第92話 納品
「じょ、冗談か? こんなに早く戻って来られる訳がなかろう?」
完全に俺が嘘を付いていると思い戸惑った様子の王様は、少し腹立たしげな顔をしている。
まぁ当然だとは思うけれど──これで普通にお出迎えされたら逆に怖いまである。
普通にこんな遠くの物品をたかが数時間で持って帰ってきたら誰でも嘘を付いたとは思うだろう。
まぁその疑いも証拠たる依頼品の花を見れば王様も信じる事になるだろう。
「とりあえずこれを見て下さい」
俺は机に王様が欲しがっていた花を崩れないように置いた。
その瞬間王様が目を丸くして花に顔を近づけ、震える手で花を手に取った。
「こ、これは……。おい! 誰か居らぬか!」
王様が大きな声を出し部屋の外にいる誰かに呼びかける。すると直ぐに部屋の前で待機していたのであろうメイドが扉をノックして入ってきた。
「何か御用でしょうかマルフェス様」
「エリウェルを呼んできてくれ」
王様の返事を聞いてメイドさんは静かに返事をすると、そのまま軽やかな動きで部屋を立ち去っていった。
そのまま王様は俺の方を見て口を開く。
「すまないな。しばらく待ってくれ。我が王城の宮廷魔道士ならこの花が本物か見分けられると思うのじゃ」
「そうですか。分かりました。ではその間にこちらのペンダントを見てもらえますか?」
俺はエグドラスから貰ったペンダントを机に置いた。
「なんじゃ? すまぬが……。これは火竜エグドラスが数百年前に我が国から奪っていったマジックアイテム『拡張のペンダントではないか!? 何故これをお主が』
「あーえっと」
エグドラス!? おい。これがこの国の盗品なんて聞いてなんだけど。これ変なことを口にしたら即牢獄行きじゃないか?
そう考えると一気に全身が緊張してカチコチと石のように固くなる。
「エグドラスと以前戦った時に彼から奪ったものです! このペンダントの効果が姫様の体の異常を何とかしてくれると思って、カインさんがその事は証明してくれます。是非カインさんに詳細を聞いて貰いたいです!」
俺はカインさんに全てを押し付けた。多分困惑しながら話を合わせてくれるだろう。
その火竜と仲が良いですなんて言った日には、この国の安全を脅かす存在と認識されるかも知れないし、この判断は間違っていないと思う。
そんな事を考えていると部屋の扉からノック音が発された。そして部屋に入ってきたのは、青髪ロングの美人さんだった。
てっきり宮廷魔術師と言うからイカツイ男なのかと思っていたので、俺は拍子抜けしてしまった。
その青髪の宮廷魔術師エリウェルさんは部屋に入ると、すぐに王様に立て膝を突き頭を垂れた。
そして彼女の口から凛とした声が発される。
「何か御用でしょうか。マルフェス様」
「ああ、この花が雪化花であるかの確認をそしてこのペンダントの効果を確認してくれ」
「かしこまりました。謹んでお受け致します」
そう言ってエリウェルさんは雪化花とペンダントを受け取ると、スクっと立ち上がりそのまま部屋から出ていった。
そして再び王様と二人っきりになった。
それにしてもこの国のガードはゆるすぎではないだろうか? 普通ほぼ初対面の子供を国王と一対一で対面させるか?
それともカインさんの影響力あっての信頼からのこの対応なのか? 仮にそうならカインさんは一体何処まで信頼されているのだろうか? もしかしたら俺はすごい人と知り合いなのかも知れない。
「ふむ。では彼女が確認を終えるまでエルビスにはこの城に泊まる事を許可しよう。数日程度じゃ。気を楽にして待っておってくれ」
「あの、王様。それは警戒心が無いのではないですか? もう少し僕のことを警戒しても良いかと思うのですが」
「カインの弟子にそんな事はできんな。あの男が居たからこそ、今この国は人々が笑顔で暮らせる国になっておる。儂はその恩を忘れない。だから儂の対応は間違っておらんと信じておる」
「なるほど。分かりました。では僕はどうすれば?」
「すぐにお主専用のメイドを付ける。メイドがお主を迎えに来たらその後はそのメイドと行動を共にしてくれ。それ以外にこちらから言うことは無い。書庫に行くも、外の街に行くも自由じゃ」
「分かりました」
俺が頷くのを見た王様は表情を一変させた。
「それで話は変わるのじゃが、どうやってあの花を取ってきたか教えては貰えぬか? カインはこういう時に秘密と言って詳細を教えてくれんのじゃ」
王様が詳細を聞いてこないと思ったらそう言う事だったのか。それなら俺も師匠を見習い出す答えは1つだ。
「すみません。秘密です」
俺がそう言うと国王はガックリと肩を落とした。
「やはりそうか。まぁお主のような者には力や技能が全てじゃからな。安易に他人に自分の力を話さない方がいいのは確かじゃ」
確かに……。だけど俺既に色んな人にペラペラ話して力を見せている気がする。大事な所は話していないが……。今後はもう少し気を付けるかな。
そんな事を考えていると、特に王様は何もしていないのに新しいメイドが部屋に入ってきた。
彼女は部屋に入ってっくるとすぐに王様に膝を付いた。
「マルフェス様。エリウェル様にエルビス様の仮仕えを命じられて来ました。シャリアです」
突然来たメイドさんに王様は満足気に頷いて口を開いた。
「うむ。やはりエリウェルは気が利くのう。儂が何を言うまでも無く先に手を回してくれる。エルビスよ。今日からエリウェルがお主の持ってきた花やアイテムを確認し終えるまで、このシャリアが主の専属メイドじゃ」
そう言って国王は部屋から出ていった。そしてメイドさんを二人っきりになった。とても気まずい。誰か何とかして……。
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