第82話 突撃テンペル山

「取り敢えず、そうだな……学校にドラゴンが襲撃してくるから付いてきて欲しい」


「う、うん。よく分からないけど分かったよ。付いていけば良いんだね?」


「私も問題ない。付いていくよ」


 クラウドとサラサさんが一緒に付いてくると言ったので取り敢えずの問題は解決した。これで教員塔にいるカイトに二人が襲われる可能性は無くなった。


「しかしどうやってテンペル山に向かおうか……エルビス何かいい手はあるか?」


「いえ、名前しか知らないので正確な場所も知りません」


「あぁ、知らなくてもしょうがないか……隣国のライナン王国だ。しかもライナン王国の最北端だがらとんでもない距離がある」


 ……中々計画に無理があったな……


「じゃあ……エグドラスの通過するルートを予想して待ち伏せるとかどう? エルビス君」


「うーん……エグドラスが真っ直ぐこちらに来るという保証がないから怖いな。そう言えば、ノータが俺を異世界に呼びつけた事があったな。ゲートを利用して何とかならないか?」


「ふむ。できるのう」


 ノータの発言を聴きカインさんが大きなため息を付いた。


「はぁ……そうか、できるのか……ん? できるのかじゃあそれでいいだろ! 早くしろよ。全く驚かせやがって」


「ゲートは行ったことがある場所にしか繋げないはずなんだけど、ノータは行ったことがあるのか?」


「そうじゃ。行ったことがある。では開いて良いかの?」


 俺の返事を聞かずにノータがゲートを開いた。ただ俺が作ったゲートと違い禍々しいオーラを放っており、更に闇のゲートはくぐるまで先が見えないので先に偵察する人が必要だ。


「どうしたんじゃ? 入らないのか?」


 ノータが不思議そうな顔をしてキョトンとしているが俺達一同は少々ビビっている。俺達が目で誰が先に入るかという不毛な争いをしているとノータが作ったゲートに一匹の動物が入っていった。ノータの作った世界で拾ってきた恐竜のポンタだ。


「GYAUGYAU」


 ポンタは俺の方を見て一度頷くと闇のゲートに飛び込んでいった。しばらくしてポンタが口に何かを咥えてゲートから出てきた。


「GYAUGYAU」


 ポンタが俺の前に来ると咥えていた木の枝を足元においた。向こうは森か林か木があるのは間違いない。


「じゃあ……俺行ってきます」


「よっし! 行って来い! エルビス。死んたら骨は拾ってやるからな」


 カインさんの渾身のガッツポーズを見てイラッとしたので、いつかカインさんが忘れた頃に何か仕返しをしてやろう


「では行ってきます」


 俺は勇気を振り絞り禍々しいオーラを放つゲートに入った。一瞬の息苦しさの後に目に入ったのは溶岩で熱い火山ではなく雪の被った綺麗な山だった。


「どうじゃ? 主様よ。綺麗じゃろ」


 ノータがゲートを潜りこちらに出てきた。


「うん……いい景色だけど、寒いこれ頂上まで登れないぞ」


「大丈夫じゃ。エグドラスがいるのはこの山に同化しているダンジョンの中じゃ。そっちは温かいと言うかむしろ暑いはずじゃ」


「GYAUGYAU」


 ポンタが俺の足にスリスリ体を擦り付けて暖を取っている。


「主様。皆を呼ばなくていいのか?」


「ああ、そうだった」


 俺はゲートの元まで歩きゲートに片手だけ突っ込んだ。そのまま片手でこっちに来いと合図をした。しばらくするとカインさんが出てきた。


「お前なぁ。向こうからその合図、どう見えたか分かってるか? 片手だけ宙に浮いているの想像しろよ。女性陣叫んでたぞ」


「マジですか…‥というかカインさん寒くないんですか? そんな薄着で」


「寒いな……ちょっと帰っていいか?」


「だめに決まっとるじゃろ。寒いなら向こうにあるダンジョンに駆け込め入口なら安全で温かいのじゃ」


「本当か! ちょっと行ってくるぜ」


 カインさんが早足で山の麓にあるダンジョンに駆け込んでいった。俺も早く入りたい……次に来たのはシルヴィとディーネだった。


「私のほうが先につきましたぁ!」


「そんな事ありませんー! 私の方が先にゲートに入ったもん!」


「そんな訳無いですぅー精霊パワーで私の方が早く着きました!」


 今日も元気に喧嘩をしているお二人さんは寒さなんて気にせず、ゲートの側でぽかぽかじゃれ合う様な叩き合いを開始した。


 その次に入ってきたのはクラウドだった。飛び込んだ先はシルヴィとディーネの叩き合いのど真ん中、ディーネがシルヴィに繰り出した蹴りがクラウドのお腹に直撃してシルヴィが投げた雪玉が顔面に当たった。


「痛い! 冷たいぃぃ。なになに!」


 混乱したクラウドは後退りして近くの木の根っこに躓いた。その振動で木の上に積もっていた雪が落ちてきた。


「ああああああ無理無理! 冷たい冷たい」


「クラウドとやら、寒いのなら向こうのダンジョンに入るんじゃ。カインがすでに居る」


「わ、わかりました。ありがとうございます」


 クラウドが全力でダンジョンの方に駆け出した。途中何度か転んだが無事付いたようだ。最後に来たのがサレンさんだ。


「……寒い。えっと……ポンタおいで」


 サレンさんがポンタを呼ぶとポンタは俺から離れサレンさんに抱かれた。


「エルビス……他のみんなは何処に行ったの?」


「向こうのダンジョンに行った。もうみんな来たし一緒に行こうか」


「うん」


「エルビス! 私も忘れないでよ。いるよ私も」


「マスター私もいます!」


 シルヴィとディーネが激しい自己主張を初めた。うるさいからスルーしてたんだけど……


「二人共喧嘩するなって何時も言ってるだろ?」


「うぅ……だってエルビス! この精霊女がうざいんだもん」


「このバカ女がマスターがマスターのいない所でマスターの昔話をいつもいつも披露してくるからです。私だって知ってますよ! 特にシルヴィがいなかった6年間の事とか!」


「ああああ! ずるい。私だって知りたかったもん」


 一度仲裁を入れたはずなのに更にヒートアップし始めた。


「いい加減にせぬか! 下らんことでいつまでも喧嘩しおって。ディーネお主、子供と脳みそのレベルを合わせてどうする。大人の対応をせい」


「うぬぬ……分かってますよ。もう! ノータのバーカ」


「はぁ? 貴様舐めてると泣かせるぞ」


「かかってこいやぁ! ノータなんて怖くないです。あっかんべー」


 その瞬間ノータの周りに膨大な魔力が集まり始めた。黒い魔力が空を暗く染め

 白い雪も黒く染まっていく。


「あ……やばいです。マスター、ノータを怒らせていまいました」


 結局二人共子供だったようだ。喧嘩のレベルが子供で今の魔王のようなオーラを放つノータですら子供に見えてきた。


「さぁ、サレンさん。後もう喧嘩しないのならシルヴィも一緒にダンジョンに行こう。あの二人は放置しておこう」


 俺達が温かいダンジョンに入った頃地面が大きく揺れた。どうやらノータの本気の一撃がディーネに当たったようだ。

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