第101話自体急変

「エルビス殿。黒魔種についてなのですがいいですか?」


 なんだろう? ある程度事情は話したはずなんだけど。


「はい。どうぞ?」


「そうですね。黒魔種についてもっと詳しく聞きたくて。貴方は黒錬金術が原因で生まれると言っていましたが、その詳細はおわかりですか? それを聞いた上で私はディアスール家の一員として行動するか。宮廷魔道士として行動するか判断させて頂きます」


 それを聞いた瞬間全身に鳥肌が立った。


 今俺の目の前に居る人物は俺の暗殺を企んでいた家族の一員? 戦ったほうがいいのか? でも今彼女は俺の発言でどう行動するか決めると言っていた。


 間違った判断をしたらエリウェルさんは敵対する。それは確実だ。


「そう言えば初めて王様に謁見した時、保存の鏡を見せると言いましたけど、まだ見せていませんでしたよね。その映像で決定的な映像を見せるそれでどうですか?」


「ああ、そうでしたね。色々立て込んでて準備するのを忘れていました。いいでしょう。出てくるのは何でしょうね。黒魔種が湧き出す所を見た記憶ですかね? ちょっと来てください。投影室に行きましょう」


 そういってエリウェルさんは俺に背を向け部屋から出ていった。

 続けて俺も部屋から出てエリウェルさんに付いて行く。しばらく赤いカーペットの敷かれた廊下を進み続けると、とある一室にたどり着いた。


 一見他の部屋と区別が付かない普通の部屋だ。


「ここです。安心してください。いきなり襲ったりしませんから」


「はぁ。まぁ襲われたら相応の対処をするだけなのでいいですけど」


「フフフ。勇ましいですね。まぁいいです。まずは……これを使ってください」


 そう言ってエリウェルさんは俺に手鏡を渡してきた。保存の鏡だ。

 手鏡を受け取ると俺はそのまま鏡を覗き込んだ。

 手鏡に波紋が広がり俺の記憶が頭から手鏡に転写されていく。


「出来ましたよ。これでどうですか?」


「ええ、これで構いませんよ。では見せて貰いましょう」


 エリウェルさんは俺の記憶を転写した手鏡を投影機の様な機械にはめ込んだ。そして慣れた手付きで魔術石を機械にはめ込む。


 直後魔術石は光り初め、光った魔術石から手鏡に光が当たり、反射した光が投影機を介して壁に投影される。

 映っている映像はあの黒ローブの男と初めて対面した日の俺だけしか知らない会話の記録。


「こ、これは。この人は……開発特区主任?」


 困惑するエリウェルさんを置いて映像は進む。


「こ、この人は……この人はすべて分かっていたのにそれでも黒錬金術を行使していたのか。きょ、狂人だ……。エルビス殿」

「なんですか?」

「私が間違っていたようです。この映像は国王に見せても良いですか?」

「大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。多分この映像があれば今エルビス殿の安全を脅かす障害の全てを除去出来ます。取り敢えず黒錬金術の禁止令が出るはずです。そうすればお父様……ディアスール家の当主も黒錬金術から手を切るしか無くなるでしょう。暗殺計画も霧散するはずです」


 ──そこからおおよそ一ヶ月──


 特にすることが無い俺はそろそろ王宮での生活に飽き始めて、ぼんやり中庭で日向ぼっこをしていた。


「エルビス様! ここにいらっしゃったんですね」

「あ、エリシア様。お姫様がこんな一般人に話しかけたら駄目ですよ」


 俺に話しかけてきたのは数週間前に無事目を覚ましたこの国のお姫様エリシア様だ。

 以前の病的な顔色の悪さは何処かに消え去り、彼女本来の綺麗な顔が見て取れる。

 そして安全確認が終わったのか胸には俺がエグドラスからもらったペンダントをぶら下げている。


「エルビス様そうは言っても私も暇なんですよ。毎日毎日身体調査。余った僅かな時間だって特に話し相手が居ない王城で一人ぼっち。そうなったら暇そうに日向ぼっこしているエルビス様に話しかけるしか無いじゃないですか」


 そう、あの日エリウェルさんにあの記憶を見せてから俺の外出は厳しく制限され、完全に俺は暇を持て余している。


 どうやら黒錬金術を推進していた貴族達はカイトを中心に反逆軍になったと言う噂だ。そして反逆軍の現在の所在は一切分からない。


 そう言う状況で国王は黒錬金術を制限するため黒錬金術禁止令を発令した。

 その為黒錬金術に頼り切っていた一部の人達。殆どは魔物たちと戦う為に戦力を高めようと黒錬金術に頼り切っていた冒険者達が国から逃亡した。


 つまりこの国の戦力は大幅に落ちていると言う事になる。その為早急に手を打つ必要がある訳で、そう言う状況で暗殺されかけていた俺を守るのは容易ではないと軽くここに軟禁されている。


「暇ですね」

「暇ね。と言ってもこの状況じゃあ私達明日にでも死ぬかも知れないし、今日と言う一日を楽しんだ方がいいと思うの!」


「んー。カインさんも帰って来ないし、俺もそろそろ王城から抜け出そうかなって思ってるんですよね」


「えっ? エルビス様もこの国から出ていくんですか?」


「いや、というよりも幼馴染を一ヶ月以上放置しているんでそろそろ……」


「ふーん。エルビス様は王城の外に出ても楽しそうですね」


「あれ? 怒ってますか?」


「別に怒ってないですけど。ただ暇なだけですぅ~」


「まぁまぁ。なんか面白い物見つけて持って帰ってきますから。それともディーネでもここに置き去りにしましょうか?」


『‼ マスター?』


 ディーネの驚きの声が脳内に響く。

 まぁ無視しておくか。


「ディーネさんですか? 別にいいです。あの人私のおやつ全部食べるし要らないです」


『酷い!』


「おほん! あー。ちょっといいですかねエルビス殿」


 俺の背後から女性の声がして振り返ると、そこには難しい顔をしたエリウェルさんが立っていた。


 やべー。聞かれたかも知れない。


「エルビス殿。こっそり城を抜け出すなら少し頼みたいことがと言っても頼み事があるのは私ではないのですが」

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