第6話

...それにしても魔物か。

どうやらあの化け物は本物だった。

あれに殺されなくて本当に運がよかった。

どう見てもフレッシュじゃなかったけど。


「話は分かった。明日、お前が言う場所のフレッシュマンが存在し、幌馬車の御者から証言が取れたら、街に入ることを許可する。悪いが、それまではここで過ごしてもらう」

「......っ...っぁ...っぅぇ......」


っくぅぅっさぁぁ!

あまりの臭さに顔をしかめてしまった。

てか、門兵の嘔吐えずきすごい。こっちだって頑張って耐えてるんだから、お前は尚更なおさら我慢しろ!


だが、これでやっと街に入れる!


「そう嫌そうな顔をするな。安心しろ。夕飯と朝食は出してやる。おい、後でこいつに新しい服をくれてやれ」

「.........っんがぁ.........っはぁっ!!!」


っんがはぁぁ...!くっせぇっ!!!

勘違いするな。

明日まで監禁されるのは別にどうでもいいの。

あなたの口の臭さに嫌な顔をしてしまったの。ごめんなさいね。


てか、変態門兵てめぇ!涙目になってるじゃねぇか!お前は慣れとけよ!!嘔吐えずくの誤魔化ごまかすのに、より大きな声だすな!


クソ!話しかけるとあいつ喋るからあんまり喋りたくないけど、お礼は言っとかないといけないし。


「...っぅ゛...っぅぉぇっ......ご飯と服まで...頂けて、心から...感謝...っんぷっ...致し、ます...」


嘔吐きで涙目になる。


「あぁ......お前の涙が嘘か本当かわからない時点では、同情もできん。だが、忘れるなよ。お前の言うことに虚偽きょぎがあった場合は、街に入れないからな。明日、街に入れた場合と、入れなかった場合の予定でも考えておくんだな」


お゛ぉ゛ぇっ!!!毎日濃縮された下水でもすすってうがいしてるのかコイツは!わかってるからもう喋るな!!

私も、お前の息の臭さに同情できない!!


「...はい...助言ありがとうございます」


これ以上何も話すことはないという意思表示のために頭を下げたままにしておく。


「よし、俺からは以上だ」

「ありがとうございました」


よし、もうそれ以上喋るなよ?

口臭便所兵は立ち上がり、扉へ向う。

変態門兵が扉を開ける前に、変態門兵に向かって、


「すぅぅーっ...はぁあぁっ...腹減った。.........おい、どうした?扉開けろ」


口臭便所兵は至近距離で変態門兵にデカイため息を吐く。


「......っぁ...っぬっんぐっ...っんぷっ!お゛ぇぇぇ!!...うぉ゛ぇぇ!」

「くっそ!お前のまた吐きやがったな!いい加減その貧弱な腹どうにかしろ!!余計な仕事増やすな!!」


うわぁ...変態門兵が吐いた。

臭すぎだろこの部屋!

変態門兵お腹弱い設定で誤魔化してるのか。

あれが上司とか。ふふ、ざまぁだな。

うぅっ、うぉぇっ!

時間差でこっちにも来た。


その後、変態ゲロ門兵による部屋の掃除が終わり、パンとよくわからない硬い肉とスープが夕飯に提供され、口臭便所兵の残り香とゲロの香りと共に夕食をいただく。

っうぅっ...っんぷっ...味はしない。


基本的にトイレ以外は部屋に監禁されるようだ。部屋には窓も無く、扉も閉められる。

扉越しに兵士を呼びつけ、布団を借りるついでに茶色の長袖シャツ、黒い長ズボンをもらった。


やることもないため、布団に横になったが、途端に眠気に襲われ、すぐに意識を失った。


────────────────────


翌日、特に起こされることもなく、よく眠れた。


扉の前に朝食がいつの間にか置かれている。

今、何時なのかわからないが、とりあえず朝食を食べる。昨晩さくばんと同じメニュー。味はしない。

食後、眠くなり、どうせ証言の確認が取れるまで出られないので、二度寝する。



「......き...!...い......おい!起きろ!」

「なっ!なんですか!?」


扉の前に昨日の変態ゲロ門兵が立っていた。


「昨日、お前が言っていたことが確認できた。記憶が無いのが本当かどうかはさておき、街に入る許可は下りた。くれぐれも問題は起こすなよ」

「はい!お世話になりました!」


これでやっと街に入れる!

証言の確認が取れたということは幌馬車の御者今日の午前中にでも帰ってきてたのか?

街で見かけたら改めてお礼を言っておこう。


だが、入れたところで一文無しだから、どうすればいいのか、わからないがな。

この野郎に聞いてみるか。


ちなみに、お金一切持っていないのですが、日雇いのお仕事はございますか?」

「そうか。...そうだな、腕に覚えがあるなら、ウチで雇ってもいいが?これから返すが、あの剣、見たこともない剣だが、相当な業物だろう?」


え?ぼくちんの狩猟用剣鉈けんなたが!?ま、まぁ、たしかに?旅行先で偶然、有名な包丁屋に寄った時に、一目惚れで13万円位で購入した日本刀と同じ製法で作られた自慢の剣鉈だけれども!

そして、私はお前とは絶対に働きたくない。


「あの剣がそうなんですか。自分が何者なのか、戦闘ができるのか、わかりません。他に日雇いでもいいので紹介してくれるような場所はございませんか?」


剣鉈の自慢がしたい気持ちを抑え、まずは、危険が少ないお仕事からやろうかな。


「そうだったな。日雇いで仕事はあるにはあるが、紹介してくれるような場所は無い。自分で探して交渉するしかない。畑耕したり、収穫の手伝いとか石とか土の荷運びとかの教えたらすぐ出来そうな、単純な肉体労働くらいしかないんじゃないか?」

「そういうものですか」

「そういうものだ。記憶が無いんじゃ、どの仕事も一から説明しなきゃならないだろ?そしてお前は身元の保証もない。言ってることが怪しすぎて、普通のところはいきなり雇ってくれないだろ」

「ですよね...」


これは絶望的だ。

何して食っていけばいいんだ!

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