第10話

兵士は続けて、


「だから兵士たちは街道の巡回をする際、さっき倒した魔物のように、危険度の少ない魔物は基本的に放置して、危険度が高く、人や馬などを襲いやすい活発な魔物中心に討伐しているんだけど、その分、強い魔物程、多くの深淵の赤霧を抱えているため、すぐに蓄積され、早々帰還する羽目はめになるんだ。当然魔物の討伐が思うようにいかなくなる」

「そうだったんですか。ちなみにその副作用とやらの症状は......?」


副作用の度合いによって、今後の生活の主軸が魔物を狩って素材を売る狩人か、商人または職人になるか決まりそうだが、

商人兼発明家になるという手もあるけど、せっかく異世界に実際に来たのに、それじゃあやることはテンプレ脳内再生容易以下省略になりそう。


「まず、副作用一つ増えるごとに身体能力が一時的に強化される。もちろん副作用が発症している間だけだ。どのくらい強化されるかは、口で説明するより経験した方が早いので割愛するよ」


副作用だけだと圧倒的に不利だから、一時的にとはいえ強化してくれるのはありがたいかな?


「それを踏まえた上で、あんまり怖がらせたく無いんだけど、

第一副作用、頭痛若しくは目眩めまい

第二、手足の震え。

第三、皮膚感覚の感度低下、若しくは手足の痺れ」


なにこれ。もう第一で戦闘続行不可能じゃん。やばいところに転移してしまった...


「第四、幻聴若しくは聴覚の低下。」

「第五、目、鼻、口、その他などの粘膜系からの出血


出血までするの!?

想像しただけで恐ろしい!!


「第六、幻覚若しくは視力の低下」


目が見えない状態で戦えないんですが。

ちまちま第一副作用が発症したあたりでレベル上げしろということか?


「第七、発狂はっきょうによる自害若しくは自傷行為、または、狂人きょうじんによる無差別殺戮、または、気狂きちがいによる意味不明な行動、言動」


最後が一番やばかった...


「いずれにせよ、第七は、どの症状も敵味方の区別がつかなくなり、動くものを全て攻撃してしまうようになるそうだ。絶対に無いとは言い切れないが、近くに第七副作用まで発症している生物が居るなら、身体能力も大幅に強化されているから、死に物狂いで逃げるんだ。逃げ切れるかどうかは置いといて...」


絶対に遭遇したくない。

それって遭遇したら逃げ切れないってことじゃん!

おかしいだろこの世界。

お家に帰りたいよ!

帰ってお布団で眠りたいよ。


「第七から精神が崩壊する。と言われている。神へ深淵の赤霧を捧げられず、深淵の赤霧の蓄積が解放されないので、第七まで発症してしまったら、後戻りができなくなってしまう」

「「.........」」


第七やばすぎ!!ここはダークファンタジーな異世界なの!?恐ろしすぎるんだけど!!

異世界モノ小説読んでるときに、私も転生したいなぁとか思ったりしてごめんなさい!!

思っていた異世界と違いました!

お家に返してください!


ただでさえ、持たざる者状態で転移したというのに、誰からも歓迎されず、装備も金も与えられず、

ようこそおいでくださいました!勇者様!!もなかったというのに、

さらに絶望のふちに追い込む気か!!

私が何したというのだ!!

もっかい転移させろ!!

ここの異世界気に入らないからチェンジしてくれ!!



「...母に第三副作用までは聞いたのですけど、こんなにも蓄積が恐ろしいのですね」

「ほんとに恐ろしい...」


少女を怖がらせないであげて!

レベル上げ怖すぎ。

やっぱり安全そうな商人になろうかしら!?


「恐ろしいですね...兵士が国中で足りてない理由がなんとなくわかりました...」


と、少女は続けて言う。


「ははっ、そう怖がることは無いさ」

「副作用に慣れとか耐性みたいなの獲得するとかありますか?」


なんども経験するうちに耐性みたいなのが獲得できれば多少は楽になる。


「......残念ながら慣れることは無い...耐性も身に付かない。何度経験しても等しく、痛み、身体の不自由を味わうことになる...」


絶望的だ...


「...と、まぁ、座学は今日はこれくらいにしておいて、また詳しい話が聞きたかったら、兵舎に詳しい先生が居るから時間あれば聞いてみて。戦闘訓練では第一副作用まで気にすればいいからね。それより上は兵士とかになってから気にすればいいよ」

「「わかりました」」


聞きたいことがたくさんあったけれど、明日、兵舎の先生とやらが居れば、ご教授してもらおう。


「では、もう時間も残り少ないし、役割交代しながら、残り3、4匹倒したら街に戻ろう」


深淵の赤霧の話で怖気おじけづいてしまったが、今のところ、これを頑張るしか食っていく方法がない。かな?


気を引き締め直して

同じような手順で、少女と交代しながら、ロッテンラットを合計4匹倒したところで、兵士から本日の訓練終了を告げられる。

少女も案外やるな。

怖がることなくネズミを刺殺していた。


「よし、二人とも、今日はこのくらいにしようか。今から引き上げて街に戻れば、丁度夕食だ。ちなみに、訓練参加者の夕食は夕方5時から6時の間に提供されるから、覚えておいてね」


もうそんなに時間が経っていたのか。

盛りだくさんの午後だったな。


森から街道に戻り、魔物に遭遇すること無く街に戻った。

兵士と一緒ということもあり、城門の検問を受けずに入れた。


「今日は二人ともお疲れ様。初戦闘だったにしては優秀だったよ。これからもどんどん練習して慣れていこう」

「「はい!!」」


「それじゃ、私はまだ仕事が残ってるから、先に失礼するよ」

「「ありがとうございました」」


兵士と別れ、少女と二人きりになる。

気まずい。とても。


「で、では、私もこれで...」


気まずいので、さっさと別れることを選び、ラクしようとする童貞おじさん。


「うん???おじさん、兵舎の夕食たべるんですよね?私も食べるので、一緒に行きましょう」


少女にジッと見つめられる。


「っぅあ、っぅそ、そうだったネ...お、おおじさんと一緒にいこうかぁ...うん。うん...」


どもりまくる。

社会人になってからプライベートで女性とまともに会話したことが無いので、見つめられるだけで、動揺しまくりで、自分で自覚するほど身体中から噴き出した臭い汗がにおった。

特にワキ。くさぁ、くさぁぁっ!!

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