第9話 あなたが知らないこと、全て私が教えてあげる。
あっはは~断られちった~☆ 舌を出してテヘペロッ! ……なんて吹っ切れるほどのメンタルは生憎持ち合わせていない。キッパリと断られた。私が、愛理に。嫌がらせの主犯格と被害者の愛理が一対一で話すところは実に見物だったのか、クラス全員が注目している中でのことだった。
え、なに? ちょっと待って待って。なんで断られるわけ? 全然理解できないんですけど……。
想像もしない展開が起きてしまい、ショックは大きく膝がガクガクと鳴った。とにかくメンヘラみたく「え、待って待って」の連発を心で呟いていた。
しかも桃尻は厄介な人物と噂でもされていたっぽい。さっきの廊下であったモーゼの件についてから薄々感じてはいたのが確信に変わった。その証拠に今、クラスの大半が断られて茫然と立ちすくむ私を見てクスクスと笑っていたのだから。
あ~……私って、なんて惨めなんだろ……。ううっ、なによう、泣けてきたじゃない……。
ズーンと頭部をがっくりと落とし、見かねた睦月が助け船を出そうとしたのか席を立ちあがった瞬間、
「ち、違うんです! 桃尻さんとトイレに行きたくないってわけじゃなくって、もうすぐで授業、始まっちゃうからっ! 本当に本当ですっ!」
愛理は耳たぶまで赤くしながらそう話した。見ている側からしたら言い訳とも捉えられてしまう。でも私は知っている。彼女は嘘をつかない。だからこそ、これは言い訳でもなく本心なのだとすぐに理解した。
ということは、愛理は私のことを嫌いじゃない。イコール、桃尻ルートに繋がる。イコール、私と愛理は結ばれる(ハート)
連想ゲームはポジティブ思考ゲームへと変化していき、そのたびに胸にかかっていた重荷がサーッと滝のように落ち、最終的には穢れひとつない清々しい気分になった。
「な~んだっ、そうでしたのね! うふふ、でも大丈夫ですわ。私、トイレなら三十秒で済ますタイプですの」
「さんじゅう……? え、えっと、ちゃんと拭いてその時間ですか?」
そこで天然発動!? まあ可愛いからヨシ。
「あーっと! そろそろ私の膀胱が決壊しそうですの! 早くお手洗いへ行きましょう!?」
「へっ?」
「さ、さ!」
「ええ~!?」
半ば強引に愛理の腕を掴むと、逃げるように教室を抜け出した。クラス全員が私との掛け合いに最後まで釘付けになっていたのは、もうどうでもよくって。単純に一刻も早く、この子と二人きりになりたかった。
真横を小動物のように小幅歩きをする愛理。少女感が残る幼き雰囲気は、初めてプレイしたときと同じようなオーラだった。まだ恋愛やその先の知識はなにひとつ知らない。イケメンキャラと触れ合うことで表情、価値観、知識がプラスされていく。
その役割を背負うのは全てこの私。だから安心して身を委ねていいのよ。
ギィィー……。女子トイレの扉は私の心情を表しているかのように、やけに大きく、最後にはねちっこい高音を残して閉まりゆく。
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