第99話閑話:シャリアは見た

次話はエルビス視点に戻ります。今回はメイドのシャリア視点です。

──────────────────────── 


王宮仕えのメイドの朝は早い。

 普段は一日掛けて他のメイド達と城の掃除をするが、昨日から仮とは言え仕えるべき人がいる。

 エルビス様が起きる前にエルビス様の朝食準備をしてお洋服を用意して、他にもたくさんしなくては。

 大丈夫。私はできる。だってエリートメイドだから!


 私は洗ったばかりの綺麗な仕事服(メイド服)に着替え部屋を出た。


 その瞬間クマのような巨体の男の人と正面衝突をする。


「わあっ!」


 大男にぶつかった私はそのまま地面に尻もちをしてしまいました。


「大丈夫か? 嬢ちゃん」


 私の頭の上の方で勇ましい歴戦の勇者のような声がする。顔を上げればそこには私の知っている人がいた。


「か、カイン様! す、すみませんすみません!」


 私はすぐに立ち上がり何度も彼に頭を下げる。カイン様はこの国を救ってくれた有名人。そんな彼にぶつかっただなんて知られたら、怒られてしまいます。


 しかしそんな私にカイン様は気にするなと言って立ち去ってしまいました。


 私もうかうかしていられません! エルビス様の朝食を作らなくては! 師匠のカイン様がもう起きているのです。エルビス様ももうすぐ起きるに違いありません!


 私は厨房の一角をお借りするため少し速歩きで厨房に向かいます。そして厨房まであと一歩と言うところで普段一緒に王宮の清掃をしているメイド仲間アリシアさんに出会いました。

「おう、おはよう。シャリア。じゃあこれ持ってくれるか?」

 アリシアさんはメイドの中でも男っ気が強くカッコいいです。そんな彼女に無理矢理ほうきを押し付けられました。


「あ、あの! アリシアさん。わたし……」


「ああ、分かってるって。ちょっと遅刻したのは気にするな。ほれ。バケツも持ってくれ。今日は王宮の三階を掃除しよう。ほらこれでも食ってササッと行こう」


 そう言って彼女は私の口にパンを突っ込みます。


「もぐもがもがもが! もがっ!」


 全然分かっていません! 違うんです。私やらないといけないことがあるんです!


 私の声は口に入れられたパンによって塞がれます。


「どうした?」


 アリシアさんは不思議そうな顔をして私の顔を見ますが、このままでは駄目です!


「んっく」


 私はパンを飲み込むとアリシアさんにほうきとバケツを押し返しました。


「今日はだめです! 忙しいんですよ! じゃあまた今度」


 そのまま前を見ることもせず逃げるように私は走り始めました。

 次の瞬間天と地がひっくり返り、私の全身に息が詰まるくらいに冷たい水が降り注ぎました。


「ぴゃあああああああああ」


 なんということでしょう。バケツです。バケツ。アリシアさん私が逃げないように予め逃げ道にもう一つバケツを用意していました。


 全身に水を被った私は睨みつけるようにアリシアさんを見ます。すると彼女が半笑いをしながら口を開きました。


「何してるんだ? シャリア。大丈夫か? ったくお前はドジだなぁ。ほら着替えてこいよ」


 アリシアさんは何処から取り出したのか私にタオルを渡してくれました。


「あ、ありがとうございます」


 アリシアさんにお礼を言って自室に戻った私は予備のメイド服を来て再度部屋から出ます。するとそれを待っていたかのようにアリシアさんがこちらに来ました。


「シャリア。カイン様と国王様にお菓子と紅茶を届けてくれ。よろしく頼んだぞ」


 そう言ってアリシアさんがワゴンカートを私に押し付け立ち去って行きました。


 仕方ありません。エルビス様の朝食準備をする前に届けてしまいましょう。


 私は少し緊張してドキドキしながら王様の自室に向かいました。部屋の中から何か声が聞こえます。


「久しいのカイン」


「ええ、お久しぶりです王様。お元気そうで何より」


 聞き耳を立ててみますが何を言っているか聞こえません。今入って大丈夫でしょうか?


 私は軽く扉をノックしてゆっくりと扉を開けてみました。


 中では衝撃の光景が展開されていました。


 カイン様と王様が抱擁しているのです! 訳がわからなくなった私は扉を閉めアリシアさんの元に向かいました。


「アリ、ありリリリアリシアさん!」


 彼女を見つけた私はまくし立てるように彼女に今見たことを話すと、突然アリシアさんがお腹を抱えて笑い始めました。


「くは、くははははは。いくら何でもその勘違いはないだろ。シャリア。国王とカイン様は旧知の中だぞ。普通に再会のハグだよ。面白いなぁシャリアは」


 くぬぬ。馬鹿にされました。悔しい。悔しいです!




※シャリアの勘違いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る