第8話 ついにやってきた最大のチャンス!私は私の道を行く!
バカでかく立派な校門をぬけては、私と愛理が在籍する教室へ気高さを感じるヒールをカツカツ鳴らしては廊下のド真ん中を爽快と進んでいく。
なぜか校内で履く靴までもが特注のピンク一色のハイヒール。校則というルールを突き出して出直して来いと教師から言われないのか逆に心配になるほど、桃尻エリカはぶっとんでいるというのが改めて感じた。
先ほど靴の裏面を見たら、有名な海外ブランドがでかでかと記載され、名高いブランド志向主義というのが丸分かり。まったく、自分で稼いでいないお金でちゃっかり高級ブランドなんて贅沢な……っ。
「うわあっと!」
現実の日常でもヒールは普段使いしない私。慣れない高いヒールの角度に足首がぐにゃあっと曲がりそうになった。
ああもう、外国製だから歩きにくいったらありゃしない! ブランド自体を否定するわけじゃないけれど、そこは安心安全のメドインジャパンにしろっての!
心の中で延々と文句を流しながら、ふらつきそうになる踵に必死に力を入れて目指せば、廊下にいる生徒たちは桃尻を目にするなり、自然と端に寄っていき、モーゼの海割りの如く遠い先の方まで道が開く。おかげで教室に速度を緩めることなく辿り着けたけど桃尻の奴、絶対嫌われてるわ。道を譲るより、あれは避けるという表現が正しい。
「ま、あんな性悪だと誰も友達になりたがらないわよねぇ」
小さく独り言を呟いては自分の席に荷物を置く。もうすぐ朝のホームルームなのもあって、教室にはクラスメイトがほぼ集まっており、たいへん賑やかな雰囲気がついつい忘れていた懐かしい感情に浸ってしまうが、そんなことより愛理だ。四人のうち、二人がいない。そんで三咲もサボり魔なので授業は出ないらしく、姿はどこにもない。一足先に着いた睦月と愛理は二人で会話をすることなく、睦月は読書。愛理は優等生らしく自分の席で教科書を開いて予習をしていた。
ふふ、なにこの最高のシチュエーション。すっごいチャンスじゃない。誰にも邪魔されない女子トイレに誘って一気に関係を深めてやるんだから!
もう瞳には愛理しか映っていない、完璧ロックオン。甘い花に誘われたミツバチのようにフラフラと近寄っていこうとした途中に、三人の女子がまとわりついてきた。
「エリカさぁん、おはようございますう」
「今日もあの貧乏人のところに行くんですか?」
「私たちでよければお手伝いしますよ」
なにこいつら全員もれなくぶっさ……って、エリカとつるむ性悪の取り巻きたちか。
「あんたら口臭い。どいて」
きつめの口調でズバリ。今後一切私に近づくなの意味も込めて言い切れば、取り巻き三人は、何を言われたのだろうかと言いたげなポカーン面で直立したのを堂々と横切っていき――
「松風さん、お勉強中ごめんなさいね。ちょっといいかしら?」
「え? あっ、桃尻さん!」
「うふふ、とても熱心なのね。すごいわ」
「いえ、今日は課題が難しかったのでその復習をしていたんです」
「まあ、そうなんですの」
机で教科書を開く愛理にフランクな態度で話しかけては口を再度開ける。
「松風さん、もしよかったらトイ……いえ、お手洗いご一緒にいかが?」
二人きりになるため、みんなのいる教室で呼び出すなんて青春の一ページみたい。学生時代にも経験してない甘酸っぱい行動がまさかアラサー近くになって体験できたことに感動を覚えては、淡い恋心も同時に揺れた。
さあ愛理、これが私の愛の招待状よ。受け取って。
断る性格ではないことを知っているため、ここはYESと絶対帰ってくる。もじもじと足を内股気味にして待つこと三秒程度。
「ごめんなさいっ!」
――撃沈。
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