第102話 誤解

しばらく忙しくて更新できませんでした。投稿頻度を戻すので今後も宜しくおねがいします。

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「エルビス殿。こっそり城を抜け出すなら少し頼みたいことが。と言っても頼み事があるのは私ではないのですが」


 と、宮廷魔道士のエリウェルさんが少し複雑そうな顔をしてそう言った。

 そしてそんなエリウェルさんの背後には国王がおかしそうな顔をして立っていた。


「エルビスよ。そんな気まずそうな顔をするでない。先の話は聞いておったが、儂はお主を止めようとは思わんよ。止められるとも思っておらん。ただ一つお願いがあるのじゃ。いや、依頼と言った方が正しいかのう」


「はぁ。なんでしょうか。もしかして国外逃亡しようとする冒険者を捕まえるとかそう言う事ですか?」


「当たらずとも遠からずと言ったところかの。お主には黒錬金術使用者の取り締まりをして貰いたい」


 急にどういう心変わりだろう? 先週まで断固として城からは出さないと言った態度だったのに。


「分かりました。ちなみに具体的な仕事内容はなんですか?」


「うむ。こちらで黒錬金術師とその使用者の情報を入手するからお主にはその黒錬金術使用者の捕縛をして貰う。連絡手段である魔法石は後でエリウェルに貰ってくれ」


「分かりました」


「それと今は国内が荒れ狂っておる。お前さんの家族も王都に住まわせると良い。家はこちらで用意しておこう。メイドのシャリアも屋敷に住み込みにさせておこう」


 と、随分気前が良いことを言う王様。


 一体何を企んで居るんだ? と思ったけどまぁ悪い話じゃないし乗っておくか。


「分かりました。それじゃあ準備が終わったら城から出ます」


「うむ。よろしく頼むぞ」


 そのまま少し機嫌が良くなった王様は鼻歌を歌いながら城に戻って行った。そして王様の背中が見えなくなった頃にエリウェルさんが俺に話しかけてきた。


 エリウェルさんの手には綺麗な緋色の石が握られている。


「エルビス殿。これが連絡をする為の魔法石です。大事に持っておいてください。あと連絡は依頼の内容が決まり次第お伝えします」


「分かりました。じゃあ自分はそろそろ行きますね」


 俺はエリウェルさんから魔法石を受け取りゲートをシルヴィのいるハーミラの街に開いた瞬間、ずっと息を殺していたお姫様のエリシア様がパッと俺の前に躍り出るとそのままゲートを潜って向こう側に行ってしまった。


 その光景を見ていたエリウェルさんの口はあんぐりと開いたまま扉の向こうを凝視している。


「え、エルビス殿。扉の向こうは何処でしょうか」


「魔術学校のあるハーミラの街ですけど」


「っ! まずいです。今生活の基盤になっていた黒錬金術を廃止した王家に不満を抱いている人間は多い。何か事件が起きる前に連れ戻しに行きますよ! エルビス殿!」


 と、エリウェルさんは俺の腕をガッツリ掴むと俺の開いたゲートに入って行った。


 そして目を開けると先程の穏やかな景色は一変し、人々の喧騒な声や建築音が耳に入ってきた。


 ここは大通りの間にある小さな裏道らしい。


「ほぉ。素晴らしいです。一瞬で離れた地点と空間を繋ぐ魔法。とても興味深い……ですが、知的好奇心に溺れている余裕は無さそうですね。姫様は何処に行ったのでしょう?」


 エリウェルさんがキョロキョロと裏道を見渡す。

 しかし俺達の視界には姫様の痕跡は全く無い。姫様がゲートに入ってから俺達がゲートに入るまでそこまでタイムラグは無かったはずだ。


「大通りの人混みに紛れたんじゃないですか? 俺達の追跡を振り切るために」


「そうですね。……エルビス殿。何か良い魔法が無いでしょうか。いえ、別に私が貴方の隠している魔法をみたいとかそう言う理由では無いですよ」


 と、少し期待した顔でエリウェルさんはそう言った。


 だけど俺の頭に浮かんでくるのは再建が進んでいる街を吹き飛ばして視界を良好にする手段ばかり。


 実用的な魔法やスキルがかなり少ないなぁ。


「駄目ですね。特に思いつきません。地道に探しましょう。エリウェルさん」


「そうですか。では二手に別れましょう。私はここを出て右に。エルビス殿は左に向かってください!」


「分かりました!」


 俺達は大通りを出て二手に分かれると人混みをかき分けながらお姫様を探して街を走り始めた。


 エリシア姫は見ればすぐに貴族だと分かるドレスを着ている。

 すぐに見つかるはずだ。見つけたらそのままゲートを開いて問答無用でエリシア姫を王城にぶち込もう。


 しかしそんな楽観的な考えとは裏腹に街を一周しても姫様は見つからなかった。


「街を一周しましたね。エリウェルさん」


「ええ、まずいです。このままじゃ私文字通り首になっちゃいますよ」


「ハハハ」


「笑い事じゃないですよ! あぁ。もう! 何処に行ったんですか姫様ぁぁ」


 エリウェルさんの半泣き状態の声が街に響くがその声に反応する者は居ない。


 しかし俺の視線の先にはとんでもない光景が映っていた。


「エリウェルさん。いました。姫様です」


 そのまま俺が指差した先に視線を向けたエリウェルさんはボロボロになったドレスに身を包んだ姫様とそんな姫様の手を握り裏道に入っていくカインさんだった。


 まぁ普通にカインさんが姫様を助けたんだとは思う。

 けれど何も知らない人が見ると姫様を誘拐している真っ最中にも見える。


 そして俺の隣に立っているエリウェルさんもその中の人の一人だった。


「あの変態! いつか犯罪行為をすると思っていましたが今でしたか! しかし彼はこの国の英雄、彼を性犯罪者として吊るし上げる訳にはいきません。私が誰にも知られないように殺しておきましょう」


 と、目に殺意を迸らせたエリウェルさんは静かに大通りを駆け始めた。

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