22.侵されていく脳

 この頃の私の事を、K君はこう振り返る。


「無雲さんは、年々おかしくなっていった」


 多剤大量処方は、私の脳を完全にフリーズさせた。もう、自分ではその状態がおかしいと気付けないまでに判断力も思考力も奪われていた。一人では何も出来なくなっていた。公共交通機関を使うことも、通院も、ちょっとした買い物にまで母が付き添った。時には父も付き添った。何ならお風呂にも一人で入れなかった。一人で部屋で寝る事も難しくなっていった。


 母は危機感を覚えていたらしいが、なす術が思いつかなかったと語っていた。父は日中は仕事に出ていたが、帰ってくれば私がおかしいので「帰ってきたくなかった」と思っていたらしい。憂鬱すぎて電車に飛び込もうとまで思ったこともあるらしい。


 そうやって両親が追い詰められていることにも、私は全く気付かなかった。何も考えられない、何も感じない、周囲の事が全く見えていなかった。当時のK君の感情を聞いたことは無いが、K君も危機感を覚えていたんだろうな、とは思う。私との未来は見えなかったろう。どんどんおかしくなっていく私だったのだから、そんな人間との未来は考えられない。しかしそれでもK君は寄り添ってくれたから、今ではとても感謝を覚えているしその恩は忘れてはいけないと思う。


 当時の多すぎた処方薬の中には『頓服』も大量に含まれていた。私はその頓服を朝から晩まで求めた。何を飲んでみても具合が良くならない、ただただ不安感が強いし、訳も無く叫びたくなってしまう。その奇行の衝動を止める理性も無かったため、感情の赴くままに叫んだし、暴れたし、泣いた。


 私の脳は、に破壊されつつあった。で済んでいたのは、K君が何とか私と社会を繋いでいてくれたからだったのだと思う。この時も自傷行為は我慢していたし、ギリギリの理性の糸をK君が握っていたのだと思う。


 しかし、K君との別れが訪れる。それは次回!!

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