第86話 好きってなんだろう?

 という訳で火竜エグドラスから強奪した柄だけの剣と折れた先の剣を携えてシルヴィ達を迎えに行く事にした。


「それで主様よ。お詫びの品のようなものは渡すのか?」


 そうだね。どの口でソレを言うのか分からないけど助かったのも事実だしノータに文句を言うわけにもいかない。


「なにか良いものあったりするか? ノータ」


「ん? 適当にディーネでも泣かせて精霊の涙を回収すれば良いのではないか?」


「天才だなぁ。それでいいか。さっき逃げた罰として泣かせておこうかな」


「ちょっと待って下さいよ! それノータでもいいじゃないですか!」


 先程消えたディーネが突然帰ってきた。


 今言った泣かせるって話は冗談なんだけどな。ノータは知らないけど。多分本気でそう思ってるだろうけど。


「なんで儂が泣かされ無くちゃいけないんじゃ? そう言うのはディーネの仕事じゃろ?」


「え? そうなんですか? 泣かされるのが私の仕事ですか? マスターが望むのなら泣きますけど」


「いや、いいからこっちでなんとかするから」


「本当ですか? でも何もお詫びとかしないと怒られるかも知れませんよ?」


「じゃあこの剣をお詫びとして渡すか」


 俺は腰に差してある剣を手にとった。精霊宿しの剣なら問題ないのでは?


「あーあのな。多分大丈夫だと思うぞ。そのエスビスが壊した剣、獣人族の国に行った時に量産品として見たことあるからな。ぽっきり折れるってことは量産品だろうしな。気になるならいつか獣人族の国に行った時にでも買い直せばいい。まあ高いけどな」


「カインさん。もっと早めにそれを言って下さい。じゃあ取り敢えずこの件のことは内密にしていつかその獣人族の国に行った時に買い直してこっそり戻しておきましょうか」


「ああ、それでいいと思うぜ。じゃああのガキどもを呼び戻すぞ。教員塔も崩壊したから煉獄の門も気にしなくて良いだろうし。一部倒壊した学校は国から支援金が出て修復するだろうしな」


 □


 再び開いたゲートで火竜エグドラスの居るダンジョンの前まで来た。先ほど来た時と違うのは吹雪が吹いている事だ。


「寒い……。私引き篭もってます」


「儂も剣の中に帰るのじゃ」


 精霊の二人は剣の中に消えてしまった。カインさんと二人だ。


「いいな。剣の中って温かいのか? 俺寒くて凍死しそうだよ」


 カインさんが自分の体を抱きしめて暖を取りながらそう言った。


 それはそんな薄い服を着ているからではないだろうか? 胸当て以外ほぼ上裸だし寒い土地で上裸でいたら凍死するのはまぁ当然と言った所だ。


「何か上着とか無いんですか?」


「あるぞ。魔族領に行った時に着てた。毛皮の服がな」


「じゃあそれ着て下さい」


 俺がそう言うとカインさんは魔法袋から毛皮のコートを取り出した。そのまますぐにコートを着た。


「着ても寒いな……」


「前、閉じて下さい」


「走ってダンジョンに入ったほうが早い!」


 カインさんは足を高く上げて雪を掻き分けながらダンジョンに走っていった。


 カインさんが走った後にできた雪の道を俺も走りダンジョンに入り込んだ。


「ふぅ。ここは温かいな」


 そう言ってカインさんは即座にコートを脱いだ。どんだけ上裸になりたいんだ?


「じゃあ行きましょうカインさん」


 俺は巨大な扉を押し込み中に入った。


「おお、エルビスか。上手くやったみたいだな。煉獄の門の反応は完全に消えたぞ」


「はい。無事終わったので預かっていたみんなを変えて貰いに来ましたよ」


 ダメだ。剣ことがバレないか不安で敬語になってしまった。


「なんだ? どうした。エルビスよ。お主前からそんな話し方だったか?」


「だ、大丈夫だ。問題ないよ。じゃあまた今度来るから。そう言えばみんなは?」


 辺りを見渡したが何処にもみんなはいない。


「ああ、安全を確立するために別空間に閉じ込めておいた。すぐに出せる。少し待て」


 火竜がそう言って足元にある水晶を踏み潰した。その瞬間砕けた水晶が光り輝きそこから人影が出現した。


「あれ? エルビス? もう帰ってきたの?」


 シルヴィが俺を見て不思議そうな顔をしている。


「ああ、ただいま。じゃあ早めにハーミラに戻ろう早めにな」


「何かあったの? ハーミラで」


「うん。まぁ少しな。ハーミラの方じゃないんだけども問題があったから帰りたいなって」


「エルビス……。なんか歯切れが悪いね。何かあった?」


「後で話そっかな。ここじゃ場所が悪いし」


「エルビス体調悪い? 汗ダラダラ垂れてるよ?」


 それはさっきからエグドラスが宝の山をゴソゴソ漁ってるからだよ~。なんて言えないのでバレる前に早く帰りたい訳なのだが……。


「く、クラウドとサレンさんも大丈夫か?」


「うん。僕は大丈夫だよ。サレンさんはどう?」


「私も大丈夫。早く帰ろ」


「何だもう帰るのか? エルビスよ。もう少しゆっくりしたらどうだ?」


「いや、街のこともあるから帰るよ」


 俺は火竜の前で再びゲートを開きハーミラへの道を作り出した。そしてそのままみんな一緒にハーミラの街に戻ってきた。


「うわっ。学校どうなってるのこれ。校舎に穴が開いてるよ」


 シルヴィは校舎を見た瞬間驚きの声を上げた。その穴は俺がぶつかった時に出来た穴です。


「あれ? 教員塔壊れてるよ。どうなってるの?」


 クラウドが倒壊した教員塔を指差した。


 それは黒ローブの男が悪いので俺じゃないです。


「あそこ、魔物の死体がたくさん落ちてる」


 サレンさんがカインさんの倒した魔物の死体を指差した。俺も今始めて見た。


 山のように積まれた魔物の死体がカインさんの戦いの壮絶さを物語っている。


「どうする? このざまじゃあ学校もしばらく運営できそうにないけど、今日は取り敢えず家に帰ろうか」


「そうだね。僕も寮に帰って大人しく指示を待つことにするよ」


 その日は俺達は別れてそれぞれの居住場所に帰ることにした。クラウドとサレンさんは自分の寮に帰り俺とシルヴィは自分の家に向かって歩き始めた。


「ねぇねぇ。大人しく待ってたご褒美に何かしてよ」


 シルヴィが俺の腕に抱きつきながらそう言った。


「そうだなぁ。シルヴィは俺が何をしたら喜ぶんだ?」


「何でも良いけど、じゃあ昔みたいに一緒に街を観光しようよ。明日でいいからさ」


「分かった。明日な」


「あ、でもディーネは連れてこないでね」


 シルヴィが俺の唇に人差し指を当てた。有無は言わせないという事だろうか?


「シルヴィが連れてきて欲しくないなら連れてこないけどさ」


「やった! ありがとエスビス。大好き」


「はいはい。あんまり適当に好きとか言うなよ。そのうち勘違いする人出てくるぞ?」


「エルビスにしか言わないもん。それじゃダメ?」


 何故この子はそんなにホイホイこっちが照れるような事を平然と言えるんだ。なんて言い返せばいいかわからないぞ。


『普通に好きって言い返せば良いのではないか?』


 頭の中にノータの声が響いた。


 気軽に言ってくれちゃって、そもそも俺がシルヴィに抱いている気持ちが何なのかまだハッキリとしていない。好きなんだろうか?


『好きなんじゃないのか? 人間の恋愛云々は分からぬが、主様がシルヴィに抱いている気持ちは、間違いなく好意であるとは思うのじゃが』


 でもロリコンじゃないしなぁ。


『ロリとかロリコンとか言うがそれは問題なのか? 結局主様だって12やそこらの年齢じゃろうが。12歳の男の子が12歳の女の子に恋をする何処に問題あるんじゃ?』


 いや、だって精神年齢というか実際に生きた年はかなり行ってるぞ? 時間巻き戻してるし、転生してるし。


「転生か……。まぁそう言うのは考えなくても良いのではないか? 結局は主様が考えることじゃ。儂はアドバイスはするがそれを強制とかはせんからの」

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