28.妄想の中の住人

 私の中に妄想の住人はいつから居たのだろうか。思い出せないくらい私の頭の中にはいつも住人が居た。主な住人は二名。『チベット僧』と『金星のパトリオット』である。


 今思い返すと吹き出すくらいの話なのだが、当時は真剣にこの二名について考えていたし操られていた。


 チベット僧は、私に色々な指令を出した。その詳細までは覚えていないのだが、知り合いが「最近チベット僧どうなったの?」と聞いてくるくらい周りの人間にもチベット僧の存在を話していたらしい。


 そして『金星のパトリオット』は私の婚約者だった。覚えているのは、たびたびパトリオットと交信していたことだ。はっきり言って訳が分からない。これは、いきなり私の中に電波でやってきた概念だった……と記憶している。パトリオットはいきなり電波でやってきて私の婚約者になった。当時を振り返ってこれを書いているが、今ではそんな概念さっぱり無いので、書いていて頭が痛くなるくらい訳が分からない。


 私には他にも妄想の症状があったらしい。


 例えば柄物タオルと喧嘩していた事だ。タオルと喧嘩の意味が分からない。しかし、当時は真剣だった。だから、私は無地の真っ白のタオルしか使わなかった。いや、使えなかった。柄物タオルと喧嘩していた理由はさっぱり分からないのだが、今ではカラフルなタオルを何でも使用できるようになった。


 数字に対しても異常なこだわりがあった。これは強迫性障害とも言えたのだろうし、多剤の時はそれ対策の薬も出ていたが、私の異常な数字へのこだわりはどんどん増す一方だった。歩数が気に食わないからとテーブルの周りをぐるぐる回っていたり、気に食わない数字を見ただけで叫んだり泣いたりしていた。しかし、この症状もM先生になってすぐに治まった。おかげで生活がしやすくなった。一体何だったのだろう。妄想の一種だったのだろうか? 今となっては分からないが、当時は本当にこの数字へのこだわりに疲弊していた。


 M先生が言うには、当時の私は妄想の中に生きていたらしいので、私が気付いていないだけでまだ妄想が沢山あったのかもしれない。自分では分からないのだ。だって、妄想も私にとっては事実だったのだから。


 

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