第97話 ゴリ押し
王宮生活二日目
今日は朝から王様に呼び出された。
俺はまだ眠い目をこすりながら王様の自室に向かう。今日は王の間では無く王様の自室に呼ばれた。
こんなよく分からない身元もちゃんとしてない俺を王様の自室に呼び出すなんて全くよく分からない国だ。
それだけカインさんの信用度が高いと言うことだと思う。
俺はシャリアさんと一緒に豪華な装飾が施された廊下を歩き王の自室に向かう。
そしてひときわ豪華な扉の部屋の前にたどり着いた瞬間シャリアさんがこっちを振り向いた。
彼女は前かがみになり腰に手を当て俺に視線を合わせると口を開いた。
「良いですか? エルビス様。下手したら大変なことになりますから気を付けて下さいね」
「分かりました。じゃあ行ってきます」
扉を数回ノックして中から返事が返ってくるのを待つ。そして中から王様の声が聞こえたので俺は少し緊張しながら扉を開けた。
王様の部屋は凄かった天蓋付きの大きなベッドがまず視界に大きく入ってくる。次に部屋の隅に置かれた豪華そうな読書専用と思われる机と椅子。
天井に付けられた高そうなシャンデリア。そして窓から見える豪華なバルコニーと綺麗な庭園。
王様はそんな部屋の真ん中に立ち俺を待っていた。
「どうじゃ? 昨日は寝られたか?」
王様は顔を合わせて早々こちらの様子を上機嫌そうな顔で伺ってくれる。
「はい。すごく寝心地が良かったです」
「そうかそうか。それなら良かった。ではこっちに来い」
そう言った王様は先行してバルコニーに続く扉を開けた。
バルコニーには白く綺麗なテーブルと椅子が3つほど置かれており机の上にはお菓子類が幾つも置かれていた。
更にそんな椅子にはカインさんが平然とした顔で座っていてお菓子を摘んでいた。
「おお、エルビス。来たか昨日ぶりだな」
「あれ? カインさん居たんですね」
「何だその居て欲しくないみたいな話し方は」
「いえいえ、気の所為です。それでどうしてカインさんはここにいるんですか?」
今日の王様が俺を呼んだ理由がカインさんに関係していることは何となく分かるが、一体何の用事だろう?
そう思っているとカインさんでは無く王様が椅子に腰を降ろしながら口を開いた。
「まずはそこの椅子に座れ。話はそこからじゃ」
俺は王様の指示に従い空いた椅子に腰を下ろした。
「さて、エルビスよ。お主が昨日持って帰ってきた雪化花については本物だと判明した。あの雪化花を薬にして完成したら娘に飲ませる。感謝するぞ。それともう一つの物品についてはもう少し時間がかかる。それについては待っておれ。報酬はその後じゃ」
「報酬を頂けるんですか?」
てっきり無報酬だと思いこんでいたけど、それなら有り難い。
まぁ特に使いみちも無いし面白いものとか貰えないかな。
そんな事を考えていると王様がテーブルに複数枚の書類を置いた。
「これは?」
「うむ。昨日お主が黒錬金術が黒魔種の出現の原因だと言ったな? あの発言を聞いてお主に良くない感情を持った貴族がお前を暗殺しようと計画を立てておる。数日後には刺客が来るはずじゃ」
「はぁ。随分行動が早いですね。もう少し綿密に計画を立てて行動するのかを思っていました。モロバレじゃないですかハハハ」
目の前にある書類には王様の持つどんな情報網から得た情報かという所まで詳しく記載されており、目の前の書類の信憑性は高い様に見える。
王様の情報網がすごいのかそれとも貴族側の情報保管能力が低いのかは分からないがお笑いものだ。
そんなあまりにものお粗末加減に笑いを隠せずにいると王様がポカンとした顔で俺を見ていた。
更にカインさんが楽しそうに笑いながら王様に語りかける。
「ほら、だから言ったじゃないですか。王。こいつはそんなことじゃあ怯えたりしないし気にもしないって」
「い、いや。しかしだな……。今エルビスは客人をしてこの王城に呼んでおる。こんな状況で襲われたり怪我をさせたりしたらいかんじゃろう」
「んじゃあ。俺とエルビスでその貴族をぶっ潰し行きますよ。どうせその計画を立てたサーマル家は爵位剥奪は確定でしょう?」
カインさんは俺の話など聞かずに勝手にそう言った。
いや別に構わないけどね?
「まぁそうじゃな。この計画内容からすれば十分にそれはありうるが……そうじゃな。縄で縛り付けてここまで連れてきてくれるか? それと今回の暗殺計画に関わっている組織を潰してくれると助かる」
「わーってますって。その代わりこれ期待してますからね」
そう言ってカインさんは手でお金の形を作り王様にジェスチャーを伝える。そんな普通なら打首されそうなカインさんの態度に王様は笑いながら口を開いた。
「分かっておる。お主には世話になっておるからの。期待しておれ。それとそろそろカインよ。何度も言っておるが貴族にならぬか? 爵位が余るしの」
「いやぁ。俺は元貴族ですし。貴族の面倒くささ走ってるので遠慮しますよ。そんならエルビスでも貴族にしてやったらどうですか?」
カインさんがそう言うと王様の視線が俺に向けられた。
いや……俺もお断りなんだけど。面倒くさいし。
俺はカインさんの爵位の押し付けに微妙な表情をする。
するとてっきり喜ぶとでも思っていたのだろうカインさんは微妙な俺の顔を見ると慌てた様に口を開いた。
「ほら、エスビス。シルヴィを結婚しようとしたら貴族にならないと無理だぞ? な? 貴族になろう。な?」
どんだけ貴族になりたくないんだよ。と思うくらいカインさんは俺に貴族になることを推してくる。だけど俺も“今”は貴族になる気は一切ない
どうしようかと考えいているとそこで閃いた。
カインさんは初めて時間を戻したタイミングで記憶を消失している。つまりシルヴィの姉。マリアさんの記憶も消失しているのだ。カインさんは当時マリアさんにベタぼれしていたはず。
だが彼も今は貴族ではない。マリアさんと結婚するには貴族になる必要がある。
つ・ま・り。過去の記憶……失った記憶を取り戻せばカインさんは自ら貴族になりたがるに違いない。
今この話を有耶無耶にして、その間にカインさんの失った記憶を取り戻す手段を見つければ勝手に空いた爵位は埋まるだろう。
「と言うか王様が貴族にならないかと呼びかけているのはカインさんですよ? 俺じゃないです」
カインさんがゴリ押しするから頭から抜けいていたが俺が貴族になるなんて話は一切出ていない。
俺の言葉を聞いたカインさんはその事に気がついたのか悔しそうに表情を歪める。
フハハざまあみろ。
そう思っていると王様が口を開いた。
「別にエスビスでも良いぞ? お主はカインと繋がりがあるし。カインが認める男じゃ問題ないじゃろう」
その瞬間カインさんがニヤリと笑った。
嫌だ。貴族にはなりたくない!
……カインさん記憶奪還作戦を始動させるしか無い!
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