第90話 王との対面

 王城の中に入るとそこにはたくさんの人が待機していた。そしてそのあまりにも豪華な出迎えに俺は正直ドン引きをしている。


 そんな豪華な出迎えの道を俺は歩く俺の隣には、この一週間一緒に行動してくれたスコルさんがいる。どうやら彼の仕事は俺を王の前まで俺を安全に連れて行く事らしい。


 この一週間準備と覚悟はしていたとは言え、緊張して心臓がバクバク言っている。


 それは当たり前だ。何か間違いを犯したらその場で処刑が決まる可能性すらある。その時は力技で国外逃亡させてもらうが、それには一定のリスクと気だるさがあるので出来れば取りたくない手段ではある。


 階段を登り長い長い通路を突き進みようやく目の前に大きな二枚扉が見えてきた。ここまで数え切れない人数の人の視線を集めていたので緊張のし過ぎで若干体調が悪い。


「エルビスいいな。あまり変なことはするなよ。今回は王様がお前を呼んでいるから余程のことが無い限り大丈夫だが、度を超えたら処刑だぞ」


 俺はスコルさんの言葉に無言で頷き巨大な二枚扉を開け中に入った。ここまで一緒に来たスコルさんとはここでお別れだ。


 扉の先は中世の王城に大変酷似した部屋となっており、その中には偉そうな人間が何人も王座までの通路にズラッと並んでいて、俺はその人の壁の間にある紅いカーペットの上をを緊張してガチガチに固まった体で突き進む。


 というか何処まで歩けば良いんだ? 分かりやすく線を引け! 初めてきた人が分からないだろ馬鹿!


 緊張のしすぎで訳の分からない方向に怒りが湧いてきた。そのまま適当な位置で俺は膝を立て頭を下げた。


「ごほん。お前がエルビスだな?」


 王が威厳のある声でそう言った。それに対して失敗しないように言葉を選んで返事をする。


「は、はい。そうです」


「うむ。そうか。ではお主がカインの弟子なのだな?」


「はい」


「そうか。ではこの間サリナール魔術学校にてダークオーガを討伐し、その翌日には遠く離れた黒錬金術開発特区にいたと言う話も聞いているのだが、やはりそれもカインの弟子としての力か?」


「そう……ですね」


 全然違うが説明が面倒くさい。このままカインの弟子としての力と言っても話は通じるのでわざわざ訂正する必要も無いだろう。


 そしてウソを付くのに若干どもってしまったが多分大丈夫だと思う。王から見たら俺はまだ未成年のガキだ。


「そうか。突然遠いここまで呼んでしまって悪かったのう。カインには弟子がいると最近本人から聞いてな。一度会いたかったんじゃ」


「はぁ。そうですか」


 そんなどうでもいい理由で呼ばれたのか。緊張して損した。そんな事を思っているとそれを見越したように王様はこう言った。


「ここまで無理やり連れてきた詫びとして何かお主にくれてやろう。何がいい? カインの弟子じゃ。大体の事は叶えてやる。金か? 女か? それとも地位か?」


 王が俺にそう言って来た。その瞬間一つ何とかしたいと思っていた事案について思い出した。


「では一つ。黒錬金術開発特区の存在について考え直しては頂けませんか?」


 俺の言葉を聞いた直後、王ではなく外野がザワザワ騒ぎ始めた。


「ふ、ふざけるな! あの技術はこの国を大きく発展させる素晴らしい技術だ。それを何だ!」


 俺の右側に立っていた偉そうなおっさんがいきなりそう叫んだ。


「皆の者沈まれ!」


 王の威厳のある声がざわざわとうるさい部屋に響き部屋は一瞬で静まり返った。


「エルビスよ。大体のことは叶えると言ったが、それは中々無理がある。今や黒錬金術の装備で国力は支えられておると言っても過言ではない。その源である開発特区を無くして欲しいというのは、真っ当な理由が無いと私は軽はずみな発言をしたお主を処罰せねばならぬ。理由はあるのか?」


 王が優しく俺にそう聞いてきた。周りの人はともかく王は怒っていないようだ。それならきっと話は通じる。


 俺は頭の中で言葉を整理して一番効果的な一言を言う事にした。


「先程黒錬金術が国力を支えていると言いましたよね? その国力の大半は外国にでは無く魔物討伐に使っているのでは無いでしょうか? 年々強くなる黒魔種。その原因が黒錬金術にあると言ったらどうでしょう?」


 俺の言葉を聞いた周りの反応はバラバラだった。俺のサイドの人達はざわざわと相談を初め、王は椅子から立ち上がり叫んだ。


「やはりそうなのだな! 私の推察は正しかったのだな」


 どうやら王様は何となく気が付いていたようだ。だから俺の発言に怒ったりせずに理由を聞いたのかも知れない。


 だが俺の言葉に素直に反応してしまった王はまずいと言う感じの顔をして咳払いをした。


「あーあれだ。お前の言葉を信じたいのは山々なのだが、カインの弟子というだけではいささか説得力が無い。信じてほしいのならお主の実力を証明して貰いたい。それに加えて明確な証拠も提示してもらえぬか?」


「では保存の鏡で僕の記憶を移して証明になる映像を映します。それでどうでしょう?」


 正直黒の魔窟で回収した日記を見せるのが効果的だと思うが、あの黒ローブの男カイトを指名手配出来るいい機会だ。あいつに初めて出会った時の映像を見せてやろう。


「ふむ。記憶の改竄はそう簡単に出来ない。いい証明方法だ。分かった保存の鏡とそれを映す魔道具はこちらで用意しておこう。ではそれまでの間にお主には力の方を証明してもらおう。私に付いてこい」


 そう言って王配すから立ち上がり俺の横を通り抜け二枚扉を押し開けた。すぐに俺も王様に追随した。


 先程と通った道とは違う階段を下り数える程度のメイドさんしか居ない廊下を歩く。そしてここでようやく緊張が解け始めた。


「あの、王様は黒錬金術が諸悪の根源と気が付いていたんですよね? なら何であの開発特区を作ったんですか?


「エルビスよ。あまり大きな声で黒錬金術が諸悪の根源など言うでない。先程も言ったが我が国は黒錬金術に頼りきりだ。王宮にもその開発者を雇っている貴族やそもそも貴族自身がその絶大な力に魅入られていたりする者もいる。誰かに聞かれたら殺されかねぬぞ」


「そ、そうでしたか。すみません」


「構わぬ。それで話を戻すが、我が国の王の力はそこまで強くない。特にあの黒魔種が出てきてからはそれが顕著じゃ。黒錬金術のせいでそれまで力が弱かった貴族も少ない兵で力を付けておる。余程のことがない限り開発を辞めさせるなんて不可能じゃ」


「だから拒否しきれずに計画が勝手に進行してしまったと?」


「そうじゃ。そう言う私も最初は黒錬金術の魅力に囚われていた。だがなある事件が起きて気が付いたんじゃあれが全ての根源と」


 そう言って王がとある一室の扉を開けた。その部屋は可愛らしい女の子の部屋なのに、それを覆い隠す程の恐ろしい量の魔素で満ち溢れていた。


「こ、これは……酷い」


 思わず口に出た言葉を王様は聞き流してくれた。そのまま俺は部屋の真ん中に配置されているベットの方に呼ばれた。


 素直にベットの真ん中に行くとそこには真っ青な顔をして苦しそうに呻いている女の子がいた。


『これは酷いのじゃ』


 ノータが俺の頭の中でそう言った。俺も同感だ。


「王様。彼女は一体?」


「ああ、この子には幼い頃からある能力があるのじゃ。自然と調和してそのエネルギーを借り絶大な魔力を振るうというな。じゃが生まれて数年たった頃から体調を崩す日が増えたのじゃ。その時は病弱な子なのだと思っていた」


「多分その時期に黒錬金術が本格的に研究され始めたのでは?」


 咄嗟に俺は口を挟む。その言葉に王様は頷き話を続けた。


「そうじゃ。それに気が付いた時にはもう国力の大半を黒錬金術製の装備に任せていた。私はなんとか止めようと色々調べたんじゃ。すると黒錬金術師のする黒錬金術の説明と実際に起きている現象に違いがあるのが分かった。あの技術は自然エネルギーをそのまま錬金物に込めるんじゃ。道理であんな絶大な力を生むわけじゃ」


「自然のエネルギーのバランスを壊す黒錬金術と貴方の娘さんは絶望的に相性が悪いと言うことですね?」


「そうじゃ。それどころか黒錬金術によって生まれた反発エネルギーをエリシアは吸収してこんな状態になる」


「では僕の力試しとはこのエリシア様を救うと言うことですかね?」


「そうじゃ。ヒントは一応ある。ここから北にずっとずっと遠くに行った所に冬に咲く花畑があるらしい。そこの花が一時的に体内の魔力や自然のエネルギーを中和する効果があるらしい」


 おや? そこには行ったことがあるぞ? どうやら俺の力だめしはすぐに終わりそうだ。


 王様の想定時間は相当長いだろうからついでにエグドラスの所に寄って何かいいアイテムを貰ってこよう。

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