第11話

「じっじゃ、じゃあ、いこうかっ!」

「...はい、いきましょう」


少女と兵舎へ向う。


しばらく歩く。特に会話はない。


「......」

「......」


な、な、なんでぼくの後ろを付いて歩くのだ!

臭い汗がバレてしまうではないか!?

恥ずかしい...

こっちに来てからおじさん風呂入ってない!

横に並べ!横に。


「ぁ、あ、あのぅ、なんで後ろあ、歩いてるのか、な...?」


歩きながら、私は頭を後ろに振り向いて、少女に話しかける。


「......?いけませんか?」


また少女はジッと見つめてくる。

は?

一緒に行こうと言ったのはあなたでしょう?

後ろに付いて行くとはおじさん聞いてないのよ!?

もしかして、これがこの街での標準なのか?

後、ジッと見つめてこないでほしい!

動揺してさらにワキ汗が噴き出してくる。

すっぱ臭いのわかるっ!自分でもわかるっ!


「べべ、べべつに、い、いけなくは、なないよ?ただ、は、は話しにくいなっておじさん思って...」

「...別に私はおじさんと話すことなんて無いですよ??」


少女は首をかしげて、ジッと見つめてくる。


「...ぁ...、そなんだね...」


は?はぁぁ??

な、何なんだこの子は!?

私も大概たいがいだけど、この子もおかしい気がするよ!!


「............」


歩きながら、兵士と別れてからの少女との少ないやり取りを何度も思い返して考える。



............っはっ!待てよ!?



この子は最初から私と会話する気なんて全くなかった。

目的地がたまたま一緒なだけだった。

だから、最初から後ろに付いて歩いていた。

私は臭いおじさんなんかと会話する気なんて全くないですよ。

と、意思表示をしていたぁんだ!


だけど、臭いおじさんは一緒に行きましょうと誘われたから思い上がって、てっきり話がしたいと勝手に思い込んで決めつけていた...

会話をするのだから横に並ぶのが当然だと。


つまり、この場合、頭がおかしいのはここの臭いおじさんだけだっ!!

とんだ勘違いをしてしまった...

恥ずかしすぎる!

恥ずかしすぎるぞ誠之助せいのすけ!!

恥ずかしさのあまり、全身から脂汗が噴き出し、目眩がする。

まずいっ!!第一副作用がっっ!!!



深淵の赤霧を蓄積していないのに、第一副作用が擬似的に発症する童貞おじさんであった。



それから、歩きながらなんとか自制心を保ち、落ち着きを取り戻す頃には、兵舎に到着していた。


「......」

「おじさん着きましたよ。ご飯食べましょう」

「あ、あぁ...食べよう...」


勝手に一人で勘違いして疲れ切った私は今度は少女の後を付いていく。


兵舎の中に入り、食堂の案内看板と匂いを頼りにうろちょろし、食堂の入り口に到着した。


「こんはんは。食事かい?紙を見せてちょうだい」

「「こんばんは」」


食事の入り口の横におばちゃんが座っている。

昼に受付で判子押してもらった紙のことか?

少女との私は紙を見せる。


「はい、入っていいよ。無料だから好きなだけ食べな。おかわりも自由だ。ただし、残したら次回から食べれないよ」


まじか!無一文にはすごく助かる!

食堂の中に入り、辺りを見渡す。

お昼訓練所にいた他の人たちも食事している。

お盆を取って、おばちゃんによそってもらうスタイルか。


「おー、い、い意外と広い食堂だな」

「...そうですね。早く食べましょう」


おばちゃんに食事をてんこ盛りに乗っけてもらい、席に座る。

少女が遅れてやってきて、向かいの席に座る。


「じじゃあ、た食べようか」

「はい」


よかった。ちゃんと来てくれた!

これで別の席に少女が座ったら、おじさん心が折れて体全体が青く変色しまっていたところだったよ。

無気力状態になってしまうところだったよ。


異世界に来て初めてまともな食事に有り付く。監禁部屋の食事は最悪だったため、余計に美味しく感じる。


少女が食事を共にしくれるのは嬉しい。

が、その感情も束の間。


気まずい。

せっかくの美味しい食事も、緊張して

次第に味を感じなくなる。


食事をしながら、少女との会話を試みる。


「そ、そそういえば、じぇこじ、じご自己紹介していなかったね。っうゎっ私はセセセイノスケと言う。ここ、この前に来る前の記憶がな無いのだがね」


美少女を前に緊張して、つい早口になってしまった。ほんとに我ながら情けない。


「セセセーノスケ。珍しい?名前ですね。マヤです」

「ママァ!ママヤさんね!とととっても素敵な名前ですね!」

「..............................ありがとうございます」


今の間はなんなのだろうか。

(この臭いおじさんほんと気持ち悪い。ウワッご飯にツバ飛ばすなし!汚い!無理!死んで!)

の間だったのだろうか。


「.........」

「.........」


っだ、だっめだぁ〜...

私には女性との会話はハードルが高すぎるっ!


結局何の会話をすることなく、食事を終える。


「い、いやぁ、ぉお、美味しかった!お腹いっぱい、おじさんとっても嬉しいっ!」

「.........そうですね」

「じゃわ、じゃ私はこれで失礼するよ!今日はありがとうね。ママァヤのおの、おかげで助かった!また戦闘訓練でいっし、いっし、一緒になることがあれば、よろしくね!」

「.......................................はい。こちらこそ、ありがとうございました」

「ででは、お先に失礼するよ」

「............」


苦しい!

あ〜マヤさん呼び捨てにしてしまった!!

苦しい!


プライベートで女性との関わりなく生きてきた私にとって、女性と食事を共にして過ごすのが、苦しい!!

美少女なのはいい事だが、美少女すぎるのもツライ。できればもう会いたくない!!


お盆を返却口に置いて、食堂から即座に退出し、兵舎を出る。

辺りは既に暗くなりはじめている。



「はぁ...やはり一人が落ち着く」


先程の居心地の悪さが消え、安堵する。

街の広場を目指し商店街を歩きながら考える。

これからどうしようか。

今日聞いた事を思い返し、途方に暮れる。


「狩った弱い魔物は売却できないから厳しい。商業ギルドというものがあるらしいが、とりあえず明日は暇だから行ってみるけど、身元の保証も無いから相手にしてくれないかもしれない。ツテも知り合いもいない。商売を始めるにしても、金がないから売り買いができないから厳しい。今日泊まるところが無い。食事は2日に一度だけ。異世界に来て早々手詰まりだな」


現代知識を活かして近代的な道具の設計図でも商業ギルドに売り飛ばすか?

いや、きっとふんだくられてこっちに利益が回ってくるとは思えない。

むしろ、どこの馬の骨かもわからない私の偉業はもみ消されて、奴らだけが儲かろうとするはずだな。絶対にそうだ。


目先の事さえ見えない状況に、また絶望する。


午前中は寝ころんでいたが、午後は刺激が強すぎる事ばかりで疲労│困憊こんぱいだ。

寝れそうなところ探してさっさと寝よう。

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