第85話

 俺がダークオーガに殴り飛ばされた先には校舎があった。そのまま校舎を貫き街の方に弾き飛ばされた。


「いてて、死ぬかと思った」


「死ぬかと思ったじゃないです。マスター! 血が……血が出てます!」


 ディーネが何処からともなく出現して俺の頭からダラダラ垂れている血を止血しようと頑張っている。


 何故こんなに他人事なのかと聞かれれば……。


「ディーネ大丈夫だ。俺には苦痛完全無効があるし。さっきからふわふわしてきてて、もう大丈夫だと思うんだよ」


 先程から頭がフリーズしたように思考が全く働かない。血が出ているのに全く危機感を感じない。どうしよう。まあいいか。


「それまずいです! 血が出すぎてやばいです。どどど、どうしましょう!」


 ディーネがわたわた慌てているが回復スキルもあるし大丈夫だと思うんだよな。


「なんとかなるって唾つけとけば治るから。じゃあ俺あのダークオーガ倒して来るからあとはよろしく。おっとっと」


 足元がふらつき、躓いてしまった。こんなに元気なのに何故だろう。


 いや、まぁ現在進行系で出血してるんだけども、あと痛くないのはスキルの効果で遮断されているってのも分かるけど……先にあの化け物を倒さないと。


「ちょっと待って下さい! 今、回復させますから! テンパって回復させるの忘れていました」


 ディーネが俺の額に触り回復を施してくれたが失血した血は帰ってこない。


「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」


 俺は再び魔法で空を舞いダークオーガに吹き飛ばされた現場に向かい飛んだ。


 遠目にドークオーガを視認したが何故かダークオーガはぴょんぴょんと地面を跳ねている。


 更に近づくとカインさんが見えてきた。ダークオーガが飛んでいたのはカインさん狙いだったかららしい。カインさんはダークオーガの脚力では届かない位置に移動していてチクチクとダークオーガにちょっかいを掛けている。


「カインさーん!」


 カインさんをカバーする為に速度を上げてカインさんの元に向かった。するとカインさんが俺に気が付いた様でこちらを向いた。


「うおおおおおおおお! ってエルビスか。お前髪の毛が血で真っ赤になってるぞ。大丈夫か?」


「はい。少しフラフラしますけど戦えます」


「じゃあこれ飲んどけ」


 カインさんがカプセル状の薬を投げてきた。


「これは?」


「造血薬だ。さっさと飲んどけ魔法が込められてて即座に効果が出るようになってる」


 俺は素直に造血薬を服用した。


「おっえぇぇぇ……。なんですかこの薬おぇ~」


「吐くなよ。高いんだから。動物の内臓とかをすり潰して粉末状にしているらしい。話聞いてて気持ち悪くなったから途中で聞くの辞めたが」


 全身から猛烈な吐き気が押し寄せてまだ血を垂れ流している方が数倍マシという状態だ。


 即座に魔法で水を作り一気に水を飲んだ。


「ぷはっ。もう飲みたくない……」


「じゃあもう怪我しないことだな。であいつどうするよ。強化魔法を使って殴ろうと思ってたんだけど、どうだ? 戦えるか?」


「はい。大丈夫です。血が乾いて髪の毛がカピカピしてるくらいです」


「んじゃあ行くぞ!」


 カインさんは全身に魔力をみなぎらせ一気に降下した。


 俺も続けて降りることにした。


『龍魔法:身体強化!』


 俺の体から放たれた龍が実体化して空を舞いそのまま俺に喰らいついてきた。その瞬間身体中に力が溢れ出す。


 普通の身体強化でも良かったが万全を期して龍魔法を経由させて身体強化を発動した。ちなみに身体強化魔法は6属性のどれにも該当しないので出現した龍は無色だ。


 カインさんの方を見ると既にダークオーガと戦闘を始めていた。下手に取っ組み合いはせず大剣のリーチと強化されたスピードを活かし上手く立ち回っている。


 さすが英雄と言った所だ。


 俺はカインさんに意識を向けて上を見ていないダークオーガの真上から垂直に落下を初めた。


 どんなに強くてスピードが早かろうと不意を付けば勝てるはずだ!


「「おらああああああああ」」


 カインさんが俺の落下タイミングに合わせて攻撃を仕掛けてくれた。そのおかげでダークオーガの脳天に剣は当たった。


 だが次の瞬間俺はダークオーガの足元にいた。


 一瞬のことで反応できなかったがダークオーガの頭が硬すぎて叩きつけた剣が跳ね返って自分に当たったらしい。


 身体強化を使っているのに体重に任せた攻撃をしたことを反省しながら俺は体を思いっきりひねりダークオーガが振り下ろしてきた拳を回避した。


 背中の辺りにドークオーガの拳が辺りヒヤッとした。そのまま立ち上がりダークオーガから距離をとった。


「おいおい。しっかりしろエルビス」


「すみません。次で決めます」


「分かった俺は何をすればいい?」


「あれをどうにかして下さい」


 俺の指した方にはダークオーガとの戦闘に反応してこちらに来た大量の魔物達がいた。


「お、おう……。わかった」


 カインさんは苦笑いしながら首を縦に振り魔物の集団に突撃しに行った。


 さて、俺は目の前のダークオーガを倒そう。


 そう言えば剣は何処に行った。おかしい。さっきまで持っていたのに。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 ダークオーガの素早い攻撃を回避しながら辺りを探していると見つけた。


 俺の剣はダークオーガの頭に突き刺さっていた。なんでこれで死んでないんだ? と言うくらい深々と剣は突き刺さっていてこの戦闘中に抜くことは不可能だ。


「あまりにも平然と襲ってくるから気が付かなかった。これは拳で語るしかないみたいだな」


 俺は小柄な体を活かしダークオーガの懐に潜った。


「まず一発目!」


 俺の拳はダークオーガの腹にクリーンヒットした。更に足を蹴り転ばせた。


 剣がないと決め手にかける。


「そうだ。斬撃波を拳で飛ばしたらどうなるんだ?」


 この状況で試すのはおかしな気がするが今ダークオーガはすっ転んでるしなんとかなるだろう。


「おらあああああああ」


 剣を振ったときと同じ要領で拳に力を込め全力で振ってみた。


 その瞬間拳から何かが飛びダークオーガが吹き飛んだ。


「えっ」


 もう一度……。


 再び拳をダークオーガに突き出すと同じ様に波動が飛びダークオーガは苦しそうに後退していく。


 斬撃剣ではなく斬撃拳と言ったところか? 


 そのまま遠距離攻撃を続けているとダークオーガが見て分かるくらいに弱り始めた。


「主様よ? なんでそんな無駄なことしておるんじゃ? 剣がないなら拳を使えばいいじゃないなんて発想はディーネくらいしか思いつかないのでは無いか? 剣なら貸してやるのじゃ」


 ノータが俺に魔力の籠もった青色の剣をしてくれた。


「良いのか? 高そうだけど」


「それより早く倒して欲しいんじゃが」


「そうだな。ちょっと言ってくる」


 何度も何度も俺の拳に体力を削られヘロヘロになっているダークオーガ胴体に剣を叩きつけた。その瞬間斬りつけた部分から魔力が流れ込みダークオーガは完全に凍りついた。


 魔法に対する耐性はどうやらやつの外皮だけのようだ。ダークオーガの皮膚が硬すぎてあまり気が付かなかったのかも知れない。


「ま、マスターその剣折れてます」


 ディーネが出てきてそう言った。


 俺は手に持った剣を確認した。ノータから借りた剣は持ち手の所から先がポッキリと折れていた。


 ……。精霊が持ってた剣って何か封印されたりしてそうだよな。まずいかな?


「ノータ。これ壊したらだめなやつだったりする?」


 俺は今となっては取っ手しか残っていない剣をノータに見せながら聞いた。


「あ、問題ないのじゃ。それ火竜の所から持ってきたやつじゃから」


「「……もっと問題だよ(ですよ)!」」


「ふぅ。やっと終わったぜ。エルビスもおつかれどうやってダークオーガを倒したか見てなかったがお前のことだからとんでもない倒し方したんだろうよ。どうやって倒したんだ?」


 カインさんが能天気にこちらに歩いてきた。


 ……たしかにとんでもない倒し方はしたさ。ドラゴンからパクった剣をブチ折って倒すとかいう事故を起こしたけど!


「おい、どうしたんだ? そんなにやばい倒し方したのか?」


 ……俺話したくない……。ディーネ話してくれ。


 俺はディーネの目を見て心の中でそう言った。ディーネ達は心が読めるし伝わるだろう。


「わ、私分かりません。心なんて読めません」


 ディーネが消えた……。逃げたぞあいつ。


「なんじゃ? なんでそんなに話したくないのか分からんのう。儂が話してやろう。その主様が持っている剣は火竜の所から持ってきたものじゃ。それを使って主様はバシュッとあのオーガを狩り殺したのじゃ」


 カインさんの視線が俺の手にある柄だけの剣に注がれた。


「そ、それは大丈夫なのか? よし! もしあの火竜が怒って攻撃してきたらまた倒せばいいだろ。大丈夫だ安心しろ」


「いや、モノ盗んで壊しておいて怒ったら倒すってのはちょっと」


「たしかにそうだな。適当に貢物を渡すしかないかも知れんな」

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