第23話

 十二月三十日の朝、由美と二人で公子を待っていた。私はわくわくしていた。はやく由美と公子に知り合ってほしかった。由美がどんなにいいコなのかはやく公子に自慢したかった。


 世の小学生はとっくに冬休みを迎えていたけど、学校の先生って、なかなかそういうわけにはいかないらしい。いろんな行事の調整とかなんやらかんやらあって、なかなか休みは来ないらしい。結局公子も昨日まで仕事があったみたいで、終わってすぐに寝台列車で東京に向かっている今に至る。きっと、へとへとに疲れているだろうと思うと、姉がかわいそうに思えた。それについてこさせられる景亮さんも。


「あ、公子さんだ!」


 由美の視線の先に目をやると、そこにはほんとに公子がいた。由美が先に見つけるとは思わなかった。確かに私と顔が同じなんだから、条件は同じだけど、まさか会ったことのないない由美のほうが先に見つけるとは思わなかった。


「ですよね?」


 由美は私に顔を向けて訊ねる。


「うん、あれが私のお姉ちゃん。公子だよ」


 言うや否や、由美は公子に向かって手を振った。


「こっちですよ!」


 と、元気に大きな声を出す。すぐに公子もこちらに気がついて手を振ってくれた。


「東京、ややこしすぎ!」


 遠くから、第一声がそれかよと思ったが、確かに田舎者の私たちからすれば、東京駅は迷宮すぎる。


「人多すぎやろ、アホちゃうの」


 近づいてからの第一声はこれだった。そして私の肩をバシバシと叩く。


「お盆ぶりやな映子。で、そちらの可愛らしいお嬢さんが――」


「神宮寺由美です」


「由美ちゃんね。映子からよう聞いてるよ」


「はい、初めまして」


 由美は私に耳打ちした。


「関西弁ですね」


 そりゃ関西の人だから。


 公子が不敵に笑って由美の前にまわった。


「せや、関西弁やで。この映子も――」


 公子は私にビシッと指をさす。


「――こっちではイキって東京弁話してるみたいやけど、本性は関西弁や!」


 私は公子の指をつかんで下ろした。


「本性って何や! それに東京弁ちゃう標準語や!」


 公子がにやーっと口の端を上げる。


「な?」


 素早く由美に目を向けて、由美もその目をしっかり見返す。


「はい、関西弁でした!」


 そして二人で楽しそうに笑う。ああ、もう公子のペースだ。私はこれから大変だろうと思って溜息をついた。


「あれ、景亮さんは?」


 いるはずのない人がいなくて公子に言った。会うのが楽しみだった公子の婚約者。


「あー、景亮はちょっと急な用事ができてしもてな、来れへんかってん。ごめん、言うの忘れてたな。せやけどまあほら、映子はもうすぐ会えるやん?」


 そりゃまあ、数日後には会えるんだけど由美にも紹介したかった。というかちゃんと言っといて。


「ええっー、公子さんは結婚するんですか?」


 由美が目を丸くする、そうだ、言うの忘れてた。


「あれ、映子から聞いてへん?」


 由美はうんうんと頷く。


「ふーん、せやねん、私な、春に結婚すんねん」


 おおーっと由美が感嘆の声を上げている。確かに、恋人の姉が結婚するってけっこうな大事。それを言うのを忘れてた自分が馬鹿に思える。でも、景亮さんとは一度もあったことがないのだから、実感が湧かなくたって仕方ない。


「なあ、こんな人込みはやく出て、どっか落ち着けるとこ行こうや。私、東京来んの初めてやし、由美さんに会うのもめっちゃ楽しみにしてたんやから」


 公子の言うことももっともだ。とりあえず喫茶店にでも行こう。


「私も、公子姉さんと会うのを楽しみにしてました。ほんとに映子さんと双子なんですね」


 由美はさっきからずっと公子の顔をじっと見ている。双子ってそんなに珍しくもないだろうと思ったけど、私だって由美に双子の姉がいたら同じ反応をしてただろうと気がついた。


「公子『姉さん』――か、由美ちゃんはええコやな、気に入った!」


「はい、お姉さん! アキコさんのお姉さんだから私にとってもお姉さんです!」


「おう、妹よ!」


 もう意気投合している二人を見て、私は嬉しくなった。

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