第91話 取ってきましたよ? 王様?

 王城内での自由をある程度貰い俺は王城から出た。初めて来た王都は今まで見たどの街より広く人が多く賑わっていた。


 この国は黒錬金術を推進しているだけあり錬金術関連の店が多く並びそんな店に人が多く並んでいる。そして俺はゲートを開く為の人目に付かない場所を探している。


 それにしても一人行動というのは久しぶりだ。今世の俺はどうやら人との縁がかなりあるらしい。一人になった回数など数える程度しかない。


 そんなよく分からない感傷に浸っていると何処かからか声がした。


『マスター? 私達を忘れていませんか?』


「……ごめん。完全に忘れてた。この一週間話しかけて来なかったから」


『マスターぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


 脳内でディーネの悲鳴が爆発する。頭の中で叫ばれるというのは耳元で叫ばれるのと違い直接脳内を揺さぶって来るので、不思議な気持ちになる。例えるなら脳みそを輪ゴムで縛り付けている様な圧迫感と言ったものだろうか?


『ディーネはどうでもいいんじゃが。主様よ付けられとるぞ』


 ノータがのんきな声でそう言った。振り返ると20メートルくらい後方にいるローブを着て顔を隠している男が物陰に隠れた。


 怪しいことこの上ない。もう少しばれない服装、ばれない態度というのは取れなかったのか?


 そんな追跡者から隠れるように物陰に隠れ即座にゲートを開き俺は目的地に移動した。


「それにしても一回行ったことがある場所になら移動できるっていうのは本当に便利だな」


『いや、普通にその魔法にはデメリットがあるんじゃが……魔力消費量が尋常じゃないんじゃが平然としてる主様は正直気持ちが悪いのぅ』


 グサリと言う音を立てノータの言葉のナイフが俺のガラスのハートに突き刺さりヒビを入れた。


「そ、そんなこと言ったってしょうが無いだろ。お前の主さん泣いちゃうぞ」


『大丈夫じゃ。ウチの主様は鋼のメンタルじゃからの』


 何だその期待……。まぁ正直そこまで傷ついてはいないので、彼女の言う通りなのかも知れないが。


 そんな事を考えながら俺はしゃがみ込み目的の花を一輪回収した。


「マスター一輪で良いんですか? いっその事大量に持っていきましょうよ!」


 久しぶりに外に出てきたディーネは寒そうに体を震わせもう一輪摘んで俺の手に押し付けてきた。


「はぁぁぁ。やっぱり外は寒いです!」


 そう言って姿を消した。どうやら最近外に出なかったのは寒かったからということらしい。 そのまま二輪の花を魔法の袋に収納して俺は再度ゲートを開いた。


 2つ目の目的地エグドラスの住処だ。あの時ブチ折った剣についてエグドラスは気が付いていないので俺も気にしないことにした。そのうちお詫びはしようと思う。


 俺が開いたゲートは前回のようにダンジョンの外に配置はしなかった。直接エグドラスの前に開いた。ゲートをくぐるとドラゴンのどデカい顔とエグドラスの鼻から出てきた熱風が俺の全身を包み込む。


 どうやらエグドラスは寝ているようだ。俺は彼を起こすために大声を上げることにした。


「おきろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 俺の叫び声が何度も何度もダンジョンに反響する。それでもエグドラスは気にした様子もなく寝ている。このまま何かアイテムを掻っ攫って行こうか。とも思ったが悪いので攻撃を加えることにした。


「火:龍魔法。ファイアーバレット」


 俺の魔力を吸い取りどんどん俺のイメージに合わせた形で龍が形成されていく。魔力により肉体を得た龍が一度叫ぶと口に火球を作り始めた。その魔力の濃度の濃さに空間が歪み、そこ口に集まった火球の熱波が俺自身の身も焦がす。


 龍に指令を出して火球をエグドラスに当てようとした瞬間、彼は飛び起きた。


「待て待て待て待て! 死ぬ死ぬ。それは起こすどころか永遠に寝る事になってしまうぞ」


 必死にバタバタと尻尾を動かし俺に命乞いをするエグドラス。それを見て俺は龍の口の前にゲートを開き別空間に魔法を放った。ゲートの奥から激しい閃光と轟音が聞こえてくる。自分で作った世界だから気にはしないが、こっちの世界でやっていたらこのダンジョンは恐ろしいことになっていたかも知れない。


「それで、何のようだ? こんな強引な起こし方して余程の理由が無かったら暴れるぞ」


「待て。エグドラス。俺は別にそんな強引な起こし方はしてないぞ。やろうとしただけで不発だ。俺は悪くない」


 そう言うとドラゴンのごつい顔が少し微妙な顔に変化した。正直ドラゴンの表情の変化で感情を読み取るのは難しい。だがまぁ今の表情通り微妙な感情ではあるだろう。


 だって俺がやられたら「まぁそうだけど。そうだけど。君の言ってる事は合っているけど。うーん」と言った微妙な気持ちになるだろうからな。


『分かってるならもっとまともな起こし方を考えるんじゃったな』


 少し楽しげなノータの声がする。


「まぁいいや。エグドラス。自然の力を調和してくれるアイテムとかないかな?」


「何だそれ? 自然? 調和?」


「えーと。この雪化花みたいな効果がある魔道具だよ」


 俺が魔法袋から取り出した花を見てエグドラスは興味深そうに凝視した。


「ああ、あるぞ。エルビスよ。押し花というのを知っているか?」


「なんだ? 藪から棒に知ってるけどさ」


「そうか。じゃあこのアクセサリーをくれてやる。魔法の効果がある花をこの中に入れて後は首から下げるだけでその花の効果を発揮し装備者に恩恵を与えることができる。拡張のペンダントだ。これは薬品の元になる花を入れて薬を服用しなくても良いようにするものなんだが」


 そう言いながらエグドラスが巨大な指でアクセサリーを摘むとこちらに持ってきた。


 俺はそれを受け取るとそのままアクセサリーの中に一輪花を入れた。その瞬間ペンダントのガラス部分に花が吸い込まれ元々そうであったかの様なデザインに変化した。


 とりあえず姫様には花を粉末にして飲ませてその後このアクセサリーを付けさせれば当分問題ないだろう。


「ありがとう。エグドラス。じゃあ俺はここで」


 彼に手を振り俺は再度王城の目の前に移動した。


「何奴!」


 その瞬間城を警備していた兵士に槍を向けられた。そして兵士が俺の顔を確認した瞬間槍を投げ捨てた。


「申し訳ありません。お客人様でしたか。客室まで案内します。国王様にご用事で?」


「そうですね」


「分かりました。国王様に連絡をしておきます。ではこちらに」


 俺は兵士さんに付いて行き再び王城に入った。一度目と違い見送りのような者が居らずすんなりと客室にたどり着いた。


 しばらく待っていると部屋を誰かが開けた。その主を見ると国王だった。


「どうした? ずいぶん早いが忘れ物でもしたか?」


「いえ、目的の物を回収してきたので帰ってきました」


 カチ。そんな音がして部屋の空気が固まった。

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