第80話 回復の秘術発動

 理解したくないことが多すぎる。ふらふらと客室を出る。


「おい、大丈夫か? 深呼吸しろこの先には煉獄の門がある何が起きるかわからないからな」


「そうじゃ、ここからは一歩踏み間違えたらこの大陸の人間どころか命を持つ生命体は全滅するぞ。悲しむのは後にしてくれ、主様よ」


「そう……だな。はぁ~~行くぞ。開けるぞ……」


「ああ、こっちは準備できている」


「妾もできているのじゃ」


 ドアを開けようと気を引き締めた瞬間ドアが勝手に空いた。俺達全員とっさに後ろに飛び下がった。校長室から出てきたのはクラウドだった。だが様子がおかしい。こちらが見えていないようだ。


「ひっ、主様よ。見てはならん!」


 ノータが俺に飛びかかってきたがもう既に遅かった。見えてしまった。クラウドの両目がしっかりとえぐり取られているのが……


「く、クラウド……」


 俺の声に反応してクラウドがこちらを見た。


「エルビス君いるの? 逃げて……この先には校長先生が……あがっ!」


 口から急にクラウドが吐血した。そしてクラウドの服が徐々に赤くなる。


「逃げるなよ。うるさいなぁ余計な観客を連れてきやがって」


 クラウドの後ろにいたのは高身長でなかなかのイケメン顔で黒髪日本人を彷彿とさせる姿をしている。彼が噂の校長先生だったようだ。校長先生はクラウドの腹を剣で貫き満足気にニヤついている。


「クソやろう! 人の良心がないのか」


 カインさんが大剣を取り出し校長先生に突撃した。その剣を校長先生は片手で受け止めた。


「そんなにカッカするなよ。どうせ今から全員死ぬんだからさ」


「死にたいならてめぇだけ死にやがれ!」


 カインさんがぶんぶん剣を振っているがその全てをあっさりと回避していく。カインさんが戦っている間に俺はクラウドの元まで駆けつけた。


「大丈夫か? ちょっと待て。今すぐ回復薬を……」


「ありがとう。でも僕より今のうちに奥にある魔法陣を破壊して欲しい。あれを破壊しないとどのみち死ぬんだしお願いだよ……」


「ディーネ! いい加減に引きこもってないで出てこい!」


 俺の声に反応してディーネが申し訳無さそうに出てきた。


「その、すみません」


「良いから……クラウドを頼む」


「わかりました」


 ディーネにクラウドを任せ俺は校長室に走った。教室にはフードを被った男がいた。


「は? 黒ローブの正体は校長なんじゃないのか? お前は誰だ」


「ハハハハハハ久しぶりだね。エルビス君以前君の幼馴染を殺した時以来だね、まぁ僕は覚えていないんだけど、君が僕を探して関係ない人を疑う姿は実に滑稽だったよ。この日記帳に書いてあったよ」


 黒ローブがひらひらと見せびらかすその手帳こそ俺が6年前に見たあの手帳だった。黒く豪華な装飾がなされた高そうな手帳だ。


「過去の僕は未来のことを書いた手帳と言っただろ? あの時の言葉は訂正しよう。この同期の手帳、これは存在する全ての時間軸の同一存在の手帳と情報を共有するんだ。だから君が巻き戻した時間以前のこともそれ以降のこともしっかりと書いてあるんだ」


 そんなバカな……この後の動きも全て知られているということだ。


「そう……ここで煉獄の門は起動しない。君が命を対価に時間を巻き戻すからね。でもそこからの情報がかなり曖昧なんだ。それが知りたくてここにいるわけなんだけど。どうだい? なにか心辺りは?」


「あるわけ無いだろ、あったとしても話はしない」


「そうだよねぇ……ほら時間巻き戻さないのかい? この手帳に書いてあることは絶対だ。なんせ未来の僕が直々にこの手帳に見たことを書いているんだからね」


 巻き戻せるなら巻き戻している。というかさっきから発動しようとしているけど途中で打ち消されているんだ!


「んもう! 君が発動しないなら良いよ。煉獄の門起動!」



「やめろ!」


 俺は黒ローブに飛びかかったが、その瞬間魔法陣が赤く光りだした。そして恐ろしい勢いで魔力が放出し始めた。放出した魔力は天井を破壊して空に赤い雲を作り出した。俺の力は一気に抜け地面に転がった。


「クックックまさか発動するとは、この手帳が間違えるなんて初めてだ」


 高笑いを始める黒ローブ……廊下から走ってくる音がする。


「マスター! 今から命を吹き込みます。そしたら煉獄の門に奪い切られる前に回復の秘術を発動して下さい!」


「そんな」


 口からかすれた声が出てくる。


「そんなのは無理だ。さっきから何回も使ってたけど一回も実行できなかった」


「大丈夫です。こいつが煉獄の門を起動した瞬間、天界から回復の秘術使用要請が下りました。今のマスターならどんなものでも回復できます!」


 そう言ってディーネがキスをして命を吹き込んできた。干からびていた手に張りが戻り意識がしっかりと戻っていく。この瞬間にも煉獄の門に命を吸われてはいるがディーネの回復量のほうが上だ。


 キスをされながら周りを確認するとニヤニヤしながら平気そうな顔で黒ローブはこちらを見ておりカインさんと校長は完全に力尽きていた。


「ありがとうディーネ」


『回復の秘術』発動!


 俺の体を中心に全てを再生する……いや、全てを元に戻す波動が放たれた。その波動は煉獄の門と衝突し煉獄の門をかき消した。更に波動は広がり視界はホワイトアウトしていく。時間が完全に巻き戻る直前黒ローブが一言、言葉を発した。


「僕はカイトだ。覚えておけ」

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