第81話 回復の秘術使用後の世界
時をさかのぼり目を開けた瞬間、目の前にヴァリオン先生が座っていた。彼は驚いたように目を大きく開けている。視線の元を辿ると手に乗っていた精霊の涙が溶けるように消えていく所だった。
「なんだい? どうして精霊の涙が消えたんだ……」
ここはいつの時間だ? 情報を集めるため周りを見渡した。今現在俺は職員室にいた。最近ここに来る機会があったのはクラス対抗線の直前だったはずだ。つまりこの場における最適な回答は……
「精霊の涙は返して貰います。ヴァリオン先生」
今回は精霊の涙が回復の秘術の対価として持っていかれたらしい。元々回復の秘術は命を対価にするとは言っていなかった。なにか対価を必要とすると言っていたはずだ。つまり今回は命と精霊の涙が同等と判断されたわけだ。気持ちとしては微妙である。
「それは良いが精霊の涙は何処に行ったんだい?」
「闇の空間に収納しました。それより英雄カインさんの居場所はわかりますか?」
我ながらいい嘘だったと思う。見事に先生は騙されそのまま話を流してくれた。
「ふむ、ちょっと待って……」
そう言ってヴァリオン先生は書類を漁り始めた。その間にディーネとノータに声をかけることにした。
(二人共、時間を巻き戻したんだけど巻き戻す前の記憶はあるかい?)
(はい、今思い出しました)
ディーネが返事をする。ノータ? 反応がない。ただの屍のようだ。
(ふむ、なんというか気持ち悪いのう。記憶がごちゃごちゃしておるわい)
(ふっふっふ! 慣れですよ。慣れノータは甘いですね)
(なんじゃ? さっきまで落ち込んで出てこなかった引きこもりが!)
(ふふーん! 今さっき私が引きこもる理由であった精霊の涙は秘術の代償に消えましたー)
「……ビス君。エルビス君!」
脳内で繰り広げられる喧嘩に集中していて話を聞いていなかった。
「はい! なんでしょうか?」
「カインさんの居場所が分かったよ。三日月って言う宿に寝泊まりしているらしい」
以前俺とクラウドが泊まっていた宿だ。なるほどじゃあ早速向かうとしよう。ノータの活躍でカインさんの記憶が保存された保存の鏡は俺の手元にある。
「わかりました。じゃあ少し用事ができたので帰らせてもらいます」
「え? クラス対抗線は?」
「すみませんいけません」
そう言って謝った後俺は職員室を出た。そしてディーネとノータの連絡を取る。
「ディーネはシルヴィの所にノータはクラウドとサレンさんの所に向かってくれ。それで見つけたら三日月まで連れてきてくれ。ディーネにはシルヴィの保存の鏡を渡しておくからちゃんと使ってくれよ」
「分かったのじゃ!」
ノータが先行してクラウド達を呼びに向かった。
「ほらディーネちゃんと使えよ?」
「分かってます。マスター」
ディーネは大切そうに鏡を持つと廊下を走り始めた。曲がり角で誰かとぶつかりペコペコ謝っているのを見て不安になったが信じておこう。ディーネへの不安を抑え込み三日月の宿に向かった。
「あ、エルビスさんお久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
以前ディーネが風邪を治して上げた女の子が受付をしていた。
「カインさんがいると思うんだけど少し会いたいなって思って」
「すみません。お約束をしているなどではない限りそういうのは遠慮させていただいておりましして……」
くっ。無駄にセキュリティが高い。どうしよう。大声で呼んでみるか? そんな宿で寝いいる人達から見れば物騒な計画をシュミレーションしていると俺の背後に誰かが立った。
「おまえ確かエルビスとか言ったな。どうし……おっと」
背後に立ったのはカインだったようだ。めんどくさいのでカインさんの保存の鏡を無理やり見せつけた。その瞬間痛そうに頭を抑えうずくまった。俺にはわからないが脳内の情報が大量に入り込み混乱するらしい。
「ななな! 何してるんですか! エルビスさん!」
受付の女の子が俺のやったことを見て混乱したように叫びだした。カインさんは急に立ち上がり女の子に手を振り無事を知らせた。
「おい、エルビスこれはどういうことだ。どっちの記憶が本当なんだ?」
カインさんは依然混乱したような表情をしながら俺に質問をしてきた。
「どっちも本物です。今思い出したのは言わば未来の記憶です。それは分かっているんでしょ?」
「俺は未来を思い出したのか? それともお前がまたとんでもパワーで時間でも巻き戻したのかどっちだ?」
「後者の方です。今からカインさんが殺したテンペル山に住む火竜エグドラスに会いに行って襲撃を辞めさせます。付いてきてください」
「それは良いがそうすると術が起動するだろ? 先に魔法陣を止めに行ったほうが」
「未来視能力者と魔眼の持ち主は今からこちらに来ます。精霊の涙はこちらで処分しました」
「おいおい。まじかよ。やるじゃねーか。つまり後は火竜エグドラスだけということだな」
「はい。まぁ煉獄の門は後回しで問題ないと思います」
カインさんとその後軽く話しているとシルヴィが俺のもとまで来て抱きついてきた。そのまま地面に押し倒された。く……首が首が閉まっている。
「し、シルヴィ息……息が」
「あ、ごめん。でもまたエルビスがあれを使うなんて思ってなかったからディーネがこっちに来た時はびっくりしたよー」
そういいながらシルヴィは地面に押し倒されたままの俺に更に激しい抱擁をしてきた。
「主様! 二人を連れてきたのじゃ」
「どうしたの? エルビス君急に今からクラス対抗戦だよ?」
「エルビスこいつらが例の二人か?」
「そうですね」
俺がカインさんの質問に肯定するとカインさんは二人の方を向いた。
「お前らの命が少々狙われているんだ。申し訳ないが少し付き合ってもらう」
「どういう事? エルビス、さっきから未来が見えないんだけどなにか関係があるの?」
みんなが俺に質問してくるから俺のほうが混乱してきた。面倒くさいからまとめて説明するとしよう。
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