第3話

リアルミイラを背にして全速力で森の中を走る。

急にこっちに向かってきたので、本能的に逃げる。


「アイツら頭おかしい!!」


もう片方の靴が脱げたことも気づかず、振り返りつつ全力で走る。


30mくらいの開きが出たところでミイラたちが追いかけてこなくなった。


「まったくなんなんだよ...頭おかしいだろアイツら...」


幸いリアルミイラ達は完璧に役に入っていて速度を出して本気で追いかけて来るわけではないようだ。

どちらかというと、演技メインでいかにそれっぽく走るかに夢中で腕なんか振り回して「ヴァ〜〜!」とか叫んでる。


「他の人を探そう。アイツらに近づいたらまた迫真の演技で追いかけてくるんだろ。あっ!靴が無い!......まぁ片方だけ靴より両足靴下のほうが歩きやすいか」


川を背にして森の中を進む。


「この辺に人がいたということは、さすがにここが山道とかキャンプ地からそこまで離れていないだろう」


そう信じてひたすら歩くこと1時間。

歩く方向間違えたかと不安になってきた頃、目の前に幅4m程の踏み固められた道が現れた。


「おおっ!!道だ!!これで山の中を彷徨さまよわなくて済む!なんとかなりそうだ!」


とりあえず下ってる方を進もう。

道がそれなり広く踏み固められてるところを見ると、観光客向けのハイキングコースに違いない。

まだ日が高いが暗くなる前に町に戻らないと。

できれば、テント無しで野宿したくない。

キャンプは好きだけど、サバイバルキャンプは大変だしやりたくない。


「というわけで、途中変な奴いたが、急いで下山だ」


足の裏をこれ以上傷めない様に、山道を直接歩かず、横の草が生い茂る所を歩くこと2時間。


「今、午後3時あたりかな?腹減った」


1日中ほぼ歩きっぱなしだから無理もない。空腹を感じながら、歩いていると、遠くから幌馬車を引くマッチョな馬とそれに乗った人がやってくるのが見え、ガチ遭難していない事に安心する。


「すごい!本格的だ!何かの映画の撮影か!!ま、まさか!さっきの変な奴らもこいつらの仲間だったのか!きっとそうに違いない!」


興奮しながら近づき、顔の彫りの深い外国人の御者に話しかける。


「こんにちは!お仕事お疲れ様です!何かの映画の撮影ですか!」

「こんにちは。エイガノサツエイ?どうしたんだ?服装がボロボロじゃないか。何かに襲われたのか?」


言葉が通じたのに驚く。が、この人ももう役に入ってた。さすがプロだな。撮影前からもう仕上げてこそプロの役者というわけか。あの変な人たちみたいに話が通じないのだろうか。


「いえ、この先の崖から転落してしまって、奇跡的に無傷だったのですが...」

「それは...運が良かったな...」


この人もこの後の撮影が控えてるだろうから町まで乗せてってくれないだろうな。スマホを借りて警察に相談する方法もあるけど、もうここまでくれば一人でも大丈夫だな。


「それより、私、道に迷ってしまったのですが、今あなたが来た方向を歩けば、どのくらいで町に着けますか?」

「あ、あぁ...2時間位歩けばつくと思うぞ」

「わかりました!ありがとうございます!お仕事頑張ってください!」


おぉ!近いぞ!帰れる!


「ありがとう...なぜ靴下なんだ?靴はどうした?」

「最初は履いていたのですが、歩いてるうちに脱げたことを気が付かず、今に至ります!」

「お前...頭大丈夫か?ほれ、これやるよ。捨てる予定だったゴミだから気にするな」


御者が幌馬車の中に片手を入れて、靴を放り投げられる。映画撮影の備品勝手にあげちゃっていいのか?

革製のつま先が上向きに尖ったボロボロのブーツを貰った。


「ありがとうございます!では、失礼します!あっ!撮影仲間でしたらここから2時間ほど進んで川の方面に1時間ほど進んだところに居ました!」


まぁスマホで連絡取り合っているだろうが、とりあえず、変な奴らの居場所を教えておこう。


「なんの話か知らんが、お前、ろくな装備もないのに街道から出てよく無事だったな。いいか、命が惜しいのなら、悪ふざけはやめてまっすぐ帰りな。じゃあな」


あくまでも知らない体でいくわけか。

流石プロというわけか。

ふっ、これ以上言うのも無粋だな。


「はい!靴ありがとうございました!」


外国人演者と別れの挨拶をする。

役に入りきってたけど、いいやつだったな。早速靴を履いて帰るとするか。


「サイズもピッタリだ。これなら速く歩けそうだ」


早速町に向かって下山を再開し、歩くこと2時間。

特に人とも、変な映画の役者らにも出会うことなく、下山できたのだが...


「えぇ〜〜〜〜っ!!!ここどこぉ〜〜〜〜!!!っどゆことぉっ!!!」


深い森を抜け、平原に出たが、1キロ位先に見えるのは、街全体を取り囲んでいるであろう黒っぽい灰色の城壁。

そして立派な城門。


「確かに下山途中に何回もちらっと見えてたよ?でも、現実的に考えてそんなことありえないじゃん...なにをどうやったらこんなところにたどり着くの...」


転落の衝撃、疲労と空腹で幻覚症状が現れたのかと思い、その光景を冷静に受け流していた。

日本にこんな立派な街は存在しないと。

だから、幻覚だと。


「あれこれ考える前に、現に目の前に存在してる訳だし、とにかくもっと近くで様子を見てみよう」


そうして、また歩く。

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