第95話 付けていた者の正体1
周りのディーネを見る目は崇高な物を見る目と言うより、どちらかと言うと可哀想な人を見る目だ。
あっ。可哀想に……どうやらディーネは自分が精霊だと信じている変な人と認識されてしまったようだ。
帰ろうと思ったがそれなら話は別だ。普通にこの店で食べて帰ろう。
「主様よ。儂はチーズハンバーグで頼むのじゃ」
ノータが呑気に俺に食べたいものを注文する。チーズハンバーグ? そんな物があるのか。俺もそれを頼もう。
「ずるいです! 私もそれで」
「なるほど。じゃあチーズハンバーグ四つだな」
俺は店員さんを呼び出し注文をする。その際ディーネの事を変な目で見ていた。例えるならそう。狂人を見る目だ。
『何でですか! 私精霊なのに! 何であんな変な目で見られなくちゃいけないんですか! おかしいじゃないですか! うわーん』
ディーネは声を出す事を辞めテレパシーを使って俺に不満を伝えてくる。正直馬鹿うるさい。
というのも耳が塞げないから直接大ボリュームで叫ばれている為だ。例えるのなら耳に入れたイヤホンから爆音で音が流れているが、何故かイヤホンが耳から取れず強制的に爆音を聞かされ続けるようなものだ。
『うるさいのじゃ。それ以上叫ぶなら強制的に主様の剣に押し込むぞディーネ』
ノータが少しだるそうな顔をしてディーネを睨む。別に叫ぶのは良いのだ。俺が欲しいのはディーネのミュートボタンか音量調節ボタンだ。
大量にスキルを持っているし1つくらいそんな感じの能力獲得しないかな?
そんな事を考えている間にチーズハンバーグが1つ運ばれてきた。
「ディーネちょっと他の人の気を引いてくれないか?」
「わかりました!」
自信満々に立ち上がったディーネは俺の想像の数倍おかしな奇行を始めた。
彼女は体をくねらせながら店を闊歩する。酒を飲んでいるおっさん方から歓声を受けるディーネ。
そのスキに俺は周りの人にばれないようにシャリアさんの足元にゲートを開き、更に机に運ばれたチーズハンバーグをシャリアさんの現在居る世界に送った。
他の人から見たら突然人が消え料理が消えたように見えただろう。だが店の中に居る人間は奇行を始めたディーネに釘付けでこちらを見ていない。
俺は作った世界に干渉して向こうで困惑しているであろうシャリアさんに話し掛ける。
「シャリアさん。そちらの空間で食事を取って下さい。誰も見ていないので安心していいですよ。食べ終わったらこっちに呼ぶので」
「は、はい! ありがとうございます。本当に良いんでしょうか?」
「誰も見てないので気にしないで下さい」
「わかりました。ありがとうございます。それにしてもすごいですね。エルビス様空間魔法が使えるのですか?」
「まぁそんな感じです」
実際は丸々新たな世界を作り上げたのだが、そんな事は言う必要も無いだろう。と言うかディーネはいつまで踊ってるんだ?
あの娘絶対注目されるの楽しくなってきてるだろ。
『ディーネもう良いから帰ってきて』
俺のテレパシーが通じたのかディーネは踊るのを辞め帰ってきた。周りの客から残念そうな顔をされる。
しかしそんな事を気にしないディーネは運動して少し赤くなった顔をおっさんのようにタオルで拭いて深く息を付いた。
「ふぅ。疲れました。マスター次にハンバーグが来たら私にください」
そう言ったディーネに対しての反応は俺とノータで完全には分かれた。
「別にいいぞ。頑張ってくれたし」
「いいや! 主様より先に食べるとか普通に駄目じゃろ」
「そんな事ないです! マスターが良いって言ってますもん!」
それを皮切りに二人の喧嘩が始まりかけた。その喧嘩が始まる前に俺は彼女らに声を掛ける。
「ふたりとも喧嘩するなら周りに迷惑だから、口にしないで喧嘩してくれ」
今にも叫ぼうとしていたディーネはスンと口を閉ざしノータを睨んだ。それに負けじとノータもディーネを睨む。
他の客から見たらどう見えているのだろう? 色んな意味で熱を持った瞳で見つめ合った女の子二人は、互いに目を離すこと無く見つめ合い続ける。
もしかしたら相思相愛と思われているかも知れない。がその実彼女たちはバチバチに激しい喧嘩をしている。
最初は食べ物についてが争点だったのにいつの間にかお互いの罵倒に話が進んでいた。
『うるさいです。ノータのカチンコ頭!』
『カチンコ頭じゃなくて石頭じゃ。それくらいの言葉を使えんとは可愛そうなやつじゃ。主様も嘆いておる』
『そんな事ないですもん! 馬鹿の方が愛嬌があってきっと好きになってくれますもん』
『そうじゃな。だが精霊は人間とは結婚も交際も出来ないぞ。愛嬌があってもどうにもならん。必要なのは知識じゃぞ』
『うぬぬぬぬ』
そんなディーネ達の喧嘩が行われている内にいつの間にか机には3つのハンバーグた置かれていた。
俺は彼女たちの前に皿を持っていった。その匂いに反応した二人は喧嘩を辞め、皿を凝視する。
「ま、マスターもう食べていいんですか?」
「良いぞ。頂きます」
俺は手を合わせチーズハンバーグを口に入れた。懐かしい味にかなり近い。やはり以前確認した日本人転移者の痕跡は色んな所にあるようだ。
王都ということもあって定着しやすかったのかも知れない。
とにかくおいしい。
気が付いたらかなり大きかったハンバーグは無くなっていた。ディーネとノータも食べ終わっていた。
シャリアさんはどうなっただろう? 俺は小さなゲートを開きシャリアさんの居る世界を覗き見た。別に時間の流れる速度を変えたわけでも無いのにシャリアさんはゆっくりご飯を食べていた。
彼女は何処からでも呼び出せる。王城に帰っても良いだろう。
俺はお金を払い店から出た。そのまま街灯のある王城までの一本道を歩く。
その瞬間背後に誰か付けているのをハッキリと感じた。
「主様」
「うん。居るな。だけどこんな街灯の下で襲ったりしないだろうし。今日は大丈夫だろ」
「しかし日中も付けられていたじゃろう? ここで顔ぐらい拝んでおいた方が良いのではないか?」
「確かにそれは一理あるな。ちょっとそこの物陰に隠れて顔だけ拝んでおくか」
俺達は街灯の明かりの下から路地裏に走った。追跡者も続いて俺らに合わせて音もなく走ってくる。
次の瞬間俺はゲートを開き別空間に身を隠した。咄嗟に空間を作ったのでノータ、ディーネ、俺とギチギチの空間だ。
そしてゲートの隙間から追跡者の顔を拝んだ。
追跡者の犯人それは明らかに昼間の人物と違った。そう。俺達を付けていた人物それはカインさんだった。
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