第11話 リンドンへドラゴンととともに

リンド国首都リンドン。


皇太子が亡くなった失意のあまり国王夫妻があいついで崩御。

そのあとを継いだのはすでに分家していた末弟。

つまり私の母の弟のコウチャン。

元は気立ての良い人だったように思うのだけど、なにぶんにも末っ子の甘えん坊育ち。

親子ほど歳の離れた兄・姉がうじゃうじゃとおり、いずれは大工になりたいと修行中であったのを、急によびもどされて王様業をすることになったので、かなり調子がくるってしまったようだ。

曰く「兄嫁・姉婿たちがお金の無心ばかりするようになり 会ったこともない遠縁の者たちまで金をせびりに来るようになったので人間不信になってしまった」とのこと。その一方で 急にリンドン国の富を手にして目がくらむ気持ちもあり、「予算を」「投資を」と言い騒ぐ者達に囲まれて 今やお目めクルクル状態なのだそうだ。

しかも直接の血縁者(私のおじ・おば・いとこ)は次々と死んでいく。


リンドン国の村から 我が領土、新設修道院へと移民希望者達が押しかけて来るらしいとの情報を得た私は、取り急ぎリンドン国の国王であり叔父でもあるコウチャンの元へと駆け付けた。


 国境からリンドンまではドラゴンにまたがればひとっとび。1時間もかからない。

敵襲と間違われぬように、リンドンの城壁を超える時には、母から受け継いだ徽章タチバナの紋のは言った垂れ幕を垂らして、王級の中庭へとすすみ着地した。


 どうして城門の前で着地しなかったかって?

 それは 門の前で着地したら、ドラゴンが飛び立つときに門の上の番兵たちを吹き飛ばす恐れがあったからだ。それに門の前で人々に取り囲まれたら悶着のもとにしかならないから。


 だからこそ 城の中庭までひとっとび。

すくに近衛兵たちが駆けつけてきた。

 兵たちのフットワークの軽さは尊敬に値するのだが、隊長クラスの足の遅さはいただけない。師団長の姿など全く見えない。これが敵襲ならどうする気だろうね。


 近衛兵の中でもっとも姿勢が良く素早い身ごなしであった男に声をかけた。

 「リンが叔父である国王陛下に至急ご報告申し上げたくお目通りを願っているとお伝えください。一刻を争う事態です」と。

 ちょっと大げさすぎると後でお叱りを受けるかもとは思ったが、確実に取り次いでもらうためには これくらい強く言った方がよいだろう。


 夕食に向かわれる途中の陛下にお会いすることができた。

 せっかくだから一緒に食べながら話を聴こうと言われた。

 そこで 内密に相談したいことがあるので、食後に時間をいただけるか、それがかなわぬのなら念話でお願いしますと言ったら、「食欲が失せた」とため息をついて陛下は回れ右。近くの小部屋で話を聞いていただけることになった。

 さすが叔父上。礼儀正しく忍耐強い。


小部屋に入ると早速防音と遮蔽魔法をかけて盗聴と覗き見を防止。

陛下には これまでの無沙汰とこの度の非礼を詫び、防音遮蔽魔法をかけたことの許しを請うた。


「うん すんだことはしかたがない。守りを固めることは良いことだ」

「それにしても ここまでして何用だ?」


実は・・とこれまでの経緯を話した。

 どうやら リンドン国の民人の一部が私の領地にむかっていることについての報告はまだ陛下の元に届いていなかったようだ。


「大臣たちが持ってくる書類は金の出入りに関することばかりでな、民の暮らしも街の様子もさっぱりわからぬのよ」とぼやく叔父上。

「それは困りましたね」


「それで リンの考えは?」

「修道院建設宣言をしてまだ5日。今はまだ領地には雨露をしのぐ仮小屋しかない状況。有象無象をやっとのことで追い払ったのに、移民と称して腹黒き者達に押し寄せられては困ります。 しかも 私が設立したのは修道院であって開拓村ではありません」


「しかし 実際 あそこは未開拓の土地であり、賊がいなくなれば誰もが欲しかる有望開拓地であることにかわりはあるまい」


「だからこそ 領地すべてを修道院として障壁で囲い、貪欲な貴族や商人たちの立ち入りを阻むとともに、東の無法地帯からリンド国への侵入者を防ぐ盾となりましょう。」「そのかわり、修道院を維持するための開拓民として 私が選んだ10人の大人と5人の子供たちだけに、リンド国から修道院へはいる許可証の発行をお願いしたいのです」


「リンド国を出国してリンの領地にはいるとはどういう意味だ?」

「ご存知のように 教会の土地は治外法権 どこの国にも属さぬことになっております。」


「しかしそれは 国家元首が教会の設立を認めればだ。しかも修道院はあくまでもその土地の領主や国王に属するものである」


「おじい様の時代になってから、リンド国の東の国境線はあいまいになっておりました。もとはデッドの地もリンド国の一部でしたが、無法者が住む土地となり、無頼の徒が占拠する土地がリンド国にあるというのは外聞が悪いことだと言い出す者たちがいたせいで デッドの地はリンド国の一部であってもリンドの法のもとにあらずのような状態のまま今日にいたっておりました。


それゆえ おじい様が亡くなった時に母の相続分としてデッドの地とリンドンとの間にあるあの細長い土地がわりあてられ、母一人ではあの地の領有権を守り切れないと言う理由で 当時まだ10才であった私があの地の管理者として選ばれたことをよもやお忘れでは」


「いくら魔法の才にたけしっかり者であったとしても 若干10才の少女にその任を押し付けたことは心苦しく思っている」


「はい 当時そのようにお声かけ下さった叔父上だからこそ こうしてお願いに参ったのです。どうか 我が領地を自治領としてお認め下さい。そして自治領であったとしても リンドの国土の一部であることには変わりなく、辺境の砦としての役目も背負うがゆえに、リンドの国民とリンドを通過する旅人が 我が領土に入るためには、リンド国国王の署名入りの許可証が必要であると宣言し 遠く遠国まで公布してほしいのです」


「うーん 許可証を出すのは構わないが 許可証にサインするのは嫌だよ。

 それでなくても 毎日 サインサイン決済決済とせまられてうんざりしているのに

 これ以上 目を通す書類が増えるのは断る!」


「ご安心下さい 当面は15名しか開拓移民を受け入れる予定はありませんから」

と名簿をちらつかせた。

「当面がいつまでを指すのやら」


「それは 陛下の手を煩わせずとも 開拓民の選別ができるようように制度設計ができるまで、が当面の範囲でございます」

「相変わらずの才女ぶり。身内なればこそ許せるがそうでなければ・・」

「わかっております。それはもう十分に 物心ついて10余年 骨身にしみて理解しておりますので」


「だからこそ 不憫だと思い このようなわがままも許すのが叔父としての精一杯」

「はい」

  目を伏せて軽く目礼してから お茶を入れ陛下の前に置いた後、自分の分も飲み干した。


「それがマジックバックというものか。そこからモノを取り出すところを初めて見た。マジックバック式押し入れというものを 家にそなえつけてみたかったな」

懐かしそうに叔父上がつぶやいた。

 そういえば 以前お目にかかった時、叔父上はまだ大工の修行を始めたばかりで

初対面の私の髪をひっぱりながら、「お前、魔法使いなら 隠し戸棚をマジックバックに変えて見ろ」なんて無理難題を吹っかけてきたお兄ちゃんであった。


「修道院の経営がうまくいったら、叔父上専用の宿坊を建てて、そこにマジックバック式隠し戸棚を据え付けられるか試してみましょうか?」

「おー いうねぇ。 よし 其れで手を打とう許可証の件は!。

 その代わり 教会への根回しはしっかりと、人の募集に関しても俺の手を煩わせるようなことは一切するな、もちろんリンド国の内政に負担になるようなことも!」


「かしこまりました。そのかわり 結界を切ってもリンド国から人が流れてこないように引き締めはきっちりとしてください」

「なに! 結界を切るのか?」


「人の出入りのために結界の一部を開けたり占めたりするのは負担が大きいですから。

 リンド国との境界線に沿って塀をたてたら そのラインだけ結界を切ります。

 だから塀ができたのちに その塀を超えようなんて考える者が出てこないように、リンド国側での引き締めを徹底してほしいのです」


「うーん わかった しかたがない。その代わり我が国への龍の乗り入れは、その塀に開けた門からこの城の中庭へ一直線のコースだけにしてほしい。

 さもないと兵が混乱する」


「王都への進入路は中庭一直線にするようにいたします。その代わり リンド国側の門番による取り締まりは厳格にしてくださいね」

「へいへい お嬢様。それではとりあえず 話しはいったん中断して 腹ごしらえといたしましょう」そう言ってコウチャンは舌を出した。


 私とたった10才しか違わない叔父上は 御年23歳。人のよさそうな可もなく不可もなくと言った顔立ちの王様であった。


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