第24話 おはモーニン!やっぱり愛から始まるラブコール!
「これはこれは金持ご兄弟の皆さん方、ごきげんよう」
ここから退けと怒鳴りたい感情を胸の内でためこんでは、引きつる笑顔でスカートを持ち上げ挨拶をする。こんな男たちのためになんで、笑顔がもったいないったらありゃしない。……っていっても、一般常識としてはね、朝っぱらだし挨拶は一応ちゃんとやらなきゃ。
「睦月、今日は委員会?」
「ううん……ないけど……」
「僕、帰りに本屋寄っていくけど誰か一緒に行く人~!」
「俺行かね」
は、挨拶無視とかいい度胸してる。まだまだお子様学生でよかったわね。社会人だったら腹パンされても文句言えないから。
それからは四人とは隣同士でも会話をすることはなかった。スマホを眺めたり、ボーッと八時二十分までバス停で過ごせば、一台のバスがやってきた。中には制服姿の学生がたくさん。それでも私には分かるよ。あの子がバスの外からでも、大人数が乗っていても、バスの中のどこに座っているか。
バスが白線にぴったりと停車をしては、ぞろぞろと生徒たちが降りてくるのを出待ち。一番目、違う。三番目、五番目……あーんもうっ、今日は出てくるのが遅い。こんなにも早く会いたいのに、どうして神様は意地悪するの? 待ち焦がれるあまり、ヒールで足踏みを鳴らす。
最後の乗客の靴が目に入る。それがすぐに松風愛理の足首だと分かれば、待ってましたと言わんばかりにペンライトをカバンから取り出して両手の五本の指に装着。からの深呼吸をして愛のオタコールを叫んだ。
「愛理おっはよお~ぅ!! 今日も可愛いよ~う! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ! 超絶可愛いあ・い・り! 愛理の瞳に恋してる! フゥーッ!」
ネット通販で買ったペンライトはそれなりに良品。しかしながらランダムに光る色とりどりのライトは夜や暗い場所で行うから映えるのであって、今みたく明るい時間帯にすれば工事現場のおっちゃんが使っていそうな誘導灯にしか見えない。誘導灯ならぬペンライトや縦ロールを振り回し、腰を下ろしてガニ股で。これらは恒例出待ちのパフォーマンスとなったので、生徒たちはサクサクと歩いていき、バスの運転手さんは真顔でバスを発車させていく。
「……ど、どうだった? 今日のゲリラパフォーマンスはっ?」
若い十代の体でもオタ芸コールは運動量とカロリー消費が激しい。ダラダラと流れる汗をハンカチで拭いて、愛理に今日の感想も聞く。これも毎度おなじみ。
「はい、とても素早い動きで感動しました。また今日も歌の方は聞き取れなかったのですが……やっぱり桃尻さんのダンスにどうしても目を惹かれてしまいます」
そう言っては両手を合わせてキラキラの憧れの瞳で見つめてきた。さすが天然ちゃん。素直にゲリラソーラン節だと信じ切っちゃって。か~わいいっ! にしてもダンスとかに興味あるのかしら。ぐちょメモ公式ファンブックのプロフィールにはそんなこと書いてなかったけど新しい一面が知れたってことでインプットっと。
「桃尻さんも飽きないね……」
「ふふ、羨ましいなら睦月もするべきね」
「やめとけ。こいつの真似したら死ぬぞ」
「あら? それじゃあぜひ真似してほしいものね。……ちょっとおいこら雅人! 愛理の隣に歩くのはじゃんけんで決めるってルールでしょ!? 抜け駆けしないで!」
人様の迷惑にならないのと、交通ルールのために四人と私で愛理の隣に誰が歩くか決めるじゃんけんのため、道いっぱいに広がって酔っ払いレベルで騒ぎまくって通学するのも毎日のことだった。下手すれば殺し合いに発展しかける日々だけど現代の社畜生活なんかより断然今が楽しい。そう思っていた。学校に着くまでは――。
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