第88話 帰還

※少し短いです

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 さて、シルヴィとのデートで冬場に咲く花畑まで来た訳だけど……ここからどうしよう。


 ノータ先生何かないですか!


 俺は心の中でノータに助けを求めた。するとしばらく考えるような声をノータが出した後こう言った。


『じゃあ、海でも言ってみたらどうじゃ? 冬じゃけど』


 もう適当である。後は自分で考えるか……。ノータに頼り切っても仕方がないからな。


「じゃあ、久しぶりにリーナスの街に行ってみるか?』


 俺とシルヴィが改変前の時間軸で何度も遊びに行ったおなじみの街だ。あそこなら昨日の騒動の影響も受けていないし、俺がゲートを開ける数少ない場所だ。


 俺の提案を聞いたシルヴィは目をキラキラさせ俺の手を掴んできた。俺の手を掴むシルヴィの手は力強い。相当行きたいらしい。


「行こ! 久しぶりだなぁ……。リーナスの街」


 ふと思ったがリーナスの街は存在しているのか? 6年前に結局あの場所はドラゴンたちに破壊されたと聞いたけど、近くにあるあの街も巻き込まれた可能性はとても高い。


『問題ないのう……。たしかにドラゴンの攻撃を受けたようじゃが、再建しとるらしいぞ』


 そうか。なら問題ないな。


『ゲート』


 再度空間を捻じ曲げ開いたゲートの中に俺達は入り込んだ。真っ暗な空間を突き抜けた先には驚きの光景が視界いっぱいにあった。


 かつてあった普通の中世のような町並みは、何処かに消え工場のような建物の煙突から紫色の煙を排出して、空を黒く染めるそんな工業都市のようなものになっていた。


 もちろん商店街は残っておりデートに支障はないだろうがそれでも驚きである。


「う、うわぁ……。すごく変わったね。見る影もないってやつかな?」


「そうだな。びっくりした。と言うかこの辺りの管理してるのシルヴィのお父さんだろ? 何してるんだ?」


「うーん。うーん。そう言えばここら辺はドラゴンの影響で、完全に破壊されたから手放したみたいなこと言ってた気がする」


『主様よ。分かるか? ここにある建物全部、黒錬金術に由来するものじゃぞ』


 そうは言われても手を出すわけにも行かないだろう。町の入口にはものすごいごつい装備をした護衛が4~5人立っている。


 あれは全部黒錬金術製だ。街の中にも同じ様な装備をした人達がいるんだろう。


「どうする? 帰るか?」


「えーせっかくだし見ていこうよ」


 シルヴィがそう言うなら仕方がない。気持ち的に楽しめないかも知れないが、シルヴィが楽しんでくれるのならそれでいいか。


 俺達は護衛がたくさん付いている門を通り抜け街の中に入った。


「空気が汚いな。ざらついてる」


「うんそうだね。と言うか崩壊した街がなんでここにあるのかな?」


「そうだなぁ……。もう既にゼオンさんの管理を離れていると考えると、誰かが町の運営をしてるんんだろうけど」


『主様よ? そこの看板見てみろ』


 ノータがそう言ったが「そこ」がどこか分からないので、キョロキョロしていると商店街の看板に『この街は国有地です。窃盗、盗難、工作行為などは厳重に処罰します』と書いてあった。


 この街を管理しているのが国なのならこの発展性には納得ができる。


 どうしようか? あんまり気が進まないけど王宮に乗り込んで止めさせるか? これについては後でゆっくり考えるか。取り敢えず偵察をしておこう。


「じゃあシルヴィ。何処に行く?」


「うーん。何処見ても黒錬金術に関連する建物ばかりだね」


「そうだなぁ……ってこれゲームセンター?」


 俺の目の前にはこの異世界に完全に場違いな日本によくあるゲームセンターが立っていた。


 その瞬間理解した。この街の管理は国営かも知れないが、協力しているのはあの黒ローブの男カイトだ。


 以前黒の魔窟に行った時に見た手帳……日本人転移者は確かにこの世界に居る。そして一人はあの黒ローブの男だ。


 あいつが協力しているならこのゲームセンターにも納得ができる。


「すごいピカピカしてガヤガヤうるさいね。入る?」


「いや、なんか嫌だ。別のところに行こう」


 俺達はゲームセンターから離れた。余談だがゲームセンターの中にはかなりの人数の人間が居た。


 改めてこの街を見ると所々に元の世界の技術が取り込まれており効率化されている。


 あの男、もしかしたら街運営がうまいのかも知れない。黒錬金術に手を出さなければ良い領主になれたかもな。


「街も一通り見たし帰るか?」


「うーん。エルビスもここあんまり楽しそうじゃないし。帰ろっか」


「なんかゴメンな?」


「ううん。気持ちは分かるしいいよ」


 俺達はその場で即座に帰還した。リーナスの街を訪れたことで、国に完全に目を付けられたなど想像すらせずに。

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