39.失ったもの③友達④姉兄

 発病してから多剤大量処方の闇に落ちるまでの間に、私はそれまでの友達のほとんどを失った。ほとんどの人は、私の自傷癖や希死念慮に腹を立てて去って行った。


 かつての友から「死にたいだなんてわがままだ」「見てて疲れる」と言われると、私としては腹が立つだけだった。私としては、希死念慮は病気から来るもので、自傷行為はその結果であって、自分の本意ではないと思っていたからだ。


 時には「死んだらあの世なんか無い。無だ」と説教して来る友も居た。死にたい人間にそんな事言っても何も意味ないどころか火に油だ。特に、私には私の死生観があるので、そういう事を押し付けられるともの凄く腹が立つのだ。


 そうこうして、理解されないまま腹を立てられ、私も腹を立てている内に健常だった時の友達はほぼ居なくなった。


 その代わりと言ってはなんだが、B病院に転院してからは入院病棟や外来で病気仲間という名の友達が出来た。同じ精神障害者同士話が合うので仲良くしていたが、M先生と出会って回復期を迎えると、こちらとも縁が切れた。


 病気仲間と縁が切れてしまうのは、価値観の違いからという理由が大きかった。私は「回復して働いて自立するんだ」という気持ちがもの凄く大きくなっていた。

 一方、病気仲間は「そんなに頑張らなくていい。どうせ一生治らないんだから」というスタンスの人間が多かった。そうすると、話が合わないのだ。それで段々連絡を取る事も無くなり、自然と縁が切れて行った。

 

 もちろん、私が入院することが無くなったからということも大きな理由だ。それまで三カ月に一度は顔を合わせていた人間とその機会が失われたのだ。でも、父はそれを歓迎していた。父は、病人同士で傷をなめ合うことを良しとしない人だった。


 その他にも、病気友達と縁が切れた理由がある。

 当時の私は、人との距離の取り方が極端に下手くそだった。距離の詰め方が全然出来ていないのだ。よって、やたらベタベタしてしまったりして、相手を怒らせてしまったこともあった。


 失った人間関係は友人関係だけではない。姉兄との縁もぷっつりと切れた。


 八歳年上の姉は、発病から数年は理解を示してくれていたが、次第に母に「いつになったら治るわけ?」とメールするようになった。母は「一緒に生活してない人間には理解できない病気だ」と軽くあしらっていたようだが、私はとても悲しい気持ちになった。責められているような感覚にもなった。私だって好きで長年病人をやっているわけではないのだ。


 七歳年上の兄も、姉と同様初めは理解を示してくれていたが、次第に実家に寄るたびに、私を「自宅警備員」「無職」「ニート」と罵倒してくるようになった。私としては腹が立つを通り越す案件だった。


 そうこうしてきょうだい関係がこじれた所に、父が倒れる(一回目)という事件が起きた。その時父は大動脈瘤と血栓のダブルパンチで、即入院で大手術が必要になった。

 その時、姉兄はお見舞いに来なかった。姉は岩手県在住・兄は神奈川県在住だったが、来れない距離(うちは千葉県)ではないし、親が死にそうな大病という事なら仕事だって休めるはずだ。なのに、来なかった。

 手術当日、私がメールを入れても一向に返事が来なかった。だから、私は彼らを着信拒否にしてデータそのものを消してしまった。こんな大切な時に連絡を寄こさないのだ。もう連絡を取る必要は無いと思った。


 その二、三年後、私はM先生と出会ってクリアな思考回路を取り戻していた。そんな時、父が倒れる(二回目)という事件が起きた。この時は大動脈解離だった。父はまたもや即入院となった。この時は兄がお見舞いに来たが、父は一言も口を開かず兄を無視し続けた。こじれたのは、きょうだい関係だけではなかった。


 そうこうして、私と姉兄は絶縁状態、父と姉兄も交流無し、つられて母と姉兄もほぼ交流無し。という悲惨な状態が出来上がった。


 これは後日談だが、私はおいたんとの結婚を姉兄には知らせていない。母が「無雲が結婚した」とだけ伝えたらしいが、兄からは「どんな金持ち捕まえたか知らねぇが、俺は今後一切あいつの面倒は見ないからな」というありがたいお言葉を頂戴したらしい。姉からは「おめでとう」とだけコメントを頂いたらしい。


 本日の更新の最後に、二度も倒れた父について書いておきます。

 父は、その後またまた倒れたのですが(三度目)、この時は明確な原因は分からずでした(腰椎圧迫骨折二か所は見つかった)。とにかく貧血が酷すぎて危篤状態になったのですが、M先生のお友達がいる都内の大病院に紹介状を書いてもらい、入院治療して一命を取り留めました。そして、今ではピンピンと元気ハツラツに過ごしております。ちなみに、姉兄には知らせませんでした。


 今日は文章がけっこう長めになってしまいました(汗)。書いてて思いましたが、読んでて胸糞だったらごめんなさい(汗)。

 あ、あと、今は新しく出来た素敵な友達に囲まれてますし、専門学校時代の同級生とは交流が復活してますのでご安心ください♪


 次回は、失ったものシリーズ三回目の⑤就労の機会⑥運転免許証です!

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