第12話 神対応

落ち着け、こういう時こそ深呼吸だ。

しっかり手を使って深呼吸をする。

ラジオ体操版ってやつだな。

大丈夫、俺はこの状況を切り抜けてみせる!


まずは田中くんにポケットティッシュを渡す。

このままだと教室の床が大変なことになりそうだからな。

しかし、田中くんは意識が無いようで白目を剥いて固まっている。

とりあえず俺はティッシュをねじって鼻の両穴に突っ込む。

ふぅ、完璧だな。


次に対処するのは目の前のビッチこと鷺沼だ。

出来る男は女に恥はかかせない。

まずは会話、そうコミュニケーションだ。

会話は基本的に相手の意見を否定すると拗れる。

だから『会話のさしすせそ』を用いる。


『さ』は『先に失礼します』

『し』は『しらす要りますか?』

『す』は『スカート捲れてますよ』

『せ』は『背中がガラ空きですよ?』

『そ』は『それはどうかな?』


あれ?なんか違うような?

まぁいいや。


「ねぇ拓也くん。一緒にご飯はダメなの?」


「先に失礼します」


「ちょ!ちょっと!それは酷くない?」


「しらす要りますか?」


「いやいらないよ!?いきなりどういうこと!?」


「スカート捲れてますよ」


「ひゃんっ!見ないでっ!」


そう言って鷺沼は俺に背を向けた。

完璧すぎて涙出てきたわ。

俺は背中に触れて囁く。


「背中がガラ空きですよ?」


「ひんっ!っちょ!それは反則だよ!」


「それはどうかな?」


「それはどうかなじゃないよ!はぁ、疲れた……。また来るから……」


ふぅ、マニュアル通り完璧に対応できたな。

マクド○ルドの店員もびっくりの神対応だったと思う。

そしてとりあえず会話のさしすせそ、これは完璧だということが証明されたわけだ。

俺は充実感に浸っていた。

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