第25話
まる一日三人で遊びまわって、由美を残して私と公子は列車に乗った。年明けを電車の中で公子と過ごすことになるとは思わなかったけど、今までのどの大晦日よりわくわくしていた。
すっかり電車が寝静まった夜、私は上のベッドで眠っている公子に話しかけた。
「公子、起きてる?」
言葉はすぐに帰ってきた。
「起きとるよ」
私は寝返りを打って、聴き耳である右耳を上へ向けた。
「由美ってすごいいいコやろ?」
「うん、すごいいいコ。私が太鼓判押す」
公子の太鼓判なら間違いない。そんな公子に聞いてほしくなった。
「なあ公子、私ってな、すっごい幸せもんでな、ほんまにほんまに恵まれてんねん」
「そうなん?」
そうなの。私は本当に恵まれてる。
「だって私、何もしてへんかったのに、大切なことに気づけたんやもん。由美が来てくれて、象山さんが話聞いてくれて、人を好きになったりいろんなことにいろいろ感じられるようになったんよ」
「そっか」
「うん」
私は、聞いてみたかったことを言ってみた。
「公子なら、なんで私が今公子と帰るかわかる?」
「わかるよ」
さすがだ。公子はきっと、とっくにわかってたんだ。わかってて、私を甘やかさなかったんだ。
「公子からしたらきっと、私ってずーっと子供のまんまやったんやな。なんか恥ずかしいを超えて、もうなんて言ったらええかわからんわ。今度仏壇の前に立ったら、私なんて言っていいかわからへんわ」
公子はそっと、優しく笑った。
「おばあちゃんはあれで厳しい人やったから。でも、お父さんも子供みたいやった。ぜんぜん聞く耳持ってなかったし。そう考えると、あの時の映子は歳が歳なんやから、私もおばあちゃんも父さんや母さんのほうがアカンと思ってた」
そうなのかな。でも、あれからずっと今まで何年も何年も私は閉じこもったままだった。
「なあ公子、公子は先生やからわかるかな? 大人ってさ、なんなんやと思う?」
我ながらバカみたいな質問だったが、公子の前で格好つけても仕方ない。
「さあなあ、難しいこと聞くもんやな。わからんわ。昔はさ、自分でお金稼いで自立してたら大人なんやと思ってたけど、それだけやないよな」
それは私が身をもって知ってる。公子は言葉を続ける。
「結局、相手の気持ちを考えた上でいろいろ言ったり、行動したりできる人のことを言うんやないかな? 自分勝手に気持ちを押し付けたり騒いだり、そんなん絶対大人やないで」
うん、と私は頷いた。そして言った。
「いろんな人と話してわかってん。勝手に思ってるだけやと伝わらんし、一人だけの世界に閉じこもって自分のことを棚上げにしても、ずっと同じところにいるまま、何にも前に進まれへんってことが。でもこんな私は、恵まれてたからここまで来れた。ほんとに恵まれてる。だからもうアホでいたくないなって思う。今のままやったら、私はまだまだ素敵な人の残り物しか得られへんから。だからちゃんとお父さんとお母さんと話してみようと思う。なあ公子、話したらさ、わかってもらえるかな? 由美のところに戻れるかな?」
上のベッドから公子が頭を出して笑った。
「それはそらあんた次第や。でもな映子、私は絶対大丈夫やと思うで。あんたの姉の公子様がそう言うんや大丈夫や」
「ありがと、公子」
列車は私たちを故郷へと運んでくれる。どんどん父さんと母さんに近づいていく。怖さもある。でも大丈夫だ。今の私なら絶対大丈夫だ。
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