第100話 彼女の秘密
カインさんが更に詳しく爆発する魔石について俺に語っている間に俺達の目的地である『エリスター魔道具』の前にたどり着いた。
外観はかなり大きく高そうな店だ。そして客もそこそこ出入りしている様だ。こんな店の地下に暗殺ギルドの本部があるなんて誰が想像できようか?
「随分ちゃんとした店ですね」
「まぁそうだな。今からここをぶっ壊すと考えると申し訳ないぜ」
そう言いながらカインさんは剣を構えた。その重々しい剣を構えた瞬間店の中に居た客は何かに感づいたのか蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「よっし。全員逃げたな。じゃあ行くぞ! エルビスも構えとけぇ!」
爆発が起きた。それはもうとてつもない威力の爆発だ。爆発の中心部は元よりその衝撃を受けた周りの壁も残さず崩壊していった。
そして感嘆するべきなのは、店の周りの家は傷一つ付いていない所だ。長年の技ということだろう。
「エルビス。そこら辺が少し燃えてるから消火しておいてくれ。俺は少し暗殺ギルドの奴らに挨拶してくるからよ」
そう言ってカインさんが元々はカウンターがあったであろう場所の瓦礫を退け始めた。そしてすぐにその場所から地下への扉が出てきた。
「んじゃ。行ってくるから後はよろしく」
そう行ってカインさんは地下への扉に飛び込んでいった。
「俺も……火を消さないと」
カインさんの起こした爆発により至る場所がメラメラと燃えている。
俺は水魔法を使ってチョロチョロと火を消火し始めた。同時に地下の方で激しい戦闘音が聞こえ始めた。
カインさんの方は大丈夫だろう。だけどなんだろう。何で俺はここで地味に火を消しているんだろう?
「……地味だ」
そうボヤいた瞬間瓦礫が僅かに動いた。まさか誰かいるのか?
「大丈夫ですか?」
動いた瓦礫に向かって俺が走り出した瞬間。高そうな服を着たおじさんが瓦礫から這い出てこちらに飛びかかってきた。
手には不気味な紋様が描かれたナイフが握られている。
「馬鹿め! エルビスしねぇ!」
反射的に俺は剣に鞘が付いた状態でおじさんを殴りつけた。
「ぐふっ……」
元々怪我をしていたのもあったのかおっさんは本当にあっけなく撃沈した。そして手ナイフが落ちた。
「ふむ。こいつが主様を殺そうとしていた貴族のようじゃの。敵は想像以上に馬鹿だったということじゃな。何で暗殺ギルドの真上にある店に来ていたのか全く分からん。アホじゃアホ」
そんな事を言いながら唐突に出現したノータはおっさんからナイフを奪うと興味深そうにナイフを眺め始めた。
「黒魔術製のナイフ……いや、それ以上の何かが……何処と無くあの黒ローブの男に近いものが含まれている気が……。ふむ。主様よ」
興味深そうにナイフを見ていたノータは突然俺の方に振り向いた。
「このナイフしばらく借りて良いかの?」
危なげにノータがナイフをプラプラ
「大丈夫か? 持つことでノータに何か影響が在るとかなら駄目だ」
「それは大丈夫じゃ。問題ない。安心安全に扱う。まぁ問題が在るとすればあのアホディーネが何か間違った使い方をするかもしれんところじゃな」
……それだけで不安だ。自らに刺すとかそう言うことはしないだろうけど、例えばそのナイフを使って果実を切って問題が起きるとか考えれば考えるほど想像が無限に広がる。
「微妙な顔をしておるなぁ。ディーネには触らせん。安心しろ。主様よ」
「なら良いよ。それで? 問題のディーネは?」
「あいつは今腹を出して寝ておる。最近は昼夜逆転気味じゃな。そのうち矯正するからその辺も安心してくれて良いぞ」
ノータが腰に手を当て堂々とした様子でそう言った。その直後カインさんが入って言った地下への扉が勢いよく開いた。
「ふぅ。終わったぜ。エルビス……。ん? 何だそいつ。おかしいな。一人も逃した記憶はないんだが」
「こやつはそこの暗殺ギルドに依頼をしてきた貴族じゃ。馬鹿なやつじゃよ。アホみたいに主様に突っ込んで無様に叩きのめされおった」
「そうか。じゃあササッと中の奴らと一緒に勾留所に連れて行くか。エルビス先に帰っておけ。ここは俺が全部やっておくからよ。子供にやらせる仕事じゃないしな」
「分かりました。じゃあ先に帰らせてもらいます」
おれはカインさん軽く頭を下げるとそのまま王城に戻っていった。
そう言えば俺の暗殺計画を企んでいたのは二つの貴族だったはず。先程捕まえたのは一体どちらの家の人間だったのだろうか?
取り敢えずさっき捕まった男がその口で色々話してくれれば、もう一つの貴族も行動を控えるだろう。どのみち潰される両家ではあるが、面倒事はごめんなのでそのままおとなしく捕まって欲しい。
まぁそんなに物事はうまくいかないんだろうな。そう思いながら俺は自室に戻った。誰も居ないと思っていた自室には宮廷魔道士のエリウェルさんが立っていた。
「帰ったか。エルビス殿。私は個人的に貴方に聞きたいことが幾つかあって来ました」
彼女の目は真剣で熱意に満ちている。
「はぁなんでしょうか?」
俺は取り敢えず話を聞いてみることにした。いきなり拒絶する理由も無い。
だがそれがとんでもない状況になるとはこの時の俺は想像していなかった。
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