第104話 憤怒
抱きついてきたシルヴィが何故か俺から離れない。
ふとシルヴィの顔を見るとその目は細く鋭い目になっていた。
「ねぇ? エルビス。この甘い匂いなに? エルビスの匂いじゃないよ?」
何故か浮気した帰りのサラリーマンみたいな気分になってきた。
しかし別に俺とシルヴィは結婚は愚か付き合ってもいない。そもそもシルヴィがそう言う事を意識する年なのか、と言う問題も出てくる。
だから俺は堂々とすることにした。
「王宮で結構仲良くなった人が多かったからその人達の匂いが移ったんじゃないかな? 服の洗濯も王宮の人に任せてたから」
シルヴィは眉をひそめ、目を細め俺を睨みつける。
「ふーん。それって女の人?」
……エリシア姫は女性だし宮廷魔道士のエリウェルさんも女性だし、メイドのシャリアも女性だ……。
「そうだね」
正直今はシルヴィに構っている暇はないし、今すぐに何か攫われたみんなを助ける手段を考えたいんだけれど……。
と、考えているのがシルヴィにバレたのだろう。シルヴィは頬を膨らませてくるりと踵を返しそのまま家に戻っていった。
「あれ? シルヴィ?」
「選択肢を間違えたな。主様よ」
エルビスの背後に立ってずっと様子を見守っていたノータが俺の肩をポンポンと励ますように叩いてきた。
更に少し落ち込み始めた俺を追撃するかの如くノータの隣の空間が歪み始めた。
ディーネだ。
現実に姿を表したディーネは大きなあくびをするとニマニマと俺を見始めた。
「マスター、ああいう時は嘘でも誤魔化すんですよ。全く。マスターは駄目なんだから」
なぜ先程まで真っ昼間からぐっすり眠っていた奴に駄目出しされなきゃいけないんだろう? 理不尽じゃないか?
……無視しよう。
「あー。マスター。無視しないてくださいよ! 最近ノータとばかり話してずるいです!」
「だったらお前が昼夜逆転の生活をやめればいいだけじゃろ」
「そんな事言ったて……。あそこはマスターの潜在意識と繋がっている空間だから色々い面白い物が転がっているんですもん」
「それでも朝起きて夜寝るんじゃ。でないと今後のディーネは主様の危機にワンテンポ遅れて登場する奴になるぞ? ……さして強くもないくせに」
と、ノータが最後にポツリと言った言葉をディーネが聞いた直後、彼女は憤怒して手を文々と振り回し始めた。
「どうしてそんな事言っちゃうんですか! ノータのバカ!」
「なんじゃ? また口喧嘩でもするのか? 今の所2882回中2881回勝っておる儂に?」
「うぬぬ……。寝ます!」
ぎりぎりと悔しそうに歯ぎしりをしたディーネはそのまま煙のように姿を消した。
****
その後俺は家に入る事は諦め学校に向かった。
何か少しでも情報を得られるのではと思ったからだ。
相手に知能があり擬態能力があるので簡単には見つからないと思うが、それでも学校に行けば何かしらエルビスの知らない手段で追跡できる方法が見つかるかも知れない。
そんな淡い期待をしながら学校に向かったエルビスの目に映ったのは放課後の魔術学校だった。
そしてカインさんの修業によって恐ろしく強くなったサレンがクラウドを相手に修行をしている。
槍を振るうサレンの強さは怪力と言うより、未来予知による先制攻撃なのだが、まぁそんな相手にクラウドが勝てる訳もなく、クラウドは片手で弄ばれていた。
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※本日情報解禁されたので宣伝です。この度「転生先は回復の泉の中」がコミカライズ化する運びになりました。
今後もよろしくおねがいします
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