第5話
八月十三日の月曜日。その午前十時。お盆に入るということで、私は大好きだったおばあちゃんとおじいちゃんを
でも、両親と顔を合わせることは
さて、時間を今に戻そう。私は今、日本でいちばん大きいんじゃないかっていう歩道橋の上にいる。橋の名前を梅田新歩道橋といい、足の下を何十台という自動車が走り抜けていく体験はここでしかできないから、私はここが好きだ。柵から顔を出して下を見ると、視点がゴジラになったみたいで面白い。だけども周りが全部ビルとしか言いようがないところで、じめじめとしたお湯のような空気の中にいると、どうしても思ってしまう。東京もそうだが、都会は空気が汚くていけない。ここを行きかう人たちは、巨大なビルとそこにある物に浮かれるばかりで、この空気とか音とかが気にならないのだろうか。小学生の頃にトラウマになった映画では、公害によって怪獣が生まれてしまっていたが、あんなことが起こらないよう祈りたい。それにしてもあれはサイケデリックな映画だった。
「お待たせ映子」
たしか、カクテルパーティ効果というんだったか――喧騒の中で発せられた、決して大きくない声だったが、私は馴染んだそれをすぐに察知して首を動かした。聞くだけで心が穏やかになる優しい声。目を向けると、大勢の人が行きかう橋の上で、私が待っていた人がいる。自分の頬がゆるんでいくのがわかる。やはり分身ともいえる血を分けた双子の姉と再会すると、私は嬉しくてうきうきになってしまう。
私の声は、いつもより確実に高いところから出た。
「
公子のほうへと駆け寄る。お馴染みのツインテールがふわっと揺らして、公子も私のほうへと足を進める。
「ほんまにな。映子はお盆にしか帰って
私たちは双子で、それに加えて、公子が私と同じ表情をしていたから、やっぱり私は、私たちは双子なんだな、と、どうしようもなく思った。いつものようにからかいたくなる。
「ひょっとして公子ねえさまは、私が恋しかったんでごさいましょうか? 今日だって、慣れない運転で私をここまで迎えに来るくらいですものね?」
「電話じゃほんまに元気かわからんからね。顔見て安心したわ。夜行列車でへとへとの映子には無料迎車が助かるかと思ったんやけど、元気
私は笑顔を隠していられなくなった。
「なんやとー! 優しくない公子!」
私はそう言って公子の背後にまわり、持っていた鞄を容赦なく地面に落とし、自由になった両手で、公子のツインテールをがしっと掴んだ。ふざけたいという以外に理由らしい理由はなかったけれど、とにかく私は公子の髪に触れたかった。きれいな髪を揺すって遊ぶ。
「ちょっと映子、子供みたいなことはやめえや」
人前ということもあって恥ずかしそうな公子が可愛らしくて、私はますます楽しくなった。
「私と同じ遺伝子で双子のくせに! 自分だけこんなきれいな髪を持ってるから! やから悪いねん! ……って、やかましいわ! 私だってのばせば公子みたいになるんやからね、この!」
悔しくなって私はいっそう髪を揺する。くそお、このさらさらロングヘアーめが。
「何を自分でツッコんでんねん。とりあえずその手え放せアホ」
私はようやく公子を開放してあげた。「まったく」なんて言いながら、公子だってすごく楽しそうなくせに。
解放された公子は、さっきの私と同じように、柵から顔を出して走り抜ける車を見る。
「あんたの真似。やけど、低いから怪獣気分にはなられへんな」
私は鞄を拾い、汚れをはたきながら言った。
「ええー、そのためにここに公子を呼んだんやからさ、嘘でも私に共感してや」
私も公子の隣で下を覗き込むと、公子はツインテールを揺らして笑った。
「せやな。うん、じゃあ言い直す」
そして両手を怪獣?みたいに握りしめる。
「ほんまやー! もうゴジラになった気分やー! 大阪城も壊せそうやー!」
なんてあざとい顔だろう。まあ、私もよくやる顔だけど。
「心にもないことを言うのってさ、あかんと思う。罰として家まで運転してもらいます」
公子は笑った。
「はいはい、じゃあついて
そうして私たちは公子の運転で、私たちの故郷――奈良県の
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