第22話 私にはイケメンを殺めてでも、結ばれたい子がいる。
「本当によかった……っ!」
そう強く抱きしめては全身を震わせて泣きじゃくる愛理。あの屋上から走ってきたらしく、火照っている素肌が私の自分の冷えた肌に重なり合っていく。状況に似合わない青く澄んだ天を瞳に映しながら、彼女の背に手を置いて優しく抱きしめる。
「ごめん」
搾りカスのような声量でやっとでた反省の弁。その三文字では愛理の心配に割りに合わない。一人で空回って、暴走して、心配かけて、独りよがりな行動がこんなことを引き起こしてしまったのだから。
「ねぇ、愛理」
ぎゅっと抱きしめながら、私は独り言のように話す。
「あなた、金持兄弟のこと好き?」
これは私にとって、愛理への最後の質問。YESと答えがでれば、迷わず今後一切、金輪際近づかないように決めていたけど、天使のように優しいあの子のことならNOなんて答えは死んでもないから、わざとYESがでることを聞いた。ゲーム通り、金持兄弟の誰かとくっつけば、幸せになれる結末が待っている。私にはあの四人なら大丈夫だと確証もある。悔しいけど、彼らは彼女にとって愛を育む、とても大きい存在なのだから。YESさえ言えばいい。私は全て全部忘れるから。
「はい」
雑念はない、さっぱりとした答え。それでいいのよ、愛理。その答えが聞けたのなら私はもう、あなたを諦めることができるのだから――。
フッと小さくも吹っ切れた笑みを作ってから、よっこいしょと愛理ごと再び体を起き上がらせる。急に上半身が起きてしまったので、立ち眩みに近い特有の視界がくらくらと襲ってきているとき、私の肩に顔を置いていた愛理が出し抜けにこんなこと口にしだした。
「桃尻さんも好きです」
「んん!? な、なんですの急に!?」
「あはは、思ったことを言っただけですよ」
好きな子にこんなことを言われたら、びっくり仰天。貧血で血液不足だった体内は一斉に騒ぎ立て、沸々と血の巡りを活発にさせていく。
男だったら間違いなく欲望のままマットレスに押し倒していた事案。いつからこんな小悪魔になったんや。愛理、恐ろしい子……っ!
「私は金持くんたちと同じくらい桃尻さんのことも好きです。すごく大事な友達だと思っています」
「そう。もしかしたら、私に近づけばまた嫌な目に合っちゃうかもしれないわよ。それでもいいの?」
「はい。なぜかはよく分からないんですけど、桃尻さんが守ってくれる気がするから。それと愛理って名前で呼んでくれて嬉しかったです」
直視すれば失明レベルのふわっと愛くるしいオーラを解き放っている。今朝と同じように、彼女の背中から翼が生えたような気がして、そんな光景を前にしちゃったら私――!
「きゃ! 桃尻さん、鼻血が噴水みたく止まらない!」
「え? 鼻血? えへへ、また女の子の日来ちゃったぁ……なんつって☆」
「どうしよう! 三咲くん、ティッシュない!?」
「んほお~、頭がクラクラする……」
「あっ、桃尻さんが倒れちゃう!」
どうりで顔中心部が熱いと思ってたら鼻血が霧吹きみたく噴射されていく。この量は軽く一リットル越えてると予想。なんか生徒たちの逃げ惑う声やサリバンの悲鳴もするし、そらこんなの見たら恐怖でしかない。
……ああ~、ヤバいかも。もう今度こそ本当に死ぬかも。ちょっと次目覚めたら天国か病院かのどっちかだわ。マットレスに体を預けるのは本日で三度目。けどま、仕方ないよね。推しのキャラが可愛すぎるんだもの。
「ひぃい! 三咲にい、この血まみれパイセンをどうにかしてよ!」
「ば、押すな雅人!」
「とりあえず金持家のドクターヘリを呼ぼうか。睦月、お願いできる?」
「うん。今呼ぶよ恵兄さん」
チッ、お前らの会話を聞いて眠りにつきたかねーよ!
四人兄弟に悪態をついては朦朧とした意識が途切れていく。彼らの言葉が耳に届いても、私が頭に浮かびあげたのは松風愛理のみ。
目が覚めたら、またうんと抱きしめてもらおう。私もたくさんあなたを愛すから。ぐちょメモに飛ばされたのなら、もうあなたを諦めきれない。
イケメンを殺めてでも、あなたと結ばれてやるわ――!
【ぐちょぐちょメモリアル~桃尻エリカルート追加版~】
▶PLAY
CONTROL
EXIT
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます