、午前って何時からやってるの?聞くのすっかり忘れていたな。


「まぁいいや。早すぎるだろうけど、ストレッチ終わったら早速向かうか」


学生時代に部活開始前によくやっていたストレッチルーティンをやり終え、兵舎前の訓練場まできた。


誰もいないので、近くの横たわっている丸太に腰を掛けて暇を潰す。


やったことがないが、暇なので瞑想を試してみる。雑念を取り払う。

うまくいけば、自分が思い描いた時刻に一気に進むはずだ。


「...............」


え?やだ。すごい朝早くから臭いおじさんが待ち伏せしている!


「っはっ!!」


なんだ?逆に嫌な雑念が湧いてくる。

もう一度だ


「..................」


なんでいるの!?まさか私を一日中監視してたの!?キモい!こわい!


「っちがうんだっ!!っあ」


瞑想だめだこれ。私は恐らく瞑想向いてない人種だ。


ネットの記事で見たことがある。

瞑想を行うことにより、鬱に似た症状が現れる人が少なからずいると。


瞑想を諦めて、明るくなるまでとりあえず寝てみよう。体力を温存せねばならない。



浅い眠りを繰り返し

いつの間にか兵舎窓口に人が集まってきている。


「よし、いくか」


極力人の顔を見ないようする。

受付を済ましたらまた離れて目立たないところに居よう。

あの子が居たら、私は平静を保っていられる自信は無い。


人の集団を避け、遠回りして受付を済まして、離れたところで待機する。

大丈夫なはずだ。


マヤさん居てもあなた目当てでは無いことをアピールできるし、居なかったら無傷で過ごせる。


「じかんだぁぁ!!これより訓練をはじめる!!集まれ!!」


よし、開始された。しっかりと訓練を受けて、午後の本番に活かすのだ!!

生死が関わっている。気合を入れろ!


集まりの最後尾に立つ。


「よし、いつもの奴らだと思うが、初めての者や参加回数5回以下のものはいるか?手を上げろ」


前回そんな回数とかで振り分けてたっけ?

その日によって訓練メニューが違うから言い換えているのだろう。


該当者なので、手を上げる。


「手を上げたものはこの集まりから抜けろ。隣のこいつが教える!よし!今日は森にいく!準備しろ!」


常連さんは森でいきなり実地訓練か。


常連グループを抜け、別の兵士の目の前に行く。


「今日は二人とも午前中よろしく頼む。初めてのなら基本的な動きを教える。二回目以降なら動きの再確認だ。君たちはどっちだ?」


二人?

ま、まさか...

いや、見ないようにしておこう。


「私は二回目です」


当然私は二回目だ


「同じく二回目です」


聞き覚えのある声だ...

見ない見ない見ない見ない!!


「そうか。説明が楽でちょうどいい。防御、回避、足運びの見本を見せる。その後、見様見真似でやってくれ」


兵士が格闘技のようなスタイルで動いたり、拳法みたいな動きをしたりと、解説をはさみながらわかりやすく説明してくれるので、必死に真似る。


何十回も同じ動作を繰り返し、体に叩き込む。


「よし、なんとか形にはなってきたな。では、二人で向かい合わせになって、さっき教えた動きをしろ。そして相手を観察して、なんか違うようだったら指摘しろ。お互いに指摘し合うことで、飲み込みが早くなる。はじめ!」


向かい合うだと...


だが今は訓練だ!!

私情を挟むなおっさん!!


向かい合わせになり、顔を上げる。


「......ぁぅ...ぁ...」


モロにマヤさんでした。

午前に来たということは、

やっぱり避けられてました。


「...や、やぁ......キ、キガツカナカッタヨ...ヨ、ヨロシクネ」


気まずいっ!!


「..................よろしくお願いします」ペコ


頭を少しだけ下げる。ふわふわの茶髪が揺れる。かわいいでーす!!


今の間は、嫌悪の間だ。


だが、

そこまではっきりと意思表示をしてくれるのならば、私のこと嫌っているのね。はいはい。と、こちらも割り切ってと対応できるから楽なのかもしれない。

思う存分おじさんに嫌悪の眼差しを向けるがいい。

だぁが、嫌いな相手にも一応礼儀が言えるマヤさんはとても賢い子だ。


「はじめっつってんだろ!はじめぇ!」

「はい!「......はい」」


教えられた通りにいろんな動作をマヤさんとシンクロさせて行う。


マヤさんの動きを足の先から指の先まで注意深く観察する。


「マ、ママヤァさん!次の動作するとき足を開きすぎだと思います!」


緊張して早口にまくし立てる


「......こうですか?」

「そうです!」


「おじさん。上半身が前のめりになってます」

「っわかりました!」


今度はマヤさんから指摘を受ける。


「頭が前に出すぎです。...引っ込めてください」

「はい!すみません!」


いつも知らない間に首と頭が前に出るんだよね。単純に姿勢が悪いだけなんだけども。


「ママヤァさん真横の回避の時、わぅわぁきが開き気味です」

「.........はい」


脇が開いてるよと言いたかったんだけど、気持ち悪い感じになってしまった。

もう嫌わてるしもういいけども。


必死に動いて悪いと思われるところを素人同士で指摘し合うこと30分以上経過した。


「よし、いいだろう。動きはうまくできなくて当然だ。お互いに言っていることも間違っていなかった。ちゃんと頭では理解しているってことだ。後は体に叩き込むだけだな」


理解しているのかを兵士が判断するためにやってたのね。


「では、今一度見本を行う。真似して覚えろ。体に覚えさせれば、どんな状況でも考えなくとも体が動いてくれるはずだ」


兵士の動きを注意深く観察しながら、一緒に動き、体に覚えさせる。

それを何度も繰り返す。


「よし。動きが滑らかになってきたな。では、武器を持って森に行く。一回目でも教わらなかったと思うが、武器の訓練はしない。尖っている方を相手に突刺せば終わりだからだ。訓練する必要が無い。問題は今日覚えたことを忘れてただ突き刺す人にならないように気をつけろ。攻撃時にも常に回避、防御が取れる足さばき、体さばきが出来ているかどうかだ。攻撃に夢中になるな。常に安全に気を配れ。回避、防御の合間に余裕を見て武器を突刺せばいい。焦る必要はない。」


なるほど。すんなり出来るかどうかは別として、常に回避もしくは防御できる姿勢にしといて、相手の予備動作を観察して回避、防御その隙にプスッとやればいいわけね。


「それから、達人の域でもない限りは地面に足を離すなよ。ジャンプとかも禁止だ。翼が生えているなら別だが、地面に足に離した瞬間、次に足が地面に付くまで何もできなくなる。動きも魔物に予測されやすい。わかったか!」

「「はい!」」

「では、いくぞ」


街を離れ、北側の街道を進む。

本番は午後の狩りだ。

安全な状況で感覚を慣らしておこう。


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