第四章 王宮依頼編
第89話 王宮からの呼び出し
教室の戸を開けると豪華な装飾が付いたキラキラとした服を着た貴族のような人と三人の兵士がいた。
これは一体どういうことだろう?
時は遡り本日の朝だ。
シルヴィとのデートから数ヶ月が過ぎた。この数ヶ月はこれまでの騒動が嘘だったのかのように静かに緩やかに時間が流れていた。
そして今日は俺がサリナール魔術学校に入学してからちょうど1年が経った進級の日だ。
そんな日に限って問題が起きるのが世の常だと俺は思う。少なくとも俺の人生に置いてはそうだと断言できるだろう。
朝起きてからシルヴィにおはようの挨拶をしてご飯を食べそして学校に向かう。それが最近の俺の日常。そこに今日は無駄に豪華な馬車と大量の兵士が入り込んできた。
「シルヴィ。もしかして今年の新入生って王族だったりするのかな? 何か知ってるか?」
「さぁ? どうなんだろうね。でもこんなにたくさんの馬車と人は見たこと無いし、王女様なのかなぁ」
小首を傾げながら大量の馬車を見るシルヴィ。そして遠くから俺を呼ぶ声がする。クラウドだ。
「エルビスくーん!」
息を切らしながら俺の元まで走ってきたクラウドは立ち止まると一度深く深呼吸をして俺の方を向いた。
「すごい馬車だね。朝から寮の先生が慌ててたよ」
「ほー。そう言えばサレンは?」
「あぁ。彼女ね。うん。エルビスくんの武器に魔法を付与する技を覚えてから彼女変わったね」
若干引きつった笑いを浮かべるクラウド。
何故そんなに顔を引きつらせているのだろうか? そう思ったが彼が毎日サレンの特訓に付き合っていると言う事実を思い出した。
ありがたい事に俺がサレンと修行するとシルヴィが拗ねるので俺は参加していない。
「教えるって言っても剣圧に関してはサレンにその技術を習得出来る素質があったとしか言えないしな。それと彼女の未来眼が上手くマッチして化け物みたいな強さになったのは俺のせいじゃない。俺のせいじゃない」
「何で二回言ったの。ってそれは良いんだけど、僕はただ殴られる藁人形みたいなものなんだよ? ちょっとくらい助けてよ。あの化け物を生み出したのは他ならぬエルビスくんだよ!」
クラウドが必死に俺の肩を揺さぶる。その必死さに俺の視界は激しくブレ世界が3重くらいに分身して見える。
「俺は……。シルヴィが拗ねるしなぁ。カインさんも居るし良いだろ?」
「カインさんも一緒に僕を攻撃するの!」
クラウドが俺の耳元で叫び、キンキンと耳鳴りが発生した。そんな俺はクラウドを落ち着かせるため言葉を選んで宥めるようにクラウドに言葉を発した。
「それは良くないな。あくまで修行対象はサレンだしな。後で怒っておくよ。俺に任せてくれ」
「本当? 本当に頼むね。あんな近接ゴリラ僕じゃ手に負えないからさ」
クラウドが安堵した顔でそう言った瞬間、体の底から底冷えするような冷たいそしてドスの聞いた声が飛んできた。
「何の話をしているのかな? クラウド君。私もう少し詳しく聞きたいなぁ」
以前の無口だったサレンさんは何処に行ったのだろう。そんな感想が突発的に頭に浮かぶほどメンタル的にも行動的にも変わってしまったサレンがそこにはいた。
クラウドの双眸の瞳からは涙がポロポロと流れ彼の顔は真っ青になっている。そんな状況下でシルヴィが俺の肩を叩いてきた。
「どうする? エルビス。サレン暴走してるけど」
「触らぬ神に祟りなしだ。クラウドの冥福だけ祈って教室に行こう」
俺はクラウドに数秒黙祷をしてその場を去った。数秒後背後からクラウドの悲鳴が聞こえ地面にクラウドが捨てられた音が聞こえた。
恐らくサレンがクラウドを連れて教室まで来るだろう。そう思った俺とシルヴィはそのまま教室に向かった。
さてここで冒頭の話に戻るわけだ。
これは一体どういう事だ? 何で貴族がここに居るんだろうか? 申し訳無いが幾度もクラス対抗戦に負けボロボロな教室と華やかな彼らの存在があまりにもマッチしない。
彼らは立体映像とか言われた方がまだ納得出来る。そんな異様な光景を前に俺は教室の扉を閉めた。
「よし! シルヴィ今日は街で遊ぼう」
「いいの! やった。私エルビスと行きたいところがあったんだぁ」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるシルヴィ。彼女の了解も得たしじゃあ街に行くとしよう。
俺はくるりと踵を返して教室とは逆方向に歩き始めたその瞬間俺を呼び止めるかの様に勢いよく教室の扉が開いた。
「ちょっと待て! エルビス。王宮が貴殿を呼んでいる」
勢いよく教室の扉を開けた貴族様が俺に向かってズカズカ歩いてきた。この数ヶ月平和だった。そして俺の脳は既に平和ボケをしていた。
つまりこんないきなり王宮に呼ばれるなんて、そんな悪天候の中に突撃するなんて事はしたくはないという事だ。
だから俺は失礼が無いように貴族様に目を合わせこう言った。
「お断りします」
「そうか。じゃあこっちに来い。下で馬車が待っている」
そのまま貴族さんは俺の横を通り階段を降りていく。続いて俺とシルヴィの横を通る兵士の兜の下からは俺の反応に驚き唖然とした顔が伺えた。
「よし。シルヴィ。このまま街に行くか」
「わーい! いこいこ!」
シルヴィが嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。そんなシルヴィを見て俺の心は満ち足りた気持ちになった。
だが学校の外から先程のクラウドと同じくらいの叫び声が聞こえ、更に激しい足音が聞こえ始めた。そしてその足音は俺とシルヴィの方に向かってくる。
「エルビス! どういう事だ。王宮の呼び出しを断るなんて、あまりにもぶっ飛んだ事を言うせいで言葉を理解するのに今さっきまで掛かったぞ。問答無用だ。付いてこい。おい。お前らこいつをひっ捕らえろ」
貴族の指示にしたがって兵士が俺とシルヴィににじり寄ってくる。その瞬間平和ボケしていた脳のスイッチが切り替わった。
「やる気ですか? 良いでしょう。シルヴィ俺に掴まってくれ」
「うん」
シルヴィがギュッと俺に抱きついたその瞬間俺を中心に放射線状の電撃が放たれた。甲冑を着ていた兵士は電撃に直撃してバジバジと痙攣し始め力なく倒れた。
彼らが死ぬ程度の電撃は放っていない。精々正座した時の足の痺れ程度だ。
それでも十分脅威だと感じたのだろう。貴族さんは顔を真っ青にしながら数歩後ずさった。
「それで何の用ですか? 詳細を聞かないと行く気になれないんですけど」
「今聞くのか? これだけやって反抗して今それを聞くのか?」
「ええ。それでどの様なご用件で?」
「それは私も聞いていない。だが悪い話ではない。それは約束する。だから付いてきてくれ……いや。下さい!」
貴族ともあろうものが平民である俺に頭を下げるなど屈辱以外の何物でもないだろう。それを躊躇無くしたこの貴族はいい人なのかも知れない。
少しくらいなら信じてついて行っても良いだろう。
「分かりました。頭を上げて下さい。シルヴィ遊ぶ約束はまた今度だ。ゴメンな」
「いいよ。気にしないで。行ってらっしゃいエルビス」
「行ってきますシルヴィ」
俺は軽くシルヴィに手を振り貴族について行った。貴族さんに案内されたのは先程の豪華な馬車だ。どうやら俺のためにここまで持ってきたらしい。その馬車に貴族さんと相席で座ることになった。
「そうだ。貴族さん。さっきの兵士さん達に謝っといて下さい」
「あ、あぁそうだな。分かった」
貴族さんが頷いたのを確認した瞬間馬車が動き始めた。そんな馬車にガタゴト揺られ丸一日後遂に王城に付いた。
想像の数十倍でかい王城と派手な出迎えのパレードに俺はドン引きしていた。何だこのパレード。勇者の凱旋みたいな豪華さだ。
人の視線がすごく痛い。キラキラとした好奇の目。彼らの何割が俺が理由も分からず輸送されていると知っているのだろうか?
「エルビス様の御入城!」
そんな大声が馬車の外から聞こえ大きな地響きと共に城門が開く音が聞こえた。そしてその数秒後馬車が前進し始め俺は遂に王城に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます