23.子供を諦めた日。そしてK君との別れ

 廃人状態になる前から、それぞれの時期の担当医から止められてきた事がある。それは『妊娠』だ。抗精神病薬を大量に服用していた私は、妊娠しても胎児に奇形等の障害が出てしまうだろうと言われていた。だから、K君と付き合っている間も妊娠だけは避けなければならなかった。


 元来、私は子供が好きだ。親戚の子供と遊ぶのも好きだったし、近所に住んでいる子供とコミュニケーションを取る事も好きだった。そして、K君も子供が欲しかった。K君は長男で跡取りだったから、私に子供を持つ事を望んでいた。


 K君とのお付き合いが五年目を迎え年齢も二十代後半になると、さすがに『結婚』という文字もちらついていた。そこで浮上したのが子供問題だ。


 私は、子供に奇形等が出るのが怖かった。何より、育てていく自信も無かった。だから、子供を持つ事が怖くて怖くて仕方がなくて、ほとんど子供を諦めていた。でも、K君は子供を諦められなかった。それによりすれ違いが生じた。そんな私達を見ていて、ある日父の堪忍袋の緒が切れた。父が怒り狂うのを見て、私はもうK君と別れなければいけない時が来たと悟った。なので、自分からK君に別れを告げた。


 K君としては私の申し出に「ハンマーで頭を叩かれたみたい」と言っていた。K君は最後まで優しかった。こんな廃人状態の私を愛してくれた。ありがとう。


 そして、K君との別れの後、私はかなりの時間をかけて子供を完全に諦めた。


 月日は流れ、現在はM先生が担当になり、「子供を作って良いよ」と言われた時期もあったが、私としては今更子供を作って良いと言われても困惑しかなかった。十年近い年月をかけて子供を諦めたのだ。私は意識の奥と外面上に『子供嫌い』というキャラを作り上げるしかなかった。


 K君と別れてから五年後にEさん(後のおいたん)に出会い結婚したが、そのおいたんは子供を作れない人だった。だから、私はより「子供が可愛い・欲しい」と思う心を封印した。


 結婚からさらに三年以上が経った今では、子供を巡る心の葛藤にも決着が付いている。子供がいる人を素直に羨ましいと思えるし、友達に子供や孫が生まれれば素直に喜べる。その裏には、「自分に素直になっていいよ」という、K君からの風の便りもあったとかなかったとか。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る