第98話カインの『破壊の魔法石』
まぁ記憶を取り戻すと言っても現状何かいいアイデアがある訳じゃない。
取り敢えず今は身にかかる火の粉を振り払うとしよう。
黒錬金術を推奨している貴族だったか? 全く……。暗殺ねぇ。大変だねぇ。
『薄いです! マスター危機感が薄すぎます! そんな日向ぼっこしているおじいさんみたいなノリで暗殺を受け流さないでください!』
ディーネが頭の中で悲鳴のような声を上げる。
しかし全く危機感が湧いてこない。そこら辺に転がってる黒魔種の魔物の方が怖いまである。
というか俺いつの間にこんなに図太くなったんだろうか。転生直後はゴブリンに怯えていたけどまぁ色んな経験をしたという事だよな。
それが良いか悪いかは置いておくとして。
そんな事を考えながら俺はカップに入っている紅茶を飲み干した。
「まぁ貴族云々の話は置いておいてそろそろ行きませんか? カインさん。その問題の貴族の所へ」
「そうだな。じゃあ王様そろそろ俺らは行くんで後はよろしくお願いします」
カインさんが王様にそう言うと席から立ち上がった。
「ほら行くぞ。エルビス」
カインさんが俺の背中を押す。俺はそれに合わせそう様の自室から出ていった。俺達は王城の出口を目指し歩く。
「カインさん。件の貴族の居場所は分かっているんですか?」
「おうよ」
そう言ってカインさんは王様から預かった極秘書類らしき紙を魔法袋からぬるっと取り出した。
「お前の暗殺を狙っているのはゾグリット家とディアスール家の二つだな」
「あれ? そうなんですか? てっきり狙っているのは一つだけだと思っていました。じゃあ貴族の席は二つ開くんですね」
「まぁそうだな。なんだ? いっそのこと二人揃って貴族になるか?」
そう言って喉を鳴らしながらカインさんが笑う。
「冗談はよしてくださいよ。貴族とかしがらみが増えるだけで面倒くさいですよ」
「お、おう。なんか年老いたおっさんみたいなこと言ってるな」
そりゃー中身はもうそこそこいい年だからな。年齢を縦に積んで二十後半とするか横に積んで十代を二回経験経験しているかと言う考え方によって今の俺の中身の年齢は変わると思うけどな。
そんな事を考えているとカインさんが俺の肩を叩いた。
「まぁいい。それで暗殺ギルドと貴族の家どっちに先に攻撃しようか」
「暗殺ギルドですか。刺客が来るっていうのは暗殺ギルドからってことなんですかね?」
「そうだ。ゾグリット家とディアスール家の二家が暗殺ギルドに依頼をしたことによって今回の計画が漏洩した。ちゃんと書類を見たか?」
「はい。まぁかなり杜撰と言うか暗殺ギルドに任せっきりな感じがしましたけどね」
「そうだな。まぁ仮にこの貴族が俺ならこの書類の暗殺ギルドの暗殺計画以外にも極秘でもう一つくらい計画を立てて最初の暗殺計画をわざと失敗させた後に安心しきった目標に先鋭部隊を送り込んで殺すな」
えげつない。そんな俺の若干引きつった顔を見たカインさんは俺の頭をポンポンと叩く。
「ま、要は油断をするなってことだ。俺がしばらくはそばにいるから安心しとけ」
「ありがとうございます。じゃあ先に暗殺ギルドを滅ぼしましょう」
「それなら王都のエリスター魔道具店の地下にあるらしい。一通りの準備を整えたら行こう」
そう言ってカインさんは魔法袋から大きめの真っ赤な色をした魔法石を取り出した。魔法石は火の魔法石と違い中で渦のようなものが動いている。
「なんですかその危険な色の魔法石は……」
「これか? 俺の剣は剣の穴の部分に魔法石を嵌めると魔法石の効果を引き出せるんだが、この魔法石は特別製でな。振ると剣を振った方向が10メートルくらい爆発するんだぜ」
そう自慢げに魔法石を見せてくるカインさん。いや、怖いんだけど。何その凶器。
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