第10話 奪われた

俺は号泣しながら、全力疾走で家に帰った。

すれ違う人全員がギョッとした顔で見てくるが、俺にはそんなことを気にする余裕など全く無い。


*被害

・犬の散歩中のお爺さん(78)が驚きで腰を抜かす。

・その犬は狂喜乱舞し逃走、6時間後市役所職員により保護。

・買い物帰りの主婦が驚きでレジ袋を落とし、卵12個全て割れる。

・自転車で下校中の男子中学生が転倒。

・塾に向かう男子小学生がビビり、少しチビる。



そんなことを知らない俺は家に着き次第、親を無視し部屋に引きこもる。

ベットで布団を頭から被り咽び泣く。

嫌でも思い出してしまうのは、あの艶かしい唇の感触。

ビッチに人生で初めて、1度しかないファーストキッスを奪われた。

鷺沼は確かに美少女だ。

だけどそんなことどうでも良い。

俺は彼女に体操服も、体育館履きも、ファーストキッスも奪われたのだ。

そんな自分が惨めでまた泣いた。

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